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神殺戦艦『金剛』 無敵の俺と電脳な私  作者: 井上欣久
宇宙戦艦襲来 分離装甲艦『金剛』
35/69

2-17 補給という言葉の意味は?

 逃走したヒサメの後を追ったリョウハだったが、追いつく事は出来なかった。

 肉体の移動の速さなら勝負にもならないが、船内移動用のカーゴに乗られてしまったようだ。行き先が分からなければ追いかける事も出来ない。


 どうせ聞かれているだろうと言葉で呼びかけてみたが、返事はなかった。

 お姫様の機嫌をとるのも大変だ。

 そう嘆息したが、必ずしもそれを嫌がってはいなかった。


 通信が入った。レツオウ司令からだ。


「リョウハくん」

「もう聞きつけたのですか?」

「何の話だ? また何かやらかしたのか?」


 藪蛇だった。


「また一枚、始末書が増えるかも知れませんが緊急性はありません」

「そうか、その話は後で聞こう。君の宇宙機、ヤシャの調子はどうだ?」

「初の実践運用の直後ですから本来なら分解整備をお願いしたい所です。ですが、体感としては今のところ調子は悪くありません」

「それは良かった。実は、つい先ほどヒサメ君から提案があった。補給作業を簡単に終了させる方法があるそうだ」


 つい先ほど、という言葉にリョウハは不安を覚えた。それは情緒不安定なヒサメが提案したという事ではないか?

 止めるべきか否か、思案している間にレツオウは話を続けた。


「少々強引な手段になるが、私はこの提案に乗るつもりだ。誰だかわからない者のために補給を諦め、我々が運んで行く物資を心待ちにしている者たちを失望させる事など出来ん」


 レツオウが大局を見てそう決断したのなら、もはや言うべき言葉はない。


「行動開始は1時間後だ。それまでに君は食事を済ませ、シャワーでも浴びておきたまえ。兵装については格納庫にヒカカ班長たちを向かわせた。正体不明の存在の妨害が来る可能性がある。君は万全の体制を整えていてくれたまえ」

「了解です」


 不安ではあるが、ヒサメをなだめるのは後回しだ。どうせ彼女はこの船そのものと言っても良い存在だ。彼のやることなどすべて見ている。ヒサメが何かやると言うのならそのサポートに全力を尽くす。それがベストだろうと自分に言い聞かせる。


 消化のよい物を、と注文をつけて軽食をとり、久しぶりにシャワーを浴びた。

 格納庫に戻ると先ほど見かけたレールガンがヤシャに装着されていた。機体をはさみ込むように、右側下面にレールガン、左側上面に長距離用センサーユニットが取り付けられている。変形するとそれぞれ右腕と左肩に移動するようだ。


 ヒカカ班長は説明した。


「センサーユニットは別にレールガンを使うのに必須という訳じゃない。重さのバランスをとるためのカウンターウエイトとして取り付けてある。という事で宇宙機モードの時はバランスが取れているのだが、人型に変形すると左右のバランスがやや崩れる。機動性は若干低下するはずだ。もともとのパワーが過剰なので問題にはならないと思うが」

「取り付け強度はどうなっている?」

「レールガンは重いからな。プロペラントタンクの教訓からハードポイントを二つ使用して取り付けるようにした。反動の事も含めて問題ない」

「ありがとう。今やれる範囲では万全の体制、かな」

「含みがあるな」

「それはそうだ。敵の正体も戦力も不明。戦いになるとしてもどんな戦闘になるか不明、ではな。電子戦だけで推移してこちらは出番なしかも知れないし」

「その辺りは案じていてもしかたないぜ、大将。俺たちは自分の仕事を可能な限り完璧にこなす。それだけ出来ていればいい」


 酒に絡まなくても含蓄のある言葉が言えたんだ、とちょっと驚きつつリョウハはうなづいた。


「時間が近い。俺はコクピットで待機する。班長たちは?」

「今回は姫さまが全部とり仕切るそうだからな。ひと段落するまでは俺らも出番は無しだ。おとなしく待機しているよ」

「そうか。では、また後で」

「ああ。戦闘になるかどうか分からないが、生きて帰って来い」

「もちろん、そのつもりだ」


 リョウハはヤシャに搭乗する。

 金剛・改とデータをリンクし、その挙動がわかるようにする。


 さて、人形姫のお手並み拝見だ。

 その前に船内放送が入る。


「金剛・改搭乗員の諸君、レツオウだ。本船はこれより、ダフネ泊地における補給作業に入る。ここで推進剤を補充しなければブロ・コロニー宙域への到達も危うい。また、我々が物資を持っていくのを待っている多くの人々のためにもここでの補給は必須の作業である。……しかしながら、この作業には敵対勢力による妨害を受ける可能性がある。皆、すでに耐Gシートについていると思うが、再度シートを確認するように。補給作業そのものにも衝撃はあるが、敵対者が現れたなら3Gかそれ以上の加速もあり得る。無駄な怪我などしないようくれぐれも注意してくれたまえ」


 特にヒサメが、な。

 たぶん同じ失敗はしないと思うが、そばに行ってシートの点検をしてやりたい。


「それでは作業に入る。総員、警戒態勢にて待機せよ」


 まず横方向のGを感じた。旋回して推進方向を調整している様だ。

 この船には上下や左右方向に進むための推進器はほとんどない。どこかへ向かうためにはそちらへ頭を向けなければならない。


 そして軽く前進。


 全力にはほど遠い、ゆっくりとした動きだ。

 そして、また別のG。

 進行方向に対して船体の上面を向けている?


 確かに貨物スペースはそちら側だが、まだまだ泊地の中心部までは距離がありすぎるだろう。

 そもそも、泊地の内部に侵入するにはデブリが多すぎるのが問題なわけで、装甲が一番薄く投影面積も最大になる上面を進行方向に向けるのはリスクが大きすぎる。


 そう思っていたら、金剛・改の背中にへばりついていた工場区が『ほどけた』。

 工場区としての形を失い、バラバラになった。


「そう来たか」


 リョウハは感嘆した。

 まだしも予備知識を持っている彼だから感嘆ですんだが、この時、金剛本体の管制室では何が起こったか見当もつかず阿鼻叫喚だった。工場区がすでにその姿に擬態しているだけの自律型作業機械の集まりと化しているなど普通は想像しない。

 ヒカカ班長たちが設置した連絡通路が接続する相手を失い、むなしくたなびいていた。


 船体から離れた自律型機械たちはいくつかの核融合炉を起動したようだった。

 ヤシャに使われているのと同じような小型核融合炉だが出力は十分だ。宇宙航行能力を得た自律機械たちはそれぞれの目的地へ散っていく。


 宇宙船のパーツが並べられた宙域に飛んでいく機械がある。

 ヘリウムタンク、水素タンクが並べられた宙域に向かう機械もある。

 少数だが、一般貨物が納められた倉庫へと進む機械もあった。


 一番最初に動きが見えたのはダフネの一般貨物用倉庫だった。

 おそらくヒサメがこっそり制御権を奪い取っておいたのがここだったのだろう。

 短距離の自航能力を持ったコンテナが射出された。

 工場区が分解して出来上がった自律機械とドッキングする。


 コンテナの中身の目録がこちらに送られてくる。

 ざっと見たが、食料や生活用品が満載されているようだ。


「しかし、食料に甘味の類が多すぎるぞ」


 ちゃんと酒を入れておけとドワーフたちが文句を言いそうだ。


 宇宙船のパーツやヘリウムタンクに向かった自律機械たちが目標にとりついた。

 ハッキングを開始、と表示される。

 制御権の奪い合いは今まではせいぜい互角だったはず。だが、間もなく掌握完了の表示が出る。

 謎の敵は光の速度の限界によるラグが出るほどの遠方にいる。対してヒサメは自分の手足ともいえる自律機械を物理的に接触させている。その差が出たようだ。


 まず動き出したのは、全長300メートルを超える筒状の構造体だった。

 ガスフライヤーの背中に装着する打ち上げ用ヘリウムタンクだ。ブラウ大気圏内で採取したヘリウムを収め、衛星軌道上まで射出するための装備。中身が入ったまま保管されていた物があったらしい。それが二つ動き出した。


 ヘリウムタンクに引っ張られるように動き出した物があった。

 いや、違う。引っ張られるように、ではなく本当に引っ張られている。自律機械たちはお互いに単分子ワイヤーでつながっていたらしい。

 小さめの球形のタンクが四つ連なってくる。こちらは推進剤として使う水素入りのようだ。


 宇宙船用のパーツの側でも動きがあった。

 剣のような形の平たい板状の物体が多数動き出す。

 検索してみると、それらはガスフライヤー用の単分子ワイヤー帷子装甲の予備パーツだった。

 ガスフライヤーの装甲が一枚物ではなく複数のパーツが接続されてできているとはリョウハも初めて知った。


 金剛の本体はデブリ帯に入ることなく、泊地の外周をかすめるように移動していた。

 ヒサメによって集められた物たちは相互に編隊を組み、自航能力の高いパーツに引っ張られて移動した。


 ヒカカ班長から通信が入った。


「おいおい、姫様は欲張りすぎじゃないのか? あれだけの物資をどうにかしようと思ったら二日や三日じゃ作業が終わらないぞ」

「たぶん、その心配はいらない」

「なんでだ?」

「ヒサメは先日、金剛の改装案について話していたからな。ドック入りさせなくとも改装できるとかなんとか」

「マジかよ」


 まず、二つの自航式ヘリウムタンクが金剛の上面に合体する。

 これは正規の品を正規の場所に取り付けているだけだ。完全な自動操作だけでやってのけている事は驚異的だがそこにそれが装備されること自体は驚きでもなんでもない。


 続いて二つのタンクの間の空間にプロペラント用の球形タンクが納められる。生活用品を納めたコンテナがそれに続き、ちゃっかりと旅客船グローリーグローリアまでがそこに加えられた。


 そして、単分子ワイヤーで数珠つなぎになった帷子装甲のパーツがやって来る。


 このパーツはもともとガスフライヤーの下面に用いられる物のはず。

 適切に配置すれば金剛の上面をすっぽりと覆える形になるのはむしろ当然だが、まさか、金剛全体に蓋をするような形で合体できるとは思わなかった。純正の接続用ラッチだけでは取り付けられない場所は、工場区だった自律機械がアジャスターとして機能していた。


 あれよあれよという間に、自航式タンクやグローリーグローリアの主機も推進用に利用できる新たなフルアーマー金剛が完成していた。


「何だよ、このあっという間の大改装! こんなことをされたら俺たちは失業じゃないか。というか、姫様、腕をあげてないか?」


 ドワーフたちが嘆いている。

 リョウハの方は自分の専門外での神業なので唖然呆然ではなく拍手喝采の心境だ。


 と、コンソールに警告表示が出る。

 外部からのハッキングは警戒しているので、前の時のようにコクピット全体が警報一色にはならない。


 金剛・改にメッセージが入っている。


『海賊行為を直ちに中止せよ。奪った資材を元に戻せ。さもなくば撃沈する』


 撃沈、ね。

 どうやって撃沈するつもりだろう?


 この脅しが効力を発揮するには、相手が正体を明かさなければならないわけだが。


 そう考えた時、その答えは思った以上に強烈にやって来た。

 金剛・改が高エネルギーを探知。


 ビーム兵器だ。


 宇宙の彼方から飛来したそのビームは金剛・改を直撃はしなかった。が、1000メートルも離れていない至近距離をかすめて飛んだ。

 そして、たまたまその進路上にあったデブリに命中した。


 あり得ないほどの爆発が起こった。

 先日の惑星ブラウの大爆発の時に匹敵するような強烈な放射線があたりにまき散らされた。

 ただの粒子ビームの直撃程度ではこれほどの爆発は起こらない。物質が、質量がエネルギーに変換されている。


 これは反陽子砲だ。


 縮退砲の次くらいには来るような超凶悪兵器。

 目標を構成する陽子そのものと反応して対消滅を起こす、どんな装甲でも防御不可能な超兵器だ。


 リョウハは緊急通信のボタンを押しながら叫んだ。


「ヒサメ、聞こえているか? 直ちに発進だ! 動き続けろ! 反陽子砲に敵をホーミングする能力はない。遠距離からの攻撃なら、ベクトルを変化させ続ける限りそうそう当たらない」


 よりによって長距離砲撃戦。

 電子戦でも近距離格闘戦でもない、その道の専門家が誰もいない戦闘が始まってしまった。

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