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影と呼ばれた男  作者:
第2章  目覚め
8/18

 浩介は帰ってから高熱を出した。雨の中長時間立っていたのが悪かったらしい。

 局長は心配して,昼でも夜中でも,何度となく浩介を見に部屋に入ってきた。地下から看護士も上がってきて交代で2~3日浩介に付き添ってくれた。浩介は意識が朦朧としており,はっきりとは感じていなかったが,後で波動が教えてくれた。


 1週間ほど続いた高熱の間に浩介は何度も波動と会話した。ものの本質の探り方や同調の仕方,擬態に必要な知識・・・それら全てが波動を通じて浩介の中に流れ込んでくる。否やもない。高熱にうなされながらの知識の伝授はもうろうとした頭には,夢か幻のように感じられさえした。


1週間が過ぎ,熱も下がってきた浩介は,部屋のドアに手をかけていた。

自分の意思でドアを抜ける・・・波動が教えるとおり,自分の体をドアと同調させていく。体がドアと一体になる。ソウダ。コノママ移動スルンダ・・・・

 ドアから壁に・・・浩介は音もなく滑っていく。階段を滑り,緑色のドアの前で実体化する。できた。浩介の前で緑色のドアが開く。

「お・・浩介。もういいのか?」

局長だった。

局長は息を弾ませている浩介をじっと見透かすように見つめた。

「おまえ,腹が減ってないか?」

唐突に聞いてきた。え・・・そうだ。猛烈に腹が空いているいきなり飢餓感を覚えた浩介はふらりと倒れそうになった。


 局長が浩介を抱え,クリーム色のドアを開ける。いつものキッチン。いつものテーブル。しかし,テーブルの上にはいつになく沢山の食べ物がのっていた。

「俺の星が,おまえは腹を空かして目覚めるはずだと言っていたのでな。まあ食え。」

浩介は夢中で食べた。局長の星・・・暗黒星。予言の力予見の力を持つ星。もしかしたら俺の家出も分かっていたのではないのか・・・


 ようやくお腹もくちくなり,人心地の付いた浩介は,

「ごめんなさい。局長。心配を掛けて。」

と謝った。

「いや・・・

・・・何か分かったか?」

浩介は黙った。何か分かったか・・・とは・・・自分の言霊についてか・・自分の能力についてか・・・


「まあいい。だが・・・これから先・・おまえの擬態の能力については,仲間には隠さなくてもいいが・・・おまえのもう一つの能力・・・波動による能力については仲間にも話してはならんぞ。」

浩介は顔を上げて局長を見た。

「なぜ?」

局長は真剣な顔で浩介を見た。

「どんな奴にその能力のことが知れるか分からんからさ。

おまえに言ったかどうか分からんが・・おまえの持つ闇は狙われやすい。おまえの闇を隠していた封印も,誕生日に解けてしまったし・・・あの街でおまえの闇を感じとった者もいたかもしれない。

正直,星は俺に,半々だと伝えてきたんだ。俺にしてみれば,無事に見つかったことは奇跡に近いのさ・・・」


・・・・・


闇の神殿のことも気になるしな。


言葉の後,ぼそっと付け加えて局長はしばらく黙っていた。


「おまえの闇を偽装していかなければならない。

天を装うのは今まで通りだが・・

・・・いや。・・・多分もうできるはずだ。浩介,意識をそっちに向けて見ろ。」


 浩介は目を瞑った。しばらく自分の中を見つめ・・・探る・・・自分の中に闇が見える・・だが嫌な感じはしない。

浩介はここでいったん目を開けた。

いつの間にかテーブルの上は片付けられていた。


・・・いつの間に?それに局長はどこだ?

浩介が立ち上がるのとドアが開くのは同時だった。入ってきた局長は

「かなり長い間目を瞑っていたな。何か見えたか?」

と聞いた。

「俺の中の闇が見えました。」

もう一度食卓に戻るよう促された浩介はそう答えた。

「どんな闇だった?」


・・・どんなとは?


「嫌な感じがしたか,暖かい感じがしたか,それとも,呼びかけてきたか?」

「嫌な感じはしませんでした。」

「そうか。なら,大丈夫だ。」

「大丈夫とは?」

「あの街で闇の一族の接触がなかったと言うことだ。」

局長はにやりと笑った。


それからおもむろに立ち上がってお茶を入れ始めた局長は,振り向いて続けた。


「闇の一族は,誘惑という形で接触してくることが多いのさ。女,男,食べ物,そのほか人間が欲しいと望むような物をちらつかせてな。」


おまえに接触してきた女が俺たちの仲間で良かったな。ははは・・・


お茶を浩介の前に置きながら局長が笑ったので,浩介は居心地悪く感じた。

不意に壁の記憶が浮かんでくる・・・浩介は頭を振った。



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