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彼は

作者: 遊騎

彼はよくモテる。

昨日も女子社員から告白されているのを見かけた。

でも、絶対に断る。

彼女がいるから。

その彼女に心底惚れているから。

彼が彼女以外に靡くことはないだろう。


今日は彼女の誕生日だ。

彼はこの日のためにケーキを予約してプレゼントを用意していた。

値段を聞くのが怖くなるようなやつだった。いくらしたんだろう。


彼が会社を休んだ。

風邪を引いたそうだ。

見舞いという名目の下、彼に近付きたい女子社員たちが上司に住所を教えるよう詰め寄っていた。課長、頑張って下さい。


彼が風邪を治して出勤してきた。

結局、女子社員はお見舞いに行けなかったそう。代わりに心配したよ、と口々に言って彼の周りを囲んでいる。

とても迷惑そうな表情が印象的だった。


最近、彼の無表情に磨きがかかってきている。

元々表情が少ない彼だったけど、まぁ同僚(男)と喋っていてクスッと笑っただけで奇声を上げられる毎日なら、そうなって当然なのかもしれない。

必ず顔が緩んでしまうので、彼女の話もしなくなってしまった。


彼の話を女子トイレで聞いた。

イケメン、○○課の若きエース、三高クリア、などなど。

その中の一人が彼の彼女を知っているらしく、不細工だとか色気がないだとか、散々こき下ろしていた。

よくもまぁ、仮にも好きな男が溺愛している彼女をボロクソに言えるものだ。だからこそなのかもしれないけど。


彼が笑っていた。

休日の街中で、お前誰だと言いたくなるほど、喜色満面の笑顔で。

隣には髪の長い女性がいた。

彼女の隣では、彼は本当に別人のようだ。


彼が泣いている。

人目も憚らず、泣いている。

はらはらと涙を流して、泣いている。

彼だけではなく、彼女の家族や彼女と親しかった人たちも泣いて、悲しみに暮れている。

大輪の百合に囲まれた彼女は美しかった。

黒と白の幕が、風に吹かれてたなびいていた。




彼はよくモテる。

女子社員どころか、近所の女子高生にも告白されているところを見た。


彼の無表情に磨きがかかった。

誰と居ても、クスリとも笑いやしない。


彼の話を女子トイレで聞いた。

前と変わらずカッコイイ、イケメン、癒してあげたいなど、彼を何も知らない、上辺すら見ていない無責任な言葉の数々ばかりだった。


彼が休んだ。

体調が良くないらしい。

少しでも彼の心の傷が良くなることを願って、課長も了承していた。

そして、彼が休んだ翌日。

会社に一本の電話が入った。



彼は、彼女のところへいってしまった。

きっと、彼女にはしこたま怒られているだろう。ざまぁみろだ。

それでも彼女は彼に甘いので、結局は許してしまう。

それを分かってて彼は追って行ったと予測がつく。ずるい奴。


まったく。


彼も、彼女も。



「何で、いっちゃったんだよ……っ」









空の上の幼馴染たちへ。


すぐには行かない、意地でも数十年後だ。


しわしわのおばあちゃんになってから、私もいくから。


めっちゃくちゃ怒ってるんだぞ。文句もいっぱい言ってやる。


だから。




首洗って待っとけ、ばかやろう。




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