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影と呼ばれた男  作者:
第4章  飛翔
15/18

光太郎と多一郎はそれからすぐに北国を離れることになった。光太郎はまだまだ宮殿を調べたかったのだが,今は仕方あるまいとあきらめた。

 飛行機は快適で,多一郎との話も尽きない。

「楽しかったな。」

「また来ようぜ。」

「今度は事件がないといいな。」

・・・ははははは


 光太郎が茨城の家に着くと,茨城自らが出迎えてくれた。

 お帰りを言うのももどかしそうに書斎へといざなわれた。

「例の助手が大宮という男だったと聞いたが本当か?」

しっ・・・光太郎は辺りの気配を探った。大丈夫だ。

「ええ。そうでした。」

茨城はしばらく目を瞑っていた。

「そ・う・か・・・」


速見からの通信と,光太郎の話の双方から,

あの事件の真相はおそらく・・・光太郎が想像したとおりだったに違いない。

 ただ,大宮司と名乗る男が,本当に闇の神官だったのか,仲間がいたのかは,分からなかった。

「大宮の荷物に触れることが出来れば,まだ何か分かるかもしれないのですが。」

・・もしくはあの光っていた者の破片が手に入れば・・・。光太郎の言葉に,茨城は

「何とかしたいが・・・」

とつぶやく・・・

「速見さんに頼めば,何か送ってくださるのでは?」

茨城はほう,と顔を上げた。

「速見とも知り合いか?」

「ええ。」

「おまえ・・・もしかして?」

「何ですか?」

・・・・・

茨城は首を振った。

いや。分かったところで何になる。そんなつぶやきが聞こえた。


・・・・


夏休みが終わり,光太郎はまた小学園に通う毎日が続く・・・。

 疲れる・・・子どもに扮して子どもと同じことをする・・子ども達より優れているところはなるべく見せない・・・走るときはぜんそくが出た振りをする極力,運動は出来ない振りをする・・・ずっと子どもの姿をしていると,自分の姿を忘れてしまいそうだ。


・・・・・


光太郎はある冬の日,こっそり自分の姿でまちに出かけた。久しぶりの大人の姿。気分がいい。

 1件の喫茶店に入り,コーヒーを頼む。久しぶりのコーヒー。ゆっくり堪能した後,通りを行くと,向こうから高級そうな車が近づいてきた。あれは多一郎の家の車だ。そう言えば,

「今日はまちの新装開店のレストランで食事会だ。窮屈で嫌なんだが仕方ない。」

と言っていたな。と,光太郎・・浩介が思った時,車がいきなり蛇行し始めた。

・・ききききき・・・・・・嫌なブレーキ音,道行く人達の悲鳴,浩介はとっさに波動で車の前に土のクッションを出現させた。きーからからから

・・・・・・・ききききき・・・・そんな音がしばらくした後,車は煙を上げて止まった。素早く土を元通りにする。

 急いで車の所に行き,ドアを開けようとするが開かない。素早く手をキーに同化させ,ドアを開ける・・・中の人達は???

 多一郎と多一郎の母だ。二人を引っ張り出す。


 そこに後続の車がやってきて止まった。

「大丈夫か」

「どうしたんだ?」

二人を託し,浩介は,黙って助手席の人間も同じように引っ張り出した。吉沢だ。額から血が出ている。それから運転席・・・は後続車の者が引っ張り出していた。

「危ないぞ!!!」

誰かが叫ぶ。車が突然爆発した。炎に包まれる。この間ほんの1~2分の出来事だったに違いない。


「あ・・・ありがとう。」

多一郎の父が妻を抱えて礼を言った。多一郎は,気丈にも立ち上がって浩介を見ていた。

「いや。俺は偶々居合わせただけだ。何もしていない。」


多一郎が近づいてきた。

「ありがとうございました。是非お名前を教えてください。」

「いや。名乗るほどの者じゃない。」

浩介は急いでその場を立ち去った。後を追う者がいるかもしれない。

何度か道を曲がり,店に入り,抜け・・・浩介はようやく人に紛れて姿を隠すことが出来た。


 多一郎は,男の後ろ姿を見ながら,どこか懐かしさを感じていた。見たこともない男なのに。吉沢が気を失っていなければ,きっとうまく後を付けたに違いない。残念だ。他の者達は事故の後始末に忙しそうだ。しかし・・車の前に現れた土の山・・・あのおかげで助かったのだが,今は土のかけらさえ見えない。これもあの男がしたのだろうか。もう一度会いたい。会って話をしたい。


多一郎の父は,なぜ事故が起きたのか考えていた。妻と息子を亡き者にしようとする者。いったい誰だ?助けてくれた男・・・あの男は何者か。もしあの男が仕組んだとしたら?いや。そうしたら,取り入るに違いない・・・あの大宮という男のように・・・

 大宮は,百華の乗った車での事故の際,百華を助け,そのまま宮殿に入り込んだことを多一郎の父親は知っていた。あの事故も,おそらく,大宮が引き起こしたのに違いあるまい。


 レストランの新装開店にとんだアクシデント。レストラン側は,いつまでも来ない煌王の息子夫婦と孫息子に気を揉み続けていた。


次の日,学園で多一郎に会ったとき,

「昨日、俺のヒーローに会ったんだぜ。」

と言われ,光太郎は驚いた。

「ヒーローだって?そんなのがレストランにいたのか?」

「ちげえよ。」

嬉々として語られる顛末に,周りで聞いていた子ども達も大喜びだった。

「すげえ。このまちにヒーローがいるんだ。」

・・・・・光太郎は非常に居心地が悪かった。


家に帰って夕飯の時,茨城が,

「このまちにはヒーローがいるそうだな。」

と言ったのには,食べかけのスープを思わず吹いたほどだった。

「おいおい。汚いぞ。何を動揺してるんだ?」

・・・・

「いや・・・・・」

茨城はにんまり笑って声を潜めた

「昨日1日中いないと思ったら。なかなかやるな。」

・・・・・



「おまえの小学園生活もあと2ヶ月だ。早かったな。」

・・・・・

 多一郎ともあと2ヶ月か。いろいろあったな。

 しかし,昨日の事故・・・あれは仕組まれたものだ。ブレーキ・鍵・タイヤ・・・この3つに同時に仕掛けられていた術・・・闇の気配がした。

・・北国で失敗した闇の神官達が,東国に狙いを定めたんだろうか?!


 北国では,百華が,後見人となった叔母と二人でがんばっていると言う。天の神官達も何人か補佐に回り,薄黒いところがあった要人達も一掃され,新国家として生まれ変わっているところだ。闇の入る余地はない。

 

 しかしここは,煌王も年を取り,・・だが譲る気配がない。もしや煌王が仕組んだか?しかし自分の後継者を殺して何になる?


ここの宮殿に入ってみたい。

・・・多一郎は約束してくれたが,祖父から許しが出ないとかで,未だに招待はされていない。

・・浩介の姿で街を歩いてみようか・・・もしかしたらヒーロー願望の多一郎が見つけて,恩人と言うことで,煌王も渋々だろうが,招待してくれるに違いない。


 この日から,休日は浩介の姿で歩き回る日が続いた。

 こうして1ヶ月ほどしたある日,見慣れた車が近づき,脇でキッと止まった。来た。

「すみません。」

声の主は,吉沢だった。

「はい?」

振り向くと,ドアが開き,多一郎が降りてきた。

「やっぱり。あのときのお兄さん。」

「やあ。こんにちは。元気そうだね。」

「はい。お兄さんのおかげです。」

「いや。僕は何もしていないよ。」

「いいえ。僕たちを助けてくれました。」

・・・・・

「こんな所では何ですので,お車に乗っていただけませんか?」

「いやあ・・・」

「悪いようにはいたしません。この坊ちゃんのお父さんやお母さん,おじいさんが御礼を申し上げたいと言っているだけですから。」

浩介は,内心やった。と思ったがおくびにも出さず,

「はあ。まあ。」

と応えた。

幾ばくかの押し問答の後,浩介は車中の人になった。



 東国の煌王の宮殿。北国の宮殿に勝るとも劣らない豪華さだ。ただ・・・何となく嫌な気配がする。なんだ?

 豪華な接待の間に通された。こんなに豪華だとは。

 多一郎が周りをちょこまかと動き回って浩介にあれこれ説明していた。

「ふうん。歴史のある物なんだね。」

「こっちのは全部おじいさまが買ったんだけどね。」

「へえ。」

 浩介の手は忙しく動く。あちこち触って情報を集めていたからだ。壁,カーテン,柱,花瓶,多一郎が説明していく順に触っていくので,別におかしいとは誰も思わない。多一郎に感謝だな。浩介は思った。

 部屋の記憶は変ではなかったが,一カ所柱を触ったとき見えてしまった。煌王が柱にもたれて倒れていく・・・誰かに殺されているところだ・・・その誰かは素早く煌王に変化していく。倒れている煌王も。煌王は違う男の姿に変わり,煌王に化けた男がくせ者だと叫ぶ・・・

「次はね。」

多一郎が言うのでそこまでだ。別の物に移る。


「お茶の用意が出来ましたよ。」

吉沢の言葉で二人は席に着いた。

浩介の大好きなお茶の美味しそうな匂い。これも浩介の好きなケーキ。

「このお茶とケーキは僕の親友が大好きな物なんです。どうぞ。」

「ありがとう。」

素早く確認する。大丈夫。お茶は。しかしケーキは・・・

浩介は黙ってお茶を飲む。

「美味しいお茶だね。」

「ええ。こっちのケーキもどうぞ。」

多一郎がケーキを寄越す。

「ありがとう。でも僕はケーキは食べないんだよ。」

多一郎は見るからにがっかりしていた。

「じゃあ僕が食べますね。」

食べようとするのを浩介は静かに止めた。

「吉沢さん。」

「はい?」

「このケーキ,分析に回してください。」

???

吉沢の顔色が変わった。

「まさか・・・」

「多分。神経毒ですね。」

慌ただしくケーキを持って立ち去る吉沢。

多一郎は唖然としていた。

「駄目ですね。吉沢さんは。大事な多一郎君を一人にするなんて。」

え?

「もし僕が悪者だったらどうするんですか?」

・・・・・

「多一郎君,はっきり言いましょう。

あなたは命が危ない。お父様もです。」

波動で辺りは確認してある。大丈夫だ。声を潜める

「おじいさまは本物のおじいさまではありません。」

・・・・

「やっぱり・・・」

「知っていたのですか?」

「うすうすは。」


「どうしたいですか?」

「正義を。」

「そうですよね。多一郎さんの属性の1つは天ですか?」

「どうしてそれを?」

「何となくね。」

「でも僕のそれはとても弱いんです。天よりも星の力の方が勝っている・・」

「でも,天だ。」

「確かに。」

「おじいさまに化けている者は闇の神官です。立ち向かう勇気はありますか?」

しっ誰か近づいてくる。また後で。つい指文字を使う。多一郎がはっとする。

しまった。また俺は未熟さをさらけ出してしまった。


「やあ。」

多一郎の父と母だった。

しばらくの歓談の後、煌王には今日は会えないと言うことで,浩介は帰ることになった。


家まで送るという多一郎に言った。

「拾ったところで下ろしてくれ。そこで用があるから。」

降りようとしたとき,

「明日,学園で。」

と後ろから多一郎が言った。だが浩介は,一瞬驚きながらも知らん顔をして,

「また会える日まで」

と言って降りた。



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