黎明
翌日,光太郎は知らん顔をして学園に行った。多一郎も何も言わなかったので,ごまかせたかとも思ったが,鋭いところのある多一郎のこと,何か思惑があるに違いない。
「なあ。明日・・泊まりに来いよ。」
そう言われたのは昼休みだった。
「明日?また急だな。」
「うん。祖父がな,やっと許してくれたんだよ。」
「へえ。」
このタイミングでか・・・光太郎は考えた。あと3週間でここでの生活も終わる。その前に・・・。
「いいよ。親父に聞かねえと最終的な返事は出来ねえけどな。」
もちろん結論は行くに決まっている。光太郎は親父に連絡すると言って端末を出した。
「親父、俺。」
『誰か側にいるのか?』
「うん。」
『で?』
「明日,多一郎んちへ泊まりに行っていい?」
『駄目と言っても行くんだろう?』
「そうだよ。」
『詳しくは帰ってからだな。』
「ありがとう。多一郎も喜ぶよ。」
『了解』
「じゃあね。」
「どうだ?」
「オッケーだってさ。」
「良かった。明日迎えに行くから。」
「おう。」
その夜,茨城は沢を連れて帰ってきた。
「沢さん・・・・」
「え?、まさか浩介?」
「ええ。」
「へ~しっかり子どもだよな。俺はここまで綺麗に擬態は出来んなあ。」
「こうすけ?」
「ああ・・茨城さん。まさかご存じないとは。ほら。こいつが水戸さんの息子ですよ。」
「・・・やっぱり・・・」
「黙っていて済みません。」
「いや。我々は正体を明かしてはいけないからな。」
「沢を俺の教育係として連れて行くですって?」
・・・いままでそんな話はしたことがなかったのに・・・変に思われないだろうか。
いや。多一郎は俺の正体を薄々知っている。仲間を連れてきたと思うだろう。問題は吉沢だな。吉沢は味方か?それとも偽煌王の手先か?どっちだ?
翌朝,迎えに来た車に浩介と沢が乗り込むと,多一郎が待っていた。
「おはようございます。」
「このひとは佐藤さん。僕の家庭教師の人だよ。図々しいと思ったけど,宮殿のお勉強のためについてきたんだ。」
「・・・大丈夫。この車の中は安全だよ。吉沢?!」
「はい。坊ちゃまのためにいろいろありがとうございます。運転手の郷田も我々の仲間です。坊ちゃまの天の力を慕って集まっている者達の一人ですから。」
「それなら話は早いな。」
沢・・・佐藤は言った。
「闇の神官に宮殿が完全に乗っ取られないうちに。父君と母君は安全なところに逃がしたか?」
「ええ。視察だと言って隣の市に行きました。」
吉沢が言った。残っているのは闇の神官・・・煌王とその側近達。そして,多一郎と彼を囲む者達。聞くところによると数はちょうど半々らしい。
「多一郎君,君も安全なところに逃げなさい。」
佐藤が言う。多一郎は首を振った。
「俺は逃げない。百華のようにしっかり未来を見据えたいんだ。」
光太郎はその間一言も口を聞かなかった
辺りの気配を探っていたのだ。波動を遠慮なく伸ばして。
車は滑るように進んでいく。宮殿の扉が開く・・・
宮殿の中は先日来たときより静かだった。使用人もほとんど姿が見えない。
「関係ない者には休みをやったんです。」
後ろで吉沢がつぶやくように告げる。
光太郎はこの前通された部屋にまっすぐ進み,あの柱に両手を当てた。
もっとはっきり見えた。煌王を殺した男・・・大宮?まさか?こちらを向いた顔は確かに。だが,あいつは北国にいたはずだ。
光太郎が難しい顔をしたのを見て,佐藤が聞いた。
「どうした?」
「大宮そっくりなんだ。」
「誰が?」
「煌王に成り代わった者さ。」
「何だって?大宮?」
多一郎と光太郎は顔を見合わせた。大宮。まさか。
がたん。ドアが開いた、。
「おや。坊ちゃま方いかがなさいました?」
吉沢が
「いや。部屋を案内していたんですよ。渋沢さん。おもてなしの準備は出来ていますか?」
と言うと,
「もちろんですよ。さあさ,こちらへ。」
と渋沢と呼ばれた男は先頭に立って歩き出した。次に佐藤,多一郎と光太郎,後ろに吉沢が付いた。豪奢なドアが開き,中に入ると,テーブルの向こうに一人の老人が座っていた。
「おじいさま。ただいま戻りました。友人の光太郎君をお連れしました。」
「お招きありがとうございます.茨城光太郎と言います。」
「うむ。良く来たな。」
老人の声は光太郎には二重に聞こえた。黒い闇の声と細い命の声。なんだ?
「まあ座れ。おい。おもてなしだ。持ってきなさい。」
老人はゆっくりした動作で目の前のカップを持ち上げた。血のように赤い・・何だろう?
波動の触手を伸ばしても大丈夫か?いや・・闇の神官だとしたら見破られてしまう。後に誰にも見破られることのないほど精度を上げた波動の力もこの頃はまだまだ未熟だった。・・・やめておこう。
出されたお茶をこっそり探る・・・
多一郎に飲むなと合図をする。
「どうしたね?飲まないのかね?」
「今のどが渇いていないので。」
「おじいさまの飲んでいるそれは何ですか?」
煌王はにやりと笑った。
「若返りの薬だよ。」
「へえ。何で出来ているんですか?やたらと赤いように見えるんですけれど。」
光太郎の体中の毛穴が一気に開く・・・
やめろ,多一郎!!!
煌王はますますにやにやして
「これは,おまえの母親だ。」
え?
後ろのカーテンがさっと引かれた。横たわる多一郎の父母。まさか?
「はははは・・・大丈夫さ。まだ生きている。まだ・・・な。」
隣の市に逃げたのではなかったのか?光太郎も多一郎も同じ考えだった。
「すみません。坊ちゃま。」
やはり吉沢か。光太郎は唇をかみしめた。
「ここで皆さんには死んでいただきます。この東国は闇の神殿となるのです。」
「おまえは大宮なのか?」
煌王はじろりと光太郎を見た。
「大宮と呼ばれた男はわしの弟だ。」
双子か。
煌王の後ろに見える多一郎の父母。その後ろになにやら小さく光る物が見える。あれだ。あそこからもやもやした物が出ている。光太郎は素早く佐藤・・沢を見た。沢に目で合図する。
沢が頷くと同時に飛翔した。空中で回転し,多一郎の父母の元に行く。素早く吉沢が後を追う。光太郎は多一郎にここにいろと叫び,自分の姿にもどった。はっ息をのむ音がする。そのまま波動を後ろの光にぶっつけるズガ~ンという音。煙。怒声。そのまま飛び上がった光太郎は煌王の後ろをとった。たくましい腕で煌王の首を捕らえる。黒いもやの元はすでに波動によって粉々に破壊され,煌王の擬態は解けていた。大宮。ねじり上げ,落とす。
沢は吉沢と対決していた。吉沢は強い。だが沢も強い。何度も拳や蹴りが錯綜する。やがて,沢の波動蹴りが吉沢に綺麗に決まった。
多一郎は父母を揺り起こしていた。
「父上,母上,・・・・」
眠りは深い。
佐藤はことの顛末を茨城と局長に報告を始めた。
光太郎はまた擬態をし,多一郎の側に行った。
・・・
闇とも関係のない使用人達がおそるおそる出てきた。
宮殿の医師がすぐやってきて,煌王の息子夫婦を診察し始めた。
警察も呼ばれてやがてやってくるだろう。
「光太郎。おまえ・・・」
「すまん。」
「いや・・・俺もおまえに嘘を一つついていた。」
「?」
「俺は天なんかじゃないんだ。俺は闇だ。なあ。俺も,大宮みたいになるのか?」
「天の神官達はなんて言ってるんだ?」
「闇には善も悪もある。君はどちらを選ぶかねって。」
「そうだ。おまえはどちらを選ぶんだ?」
「俺は善だ。悪ではない。」
「それならそうだ。善になればいい。」
「なれるんだろうか。」
・・・・
「俺も闇だよ。」
光太郎は静かに教えた。
「俺は闇だが決して悪にはならない。決して染まらない。おまえも天の神殿でしっかり勉強しろ。そして強い男になれ。」
・・・・・
「俺は今月限りで国に帰る。いつかまた・・・そうだな。おまえが立派な跡継ぎになれた頃会おうじゃないか。」
多一郎は静かに涙を流していた。信頼していた吉沢。慕っていた祖父。全てが欺瞞だったことに7歳の少年は耐えられるんだろうか・・




