嫉妬心の恋
「よう霊夢!遊びにきたぜ・・・!」
桜もとい、ひまわりの群生の黄色が眩しい夏の博麗神社。霊夢が冬とは違う、冷たいお茶をすすっている時のこと。暇つぶしに魔理沙がやってきた。
「ああ、魔理沙。いらっしゃい。ゆっくりしていって頂戴」
霊夢は立って、魔理沙が座れるように座布団を持ってきた。
「お、サンキューだぜ!そうだ、やることないし、弾幕ごっこでもしようぜ!」
「せっかく落ち着いてお茶しているっていうのに。そんなこと、今はしないわよ。弾幕ごっこがしたいなら、フランのところに行きなさい」
「今はここにいる気分なんだ。それに、この前パチュリーの本を盗ってきちゃってさ。気まずいんだ・・・」
魔理沙の言葉がまだ終わらないうちに、第三者の声がした。
「まあ、霊夢さん、魔理沙さん、お揃いで・・・!楽しいお茶になりそうですね!」
緑の髪、白と青の巫女服。早苗だ。
「あら、早苗じゃない?久しぶりね。それはそうと、なんであなたもお茶を一緒にする前提なの?まあいいけど」
霊夢は湯呑を2つと急須を持ってくると、お茶を注いで魔理沙と早苗に差し出した。
「あ、ありがとうございます!私、神奈子様がくれた大福を持ってきたんですが・・・。」
そう言って早苗は魔理沙の後ろにあった棚から勝手に小皿を3枚出すと、慣れた手つきで大福を分けた。
「まあ、早苗。これ、有名な『香霖堂の大福』よ。いつも売り切れで、霖之助さんに予約頼んで買っていたのよ、私は。ほら、今飲んでいるこのお茶、玉露に凄くよく合うお菓子なの」
霊夢が感激した声で言うと、魔理沙が急に顔をしかめた。
「ごめん、霊夢。私、何も持ってこなかった・・・」
霊夢は、気分が良かった所為もあり、魔理沙に寛大に当たった。
「気にしないで。お茶菓子は1つで充分よ」
魔理沙はまだ気になっているようだったが、いつも通り快活に笑った。
「そっか。また今度のお茶の時には絶対にお茶菓子を持ってくるぜ!」
楽しいお茶の時間は、長く続いた。霊夢達にとって、この幸せな時間が崩れることが大きな恐怖だった。
少女談笑中・・・
霊夢達のたわいない会話は夕方まで、大福がなくなっても、霊夢がお茶を沸かす限り続いた。しかし、この幸せは、一瞬にして終わることになる。終わりの始まりは、早苗の一言からだった。
「そういえば、最近香霖堂の商品の入れ替えがあったじゃないですか」
早苗はとくとくと話し、お茶を一口すすると再び口を開いた。
「それで、諏訪子様のお使いのついでに、霖之助さんの手伝いをしたんですよ」
霊夢はそこまで聞いて、思いたったように魔理沙の方をこっそり見た。魔理沙はうつむいて湯呑を見つめていたが、今まで以上に早苗の話を真剣に聞いていることが分かった。早苗はそんな魔理沙の様子に気づいていない。
「それで、商品を大きい箱に詰めて運ぶのって、結構大変なんですよね。だから私、能力を使ったんです」
「あなたの能力って、奇跡を起こす程度の能力だったわよね。どうなったの?荷物が軽くなったとか・・・」
霊夢は口をはさんで会話をなりたたせようとして質問したが、魔理沙は軽く顔を上げただけだった。帽子のつばの下の顔は、神経が張り詰めているのがわかるほど真剣だった。早苗は未だ気づいていない。そのまま話し続ける。
「いえ、軽くなったのではなくて・・・。お客様をたくさん呼んだのです。そうしたら、重くて邪魔な荷物があっと言う間に売れて。運ぶ荷物が半分に減ったんですよ!!」
早苗の口調が盛り上がってきた。霊夢は知らずしらずのうちに話に引き込まれていたが、魔理沙だけは真面目な顔を崩し、涙をこらえている顔だった。魔理沙は地底に行った時、パルスィの遊び心で霖之助と関わる人に対する嫉妬心をあおられ、霊夢がその時はおさめたが、心の底では嫉妬心が息づいているのだ。
その一瞬の時間に、一気に事は起こった。早苗の頬の紅潮と話し方、魔理沙の嫉妬心は、最高潮に達した。
「そうしたら、霖之助さんが『君の能力、僕は好きだよ』って言って・・・」
魔理沙が早口につぶやいた。帽子で顔を隠す。
「ごめん、霊夢・・・。やっぱり来るんじゃなかったっ!!」
畳で足を引きずり、轟音と共に魔理沙は暗い空へ飛び出しーーー魔法の森の方角に消え去った。霊夢が唇を噛んで1言、言った。
「迂闊だったわ」
早苗の頬はみるみるうちに輝きを失い、真っ青になった。細い声で言いかける。
「霊夢さん、魔理沙さんは・・・」
霊夢はぴしゃりと叫んだ。
「早苗、今日はお開きよ。あとは私がやる。片付けも手伝わなくていいわ」
早苗は黙りこくって魔理沙とは逆の、守矢神社へととびたっていった。霊夢はそれを見送ると、長い独り言を漏らした。
「霖之助さんが早苗に言った言葉・・・。あれは決して『愛してる』という意味の言葉ではないわ。ただ、能力が役にたつというだけの意味。お願い、魔理沙。笑って頂戴。あなたの笑っている顔が、私は1番好き。・・・こんなこと、本人の前では言えないわ」
霊夢は、魔理沙の消えた方向へと急いだ。
少女移動中ーーー
霊夢は全速力で空を飛んでいたので、ものの数分で『霧雨魔法店』の看板を認めることができた。霊夢はその建物から少し離れたところに降り立ち、大きな窓に目をこらした。果たしてそこに魔理沙はいた。机に突っ伏して真っ青な頬を見せている。ゆっくりと肩が上下しているのを見ると、眠っているようだ。霊夢は少し考え、決心したように再び浮き上がると、近くのアリスの家へ飛んでいった。
「アリス、いるかしら?」
アリスは妖怪なので、夜にも起きている。霊夢が声をかけると、すぐに扉が開いてアリスが姿を現した。
「あら、霊夢。こんな夜中にどうしたの?あなたは人間だから、この時間は眠いでしょう・・・」
「いいえ。むしろさえ切っているわ。魔理沙について、話したいことがあるの」
ーーー10分後。アリス特製の紅茶をのみながら、お茶会での出来事を話し終えた霊夢。
「・・・という訳なのよ。だから、明日夜が明けたらすぐに様子を見に行こうと思って。魔理沙は早起きだから・・・。そこで相談なんだけれど。今晩泊めてくれないかしら?」
霊夢は少し口調を強めて要求した。アリスは指を複雑に動かし、上海に手帳を持ってこさせた。それを確認しながら言う。
「そうねぇ。大きな用事も無いし・・・ええ、魔理沙のことも心配だから、泊めてあげるわ」
霊夢はそれを聞くと、ガタッと椅子から立ち上がった。にこやかにつぶやく。
「あ、ありがとうアリス。じゃあ、私の寝る部屋は・・・」
少女就寝中ーーー
翌朝早く、霊夢は上海に叩き起こされて、日の出前に魔理沙の家へ向かった。魔理沙は大きな窓から見えるオシャレなベッドに放心状態で座っていた。
「嫉妬心が、昨日のあれで爆発してしまったのね」
霊夢は深呼吸をすると、ノックをした。
「魔理沙・・・入るわよ」
鍵はかかっておらず、霊夢は魔理沙の方に足を踏み出した。その瞬間、今まで動けないように見えた魔理沙の体が瞬時に動き、金切り声があがった。
「スターダスト・レヴァリエッ!」
思いがけない攻撃に、霊夢は飛んできた閃光を避けることもできず、ことごとくダメージをくらった。
「・・・あ・・・魔理・・・沙・・・?」
いくら博麗の巫女でも、魔理沙のような強者の攻撃を真っ正面から受けたらたまらない。足が崩れ落ち、床に屈んだ。せきが止まらず、声が出ない。やっとの思いで魔理沙の顔を見上げると、そこには不安、恐れ、心配の入り混じった複雑な表情があった。魔理沙は霊夢と同じ目の高さになるくらいまでにしゃがみ、そして言った。
「ごめん、霊夢・・・。私、早苗に嫉妬してたんだ。本当は霊夢は悪くないのに・・・いや、早苗だって悪くないのに・・・勝手に1人で怒ってて・・・。本当にごめん。でも、私、香霖の事が好きなんだ。他の人に香霖を取られるのが我慢出来ないんだよ・・・。私・・・悪い奴だよな・・・?」
魔理沙の目から、光る球体がこぼれ落ち、床に広がった。霊夢がそれを指先でぬぐい取りながら言う。出来るだけ魔理沙と目を合わせながら。もう声ははっきり出るようになっていた。
「ううん、魔理沙も悪くないわよ。それは私が保証するわ。それに、霖之助さんは、ただ早苗の能力を褒めただけ。早苗の方にも霖之助さんが好きとかいう気持ちは無いのよ。・・・ねえ、魔理沙。確かめに行きましょう。霖之助さんに会いに行きましょう。出会ったら、泣きついても抱きついても、きっと霖之助さんは微笑んでくれるわよ」
魔理沙の涙が止まり、顔が上がった。
「私・・・霊夢のこと、信じるぜ」
この言葉を言うのにどれだけ勇気が必要だったか。霊夢は頭の中で考えながら、魔理沙と一緒に香霖堂へと向かった。
少女移動中ーーー
数分後。魔理沙の息は荒くなり、霊夢の鼓動は速くなっていた。
「さ、行きましょう」
霊夢がわざとらしい快活な声で言うと、魔理沙は真っ赤な目で笑った。香霖堂の重い扉には、営業時間中だということを示す木のプレートが掛かっていた。霊夢は魔理沙の手を握りしめ、扉を開いた。
「いらっしゃ・・・魔理沙⁉」
霖之助は、読んでいた本をカウンターに乱暴に置き、魔理沙の元へ駆け寄った。霊夢はそれを見ると、そっと外に出て、窓から中を覗くことにした。外に出ても、2人の会話は聞こえる。
「ほら、今日はいい品が手に入ったんだ。君のミニ八卦炉の改良用具だよ・・・」
「え、えと、香霖。それも素敵なんだが・・・」
「あれ、いつもと態度が違うなぁ。どうしたんだい?」
魔理沙は、霖之助に顔を覗き込まれて真っ赤になりながらはっきりと言った。
「私、香霖のことが好きなんだ」
その1言だった。霖之助の目と口が大きく開き・・・満面の笑みになった。
「ありがとう魔理沙。同じ気持ちだったよ」
魔理沙の顔にも、笑みが広がった。霊夢がそれを幸せそうに見ていると、後ろで聞き慣れた声がした。
「あら、そういうことだったんですね」
早苗が霊夢の真後ろにいて、笑って言った。
「私、ちょっと申し訳がたたなくて。気になって霊夢さんの後をついてきたんですよ。もう心配で心配で・・・。それにしても、魔理沙さん幸せそうですね〜」
「恋が叶った女は、あんなもんよ」
霊夢は振袖で早苗の頬を撫でた。
「そうなんですか・・・。まあ、魔理沙さんも結ばれたことですし、そろそろ私たちも・・・」
「変な言い方はやめなさい」
「ええ〜。でもぉ・・・」
「いい加減にしないと、夢想天生よ」
「うふふ、冗談ですよ、じょ・う・だ・ん」
「霊夢、サンキューだぜ‼」
「なんだ、君達が仕組んだことだったのか」
幻想郷に穏やかな夏風が吹き抜けていった。
この小説は、上海アリス幻楽団様の作成した東方プロジェクトの二次創作です。閲覧ありがとうございました!