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神殺戦艦『金剛』 無敵の俺と電脳な私  作者: 井上欣久
破滅する世界 ガスフライヤー『金剛・改』
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1-2 竹槍で挑もう

 亜光速で接近する物体からの傍若無人な宣告を聞いて、リョウハ・ウォーガードは額をおさえた。


「犯行声明にしろ宣戦布告にしろ、もう少し中身のある事を言ってくれ」

「同感」

「ところで、他の物体から同様の宣告が行われた事は?」

「未確認」

「という事はあいつが敵勢力のボスか」


 宣戦の布告を行うのは組織のトップかその代理人のはずだ。

 こちらの中心地、地球に対してなら単なるメッセンジャーが来る可能性もあるが、このブラウ惑星系は人類にとってそれほど重要な場所ではない。


「完全な負け戦だが、あいつを撃破できれば引き分けぐらいには持ち込める」

「だから無理」

「現在の迎撃態勢は?」

「混乱中。どっちにしても超空間を経由しない亜光速の物体に対する迎撃ははじめから考えられていない。有効な手立ては皆無」

「光速に近い相対速度があるなら、どんな物でも良い、攻撃を当てる事ができればヤツを撃破可能だ」

「当たれば、の話」

「上が混乱中ならハッキングで迎撃システムを作動させられないか?」

「……実体弾砲ぐらいなら撃たせられるかも。ただし超光速通信は繋がっていない。リアルタイムでの操作は無理。光速の限界によるタイムラグがでる」

「どうせ予測射撃しかできないからそれは問題ない」


 リョウハは亜光速物体の軌道データをじっと見つめた。

 モード・メイキョウシスイを発動。超集中状態に入る。これをやると|体内のブドウ糖が不足する(あまいものがほしくなる)のが難点だ。


「おもしろいな。こいつは呼吸している」

「宇宙空間を?」

「心臓が波打っている、と言ってもよい。何がどうなっているのか知らないが、こいつの動きには一定のリズムがある。完全にランダムに動きを変えているわけじゃない」

「……そうかも知れない。ちょっとビックリ」

「あと、こいつは風を受けて顔をそむけているな」

「風って、太陽風?」

「太陽光も含めてだ。恒星間空間からやってきて、星間物質の濃度の上昇に戸惑っている。横風に流されてそれで時々軌道を修正している」

「素人っぽく気まぐれに軌道を修正しているならそれはランダムと変わらない。予測ができない」

「今の時点ではそうだが、もう少ししたらこいつはもう一つの壁にぶつかる。ガス惑星特有の強力な磁場由来の荷電粒子帯への接触だ。これは太陽風より強烈だぞ」

「確かに。ブラウにはこの基地でも補助動力として採用しているほどの荷電粒子帯がある。それに亜光速で接触したら大抵の人工物は大きな被害を受けるはず」


 リョウハはスクリーンを操作した。

 敵の軌道予測を表示する。表示を拡大し、大きな幅のある予測軌道を本人の見識とカンで狭める。空間の一点を示した。


「1時間18分後にここへ着弾させられるか?」

「可能。だけど、ざっくり計算したけれど目標がそこへ行く可能性は低い」

「分かっている。最終的にはカンでしかない。ただ、何もしないよりは良い。それだけだ」

「了解した。リョウハの名前で命令を出してみる」

「俺にそんな権限はないぞ」

「攻撃システムをハッキングだけで動かすのは私にも無理。でも、実体弾砲の責任者の階級はリョウハより低い。それにリョウハは軍関係者の間ではけっこう有名。複数の基地に依頼すればどこかが撃ってくれるかも。発射の責任はリョウハに行くけど、いい?」


 戦争狂の強化人間はかすかにためらった。唾を飲み込む。


「かまわない。全責任は俺がとる。やってくれ」

「了解。……目標地点への砲撃が可能な基地は七つ。外宇宙からやってくる敵性物体に関してデータを送る」

「予備知識を与えておくのか?」

「そう。ただ攻撃目標だけを与えても絶対に動いてくれない。理由が必要。地球が破壊されたことも付け加えた方がいいかな?」

「上層部は混乱中、とだけ注釈しておけ」

「そうする。他に付け加えることは?」

「縮退砲や反陽子ビームはやっぱり撃てないか?」

「そいつらは無理。上の承認が絶対に必要。承認が普通に下りるなら私たちがこんなことをする必要もない」

「仕方ない。弾種の選択に非磁性の破片散弾を使えと言ってくれ。ただの破片でも光速でぶつかれば大きなダメージになる」

「非磁性なのは?」

「ラムスクープを使う相手なら磁場の操作はお手の物だろう」


 この戦いでリョウハ・ウォーガードが関れるのはここまでだった。これ以上はどうあがいても何もできない。


「リョウハ、どこへ行くの?」

「次の予定は走り込みだ」

「結局つづけるんだ、トレーニング」

「軽めで切り上げる。状況が変わったら教えてくれ」





 そこから遥か離れた軌道上、サキモリ1854防衛ステーションは困惑と混乱に支配されていた。

 正体不明の音声通信が傍若無人な笑い声を響かせたと思ったら、その発信源が外宇宙から亜光速で接近してくる敵性物体だと知らされた。そして砲撃の指示。ただし正式な命令系統上位からのものではない。


「隊長、上層部からの指示は依然ありません。状況の説明も皆無です」

「攻撃目標が正体不明の超大型艦だというのは間違いないのだな」

「はい。観測によりますと、目標は極めて大きな柴方偏移を示しています。目標がこちらを攻撃するつもりであればいかなる防御も不可能であると断言いたします」

「命令の署名はリョウハ・ウォーガード中尉。宇宙戦闘の専門家ではありません。去年の観閲式において自分と同タイプの強化人間三人を一度に相手にして手玉に取った有名人ではありますが、あくまで肉弾戦のエキスパートです」

「具申いたします。命令通りの射撃を行ったとしても命中確率はほぼ0です。ここは見送った方がよろしいかと」

「本ステーションからの砲撃の命中確率が0として、他のステーションからもシンクロして攻撃を行った時の命中確率は何パーセントになる?」

「計算してはおりませんが、それでも1パーセント以下であると考えられます」

「それは0ではない」

「では、撃ちますか?」

「我々はサキモリだ。ブラウ系への傍若無人な侵入者を黙って通すわけにはいかない」


「カタパルト展開。艦首回頭。弾種選択、ケイ素系爆裂弾」


 ケイ素系爆裂弾。

 岩の塊を飛ばして爆薬で破裂させるだけのローコスト兵器である。もともとこれ自体には破壊力はほとんどない。その攻撃力は発射したステーションと攻撃目標の相対速度の差に依存する。目の前に立っている相手に小石をぶつけられても痛いだけだが、時速300キロで走る乗物からすれ違いざまにぶつけられたら命にかかわる。そういう事だ。そして、今回の相対速度は秒速30万キロに近い。


「どうせ原価は安いんだ。あるだけ全部撃て。指定されたポイントの周囲を全部俺たちの破片で埋め尽くしてやれ」

「了解」


 カタパルトで射出された弾体は使い捨てのブースターで加速する。いくら弾頭部分が安いと言っても、このブースターまで安い訳ではない。大盤振る舞いを知ったら「責任を持つ」と言いきったリョウハが青くなったかも知れないが、幸いにしてこの段階で彼がそれを知ることは無かった。


 大小同意なやり取りの末、他の六つのサキモリ防衛ステーションからも同様な岩塊が射出された。リョウハの想定を超える密度と範囲を持つオタロッサ包囲網がこうして完成した。





「僕の名はオタロッサ。通りすがりの機械生命体だ」


 ブラウ惑星系に進入して来た亜光速物体はもちろんオタロッサだった。彼は恒星間空間と違う惑星系の飛びにくさに辟易していた。


 系内の探査を行い、七つの大型の衛星とうっすらとしたリング、そして多数の人工物を確認する。


「攻撃目標は僕の三分の一ぐらいの長さの円筒形物体だったよね。けっこう大きめだけど中身はスカスカ。酸素と窒素を充填してあるタンクみたいなやつ。真の攻撃目標はその内側のどこかにあるから破片ひとつ残さずに消滅させるように注意、だったっけ。水素やヘリウムが入ったタンクならいっぱい浮いてるけど……。あ、あった。アレか」


 彼の攻撃目標は人類側でいうと全長30キロメートルの密閉型スペースコロニー「ブロ」だ。ブラウ惑星系で唯一のスペースコロニーであり、行政をはじめとするすべてのシステムの中枢である。オタロッサの攻撃目標がここであることは人類側にも至極当然の事として認識されていた。


 人類の施設に無用の損害を与えることは本意ではない。

 オタロッサはラムスクープ用の磁場を最低限に抑えて人工物からなるべく距離を取るように飛んだ。


 亜光速物体の動きからは自信のなさが見て取れる。

 リョウハは直感的にそう看破していた。その「気の弱さ」から人工物からなるべく距離を取るように機動するだろうと予測していた。理由はどうあれ、オタロッサは正確にリョウハの予測どおりの動きをしていた。


 そして、機械生命体はブラウをとりまく荷電粒子帯に近づいた。

 荷電粒子を磁場で排除するべきか進路を変えるべきか、迷った彼はその両方をやった。進路を変えた先にはいくつかの岩塊が浮かんでいるようだが、その程度の密度なら問題ないと判断した。


 恒星間航行のスピードに慣れた彼には、岩塊が直前にその場所に集まるように射出された物だとわからなかった。光に近い速さで動く彼にとって、岩塊程度のスピードは無いも同然だったから。


 岩塊が突然に分裂した。地球人基準だとかなりの爆発が起きたのだが、宇宙基準だと岩塊をバラけさせるための最低限のエネルギーが発生したにすぎなかった。


「え? えっ? ええぇぇぇっっ!」


 破片の雲に進路を塞がれ、オタロッサは慌てた。

 それでも障害物排除用のビームを照射して進路を確保、長さ100キロに及ぶ巨体を作り出した細い隙間に入り込ませる。


「ハァ、ビックリした。……アレ?」


 最初にリョウハが立案した作戦だけであったならオタロッサは無事にくぐり抜けていた。が、配備されて以来これが初の実戦であるサキモリ防衛ステーションたちは無駄にやる気があった。1854ステーションのように追加のケイ素系爆裂弾を撃った者だけでは無かった。弾種を変更して更にもう一発撃った者もいた。

 弾種を変えた分だけ遅れて発射されたそれは、岩塊の罠を抜けて気まで抜いたオタロッサに襲いかかった。


 炭素結晶爆裂弾。

 それが追加の弾種だった。


 人工合成されたダイヤモンドが秒速30万キロで巨大機械生命体に接触した。

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