学園
学園での生活は,熱を出す前と変わりないように見えた。だが,壁や床が浩介に語りかけてくる。今朝のこと10年も20年も前のこと建物の記憶・・・感情のこもらないその記憶は浩介を苛む。そのままでは精神も危うくなる。どうしていったら良いのか・・・浩介は試行錯誤しながら毎日を過ごしていった。
・・・こうして浩介は,読み取ったことを処理していくことを覚えていった。
闇の力による偽装にも,擬態にもだんだん慣れてきた。まだまだ未熟で,局長や,局長の下で働いている者達にすぐに解かれてしまったり,何らかのショックを与えられると元に戻ってしまったり・・・そんなことを繰り返しながらも浩介の擬態の技術は向上していった。
学園では,浩介にも友人がいたが,表面上の友人ばかりで,自分をさらけ出すことはできなかった。
総合格闘技や,ジム,走り込みなどで体を鍛えていた浩介は,体育の授業の時はわざと普通程度にしか出来ないふうに装っていた。下手に目立つのはまずい。本能的に知っていたのだろうか。闇を隠し,守護言霊の波動の存在を隠し・・・浩介の学園生活は秘密と欺瞞に満ちているかのようだった。
ある日,学園に転入生がやってきた。転入生を一目見た浩介は相手の偽装を見破った。
「だれだ?この男。俺たちよりずっと年上のように見えるのに・・・誰も何も言わないとは・・・・」
周りの級友達は
「かっこいい人ねえ。」
「綺麗な髪ねえ。」
「どこから来たんだ?へえ。西国からか。」
普通に話しかけている。浩介は黙って男を伺うばかりだった。
その日はちょうど局長が来る日だった。いつもの201号室に行った浩介は,その男について局長から意外な話を聞いた。
「華国からの諜報者?何でこんな学園に?」
ソファーに寄りかかった局長はじろりと浩介を見た。
「おそらくこの学園からだと,中央の学園に行きやすいからだろうな。」
「中央の学園というと?」
「前,おまえに話しただろう?中都国の中央学園。例のおそらく闇の力を持つ男が学園長をしている学園だ。」
「なぜ,直接行かないでここに?」
「分からないのか?」
・・・
「国内の学園同士の方が転園しやすいからですか?」
うんうんと局長は頷いた。
「それが一番大きいだろうな。」
「職員とか,大学園の学生の方が直接的でいいのではないかと思うんですが。」
「その学園長の奥方は薬学の方でいろいろ功績を挙げているんだ。夫婦して凄い人達なのさ。彼らをおそらく監視するために,いろいろな手を使っているんだろうな。」
・・・
「おそらく何人かはもう入り込んでいるはずなんだが,そのうちの一人はこの前,沢が挙げてきた。」
「あげてきた?」
「逮捕してきたのさ。」
・・・浩介はしばらく見ていなかった沢の顔を思い浮かべた。温厚そうな30代の男。
「沢も高学園に潜入してな。相手は助手を装っていたそうだが。沢にかかったらいちころだったそうだ。」
浩介が首をかしげると,局長は人の悪そうな笑みを浮かべた。
「助手はロザリアからの潜入者で,女性だったそうだ。
・・・あれで沢は,色仕掛けが得意なのさ。」
「男にばかりじゃあないんだぞ。おまえもこの道を選ぶなら・・・・」
局長は言葉を濁し,
「さあ。今日の課題をやるか。」
と浩介の思いを勉強に向けさせた。
転入生は3日でまた転出していった。周りで,
「何でこんなに早く出て行っちゃったんだ」
と生徒達は騒いでいたけれど・・・
浩介は知っていた。この男が局長によって逮捕されていたことを。
浩介が人の擬態を見破る力は,他の闇属性の力を持つ者より高いらしい。そんなことに気づいたのもこの頃だった。
他の人には使えない物との同調・・・他の人より高い見破る力・・・・俺はこの先どうしたらいいんだろう・・・悩みが深まったのもこの頃だった。
日々はまた,たんたんと過ぎていく・・・
・・聞こえる物からの叫び声を聞かないようにしていくことや,必要なことだけ情報として自分のものにすることも・・だんだん覚えていった。
物に同調して移動することもどんどんスムーズに出来るようになっていった。
壁の中にある警報器やそのほかの侵入を阻止するいろいろな仕掛けについても学び,解除していく方法も地下で覚えた。
・・・侵入者としての力だけが上がっていくのは,不本意だ。浩介は考え,地下では総合格闘術や,機械についての技術を。学園では,語学について力を入れ始めた。
まだやりたいことは見つからないが,いろいろ試すのも悪くないのかもしれない・・・・
そのうちに,浩介は大学園に上がり,数年が過ぎていた。
そろそろ浩介も進路を考えるときがやってきた。
・・・考えるまでもない。局長の下につくか・・・それとも自分を試すためにどこかの国に行くか・・・
浩介は語学をかなりがんばっていたおかげで,ロザリア語,イミグランド語,華国語・・そのほか数カ国語を操ることが出来るようになっていた。どこの国に行っても,言葉に困ることはあるまい。だが,他国に行って何をする?外交官か?まさか。諜報者?いや。語学研究者として・・・
迷いながら卒業の年を迎えた浩介に局長が意外なことを言い出したのは浩介の22の誕生日の日のことだった。
次回から第3章に入ります。




