立ち上がる 2
その日,浩介が家に帰ると,珍しく局長が家にいた。
「すぐ食事の支度をするよ。」
と言う浩介に
「ちょっとこい。」
と局長が手招きした。
浩介が,何だろうと思いながら側に行くと,そのまま,向かいの入ってはいけないと言われていた緑のドアのところに連れて行くではないか。
何をするんだろう?浩介の疑問が聞こえたように局長は,
「ここはこれからおまえも使うことになるだろう。」
と言ってドアを開けた。
中に入って浩介は,驚いた。何もない狭い部屋だ。局長は鍵を閉めた。
「こっちだ。」
その先にもう一つのドア。2つに区切られていたのか。
ドアを開けると・・・階段があった。下に続く階段だ。局長が先に立って進む。浩介も後に続く。かなり降りたところにまたドアがあった。
局長は手をくぼみに当てた。きい・・・ドアが開く。
「ここにおまえの掌紋も後で登録しよう。」
ドアの先は・・・オフィスのようだった。かちゃかちゃとせわしなくタイプする音,通話機の鳴る音・・・応答する男や女の声。
「局長・・・その子は?噂の浩介君ですか?」
一人が気づいて声を掛けてきた。振り向いた男達の中にはいつもの運転手の男もいた。
「やあ。浩介君。さっきぶりだね。」
「は・・・はあ。」
家の前で浩介を下ろして丘を下っていった車の男・・・なぜここに?
この家の地下には広大な施設が埋まっていたのだ。出入り口は浩介の住む家だけではなく,何カ所かあるという。会社を装った建物もあり,普段はみんなそこから出入りしているのだという。浩介の住んでいるところからすぐ通じているこの部屋は,この施設の中枢と言うところらしい。
「こっちに来い。」
局長はさらに違う部屋に浩介を誘った。
しばらく廊下を歩き,さらに階段を下る。
やがて一つのドアの前に立った局長は黙ってドアを開けた。
中は,体育館のようだった。広い。そしていくつかの区切りがあり,トレーニングマシーンが置かれているところもあった。何人かの男や女が汗を流している。その脇を通り過ぎ,さらに行くと,
「はっ」
「はっ」
と言う声が聞こえてきた。見るとヘッドギアを付けた二人が対峙していた。
「やっているな。」
局長は浩介に
「いつも俺とやってきただろう?あいつらは強いぞ。これからはあいつらと一緒に練習していけ。」
いつも局長と家の裏庭でしていた形。以前はいつも遠慮なく踏み込めと言われ,殴りかかっていっても軽くいなされていた浩介が,初めて局長の胴に右の拳を入れることが出来たのは1ヶ月ほど前のことだった。
かろうじて浩介の突きを,かする程度に済ませることが出来た局長は,次はおまえにもっと強い奴を紹介してやると言っていた。これがそうなのか・・。
二人は右の拳をみぞおちの辺りに構え,左の拳で相手を牽制し合っている・・。と,片方がいきなり蹴りを出してきた。と相手は左の拳でいなしながら飛び退く。
ふっと見ている間に・・え?一人の拳が相手に当たって?どこに?・・倒れた。
いつの間に。速い。
倒れた相手を引き起こしながら,二人で笑い合っている。
それから
「局長。」
とこちらを見て呼びかけてきた。近づいてきながら,
「その子が浩介君ですか?」
と聞いた。局長が頷くのを見て,
「やあ。浩介君。俺は速見って言うんだ。よろしくな。」
「俺は,沢。よろしくな。」
二人が次々と握手してきた。
「こいつはこれから夕方になると,ここに来ることになる。誰よりも強くなるよう鍛えてやってくれ。」
局長が言った。
「よろしくお願いします。」
浩介も慌てて挨拶をした。
それからの浩介の生活は今までと一変した。
学園に行き,学園で普通の授業をし,特別に局長から属性の授業を受ける。その後,学園での活動はしないで家に帰り,地下に行き,様々なトレーニングをする・・・
地下に行くうちに,局長の仕事がなんなのかだんだん分かってきた浩介は,父の仕事もそうだったのではと思い始めていた。
「この仕事は危険が多い。だから命を落とす者もいる。命を落とさずに済むよう,俺たちは訓練するのさ。」
沢が銃の扱いを浩介に教えながらそんなことを言ったのは夕べのことだ。
「俺は明日から出張だ。しばらく帰ってこない。多分,まだ速見がいるはずだから,速見からこの後は教えてもらえ。」
そんな中,浩介は16の誕生日を迎えた。




