夜明け
最終回です。
この日の夜、俺は天の神殿に忍び込んでいた。
壁に溶け込んで進んでいく。下へ下へ。本来天の神殿には地下室は滅多にない。だがここの神殿には地下室が数階分あると床が教えてくれたのだ。この床にたどり着くまでも何回も神殿に通い,ようやく入ることの出来た特別な祈りの間の床だ。
ロザリアの神殿は入ったとたんにまがまがしさを感じるような・・・全体が闇に覆われていた感じだったが,ここは全くそういう気配を感じさせなかったのだ。だから俺も慎重にならざるを得なかった。
・・全く闇を感じさせない天の神殿。中都国の神殿と同じように清浄さしか感じられない神官達も白。
・・・だが,何日か通ううちに気が付いてしまった。広川が親しく接していた神官達の中に一人,擬態者を見つけてしまったのだ。広川といつも親しそうに話しているその神官。・・・いや。断じて彼女のことばかり気にしていたわけじゃない・・・
神殿の内部深く滑り込んで行きながらとりとめもない考えが心をよぎる。
・・特別な祈りの間に近づくにつれ,俺の中の波動が警告を始めた。俺は心を引き締めた。油断してはならない。
特別な祈りの場。その下には何があるのだろう。壁や床に潜みながら俺は進む・・・
人の気配・・・何人かの人の気配がする・・・・
そっと伺って・・・俺は驚愕した。子どもだ。子ども達だ。子ども達が何人かずつの部屋で休んでいる。
・・・・
気配を探る・・・闇の気配だ。だが・・・探って行くにつれ,気が付いた。
・・・・・
この子ども達は俺と同じだ。ここで教育されているんだ。だが・・・この場の嫌な空気は何なのだ?さらに探っていく。向こうの部屋からだ。壁を進む・・・お・・・警報器?何でこんな所に?俺は慎重に片付ける・・・ドアの所には電流の仕掛けか・・・おや。ご丁寧に落とし穴まで。どういう奴がこんなことを?
そっと部屋に侵入する。部屋の中にはあの広川とよく話をしていた神官がいた。神官は端末で誰かと話している・・・
「いや。広川さんが手伝ってくださるって聞いて。ありがとうございます。明日。はい。よろしくお願いします。」
通話は切れ,端末を置きながら神官はにんまり笑った。
「ふふふふふ・・・日の本連合の中都国か。あそこは守りが堅いからどうしようかと思ったが。鴨があちらからやってくるとはな。ははははは。」
何を企んでいる?ここは泳がすべきか?やるべきか?一瞬迷う。
神官はさらに端末を操作する・・・
「おい。俺だ。明日,例の女がやってくる。すり替わるのにもってこいだ。おお・・そうだ。十分情報を引き出してから・・・1日で大丈夫か?ふうん。自白剤ね。なるほど。量が多いと廃人になるっていう例の奴だな?そのまま廃人になっていただくさ。え・・・・・ああ。しばらく娼館にでもいてもらって稼がせてもらう。 え?まあな。・・・そのまま死んでも惜しくはないさ。」
聞いているうちにむかむかしてきた。だが,明日,俺はそのまま静かに部屋を出た。
部屋に帰り,聞いたままを局長に連絡する。
「ほう。そのまま殺らなかったとは。おまえも辛抱強くなったものだな。」
「・・・で?」
「明日,応援をやる。そっちの国に今いるのは・・・3人だな。合い言葉は・・・影・」
「え?」
・・・・・
俺は早朝から広川の住んでいるアパートの前にいた。
しばらく待つと,広川が出てきた・・・車がすっと前に止まる。車に乗り込む・・・俺はすでに車の座席に溶け込んでいる・・・
程なく神殿に着いた車を降り,足早に神殿の奥に進んでいく。俺も床・・・壁・・・影のように滑る。
他の神官達は誰もいない。なぜだ?俺は波動をこっそり伸ばす・・・気配はある・・・動く者が数人・・・あとは・・眠っているのか?眠らされているのか?
応接室か・・・
「やあ。今日はありがとう。」
椅子を勧められ,広川は座った。
「いいえ。で,早速ですけれど,日の本の言葉を学習したい子どもはどこにいるんですの?」
「まあ焦らないで。お茶でもいかがですか?」
「ありがとうございます。でも結構ですわ。」
そこに女が出てきた。
「まあ。そんなことを言わないで。どうぞ。」
広川はお茶を飲む・・・俺は黙って見ている・・・俺の波動は警告をしていない。このお茶は大丈夫だ・・・だが・・・
広川がカップを落として倒れ込んだ。
なぜだ?
・・・・・
「やけに効きが早いな。」
「あんまり薬とかやらない子なんじゃないの?じゃあ・・・話を聞きましょうよ。」
「おお・・」
神官は広川を抱きかかえて椅子に座らせた。
「おまえの名前は?」
「広川夏子」
「おまえの家族は?」
・・・・・
側で聞いていた女が,
「影になっちゃうわねえ・・・」
と言って周りをぐるりと見回した。この女が味方か。
「ところで何のために,私がこの子になるんだっけ?」
・・・
「五月蠅いな。忘れたのか?」
「夕べお酒飲んじゃってたからさあ・・・」
「この女は中都国の高官の娘だ。帰国してうまくいけば情報の取り放題なんだ。おまけにあの国には光の神子がいるだろう?この女は光の神子と懇意にしているのさ。」
「へえ。凄い子なんだねえ。」
「だから良く情報を引き出して,なりすますのさ。」
「誰の指示なのさ?あの方はもういないんだし・・・」
一瞬沈黙が流れた・・・どうした?
・・・・・
「何を言ってるんだ?俺があの方の後継者だって知っていて言うのか?」
・・・・・神官は手元のボタンを押した。
「おまえ,諜報者だな?何か情報を盗みに来たのか?」
バタン。戸が開いて何人か入ってきた。・・・4人か。
「呼んだか?」
「なんだ?」
「影が濃いな。」
「いや。影は薄いさ・・・」
4人とも銃を持っている。女は手を挙げた。
「殺る?」
影が薄いと言った男が聞く。
「殺れ。」
神官が答える。
俺は瞬時に実体化し,神官を組み伏せた。同時に2人の味方が2人の敵を組み伏せる。
女は広川の所に行き,
「ちょっと,起きなさいよ。
あんたに飲ませたのはただのお茶じゃないの。いつまで薬が効いた振りしてんのさ。」
広川は起き上がり・・・そして俺を見た。
・・・・
「水戸君?」
・・・・
神官は酷い形相をしていた。
まさか・・・こんな馬鹿な・・・俺は真の後継者だぞ・・・
ぶつぶつ言う声が続く
・・・・・・
一人が警備の者を呼ぶ・・・いや。誰も来ないだろう。こいつが眠らせるか何かしているんだから・・外部の警察組織と,この国の諜報機関にも連絡する・・
程なく眠っている神官達を助けるための医療機関の人間達と警察・諜報部の人間がやってきた・・・
「後で話しましょう。」
広川は,そう言ってイミグランドの警察機構に神官達と一緒に行ってしまった。
俺は仲間に神官達の方を任せ,イミグランドの警察の奴らと神官の部屋を探ることにした。
神官の部屋からは,めぼしい物は発見されなかったが,召喚の儀式に使うのであろう道具が沢山用意されていた。おそらく,あの子ども達の中から一番,闇色の濃い子どもを生け贄にして召喚儀式をする準備をしていたに違いない。未然に防げた点は良かったのだろう。
闇の神官はまだいる・・・その事実の方が重い。倫太郎や倫子ちゃん・・・どうしているだろう。あれからちょうど10年だ。光は前より俺たちの上にあると思うが,まだまだ十分とは言えないのだな。
・・いや。俺たちが前を向いている限り,闇の神官達にこの世界を汚させはしない。そのために俺たちはいるのだから。
・・・・・
俺はもうしばらくこの国で闇の神官達の行方を追うことになった。
・・そんなとき,局長を通じて広川から連絡が入った。
「明日,午後,神殿入り口にて待つ。」
・・・・・正直気が重い。だが,会いたい気持ち,話したい気持ちもある。
俺はどんな姿で行くべきか・・・26になった広川・・・。
・・・本来の俺の姿で・・・これが今年42になる俺の出した結論だった。もしかしたら,俺だと分からないかもしれない。それならそれでいい。
・・・・・
神殿の入り口に俺は立つ。本来の姿で。
何人か同じように人待ちの者達が立っている。
この中では見つけられることも・・・・
コツンコツンと足音が近づいてくる・・・
・・・・・迷いのない足音だ・・・
コツン。足音は俺の前で止まった。
まっすぐに俺の顔を見上げ・・・
「水戸君?」
後書き編集
少し急いで話を終わらせてしまいました。
もう少しじっくり書きたかったのですが。
あまり読んでいただけなかったようで残念です。
その中でも,読んでくださった方,ありがとうございました。
他のお話もまた書いていく予定です。
自分が楽しく。そして,読んでくださる方も面白いと思ってくださればありがたいです。




