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影と呼ばれた男  作者:
第3章 旅路
13/18

パーティ

長いです。

パーティ当日・・・持たされていた子供用スーツを着ながら光太郎と多一郎は,ボディガードから注意を受けていた。

「いいですか?会場の中央には行かないこと。子供用のホールにいること。子供用ホールに来た北国の煌王の孫娘には丁寧な言葉で話しかけること。」

・・・・・

「分かってるって。さっきから何回言えば気が済むんだい。」

いささが腹を立てている様子の多一郎を見て光太郎はクスッと笑った。

「光太郎坊ちゃまもですよ。」

・・・

「はい。」

子供用のホールにしかいられないとなると,情報の収集もままならないが・・・





意外なことに,子供用のホールには,その子ども達の親が頻繁に訪れていた。


 光太郎は,12歳だという北国煌王の娘と話をし,泊まりがけで宮殿に招待されることに成功した。もちろん多一郎も一緒だが。

 そのほかにも北国の高官の息子や娘とも大勢知り合いになれた。ここでも,多一郎の時と同じように,興味を引くような話題や道具で気を引くことが出来たのだ。あまりできすぎてもいけない。だが,子ども達は誰一人疑問に思わないようだった。


 子ども達がなつけば,当然親も気を許す。ましてや光太郎は,北国と仲の良い,東国煌王の孫と親友関係だ。それだけでもこの国の高官や煌王の系列とつながりが持てるものだった。


何らかの拍子に,正体がばれてはいけない。光太郎は波動を使うことには慎重だった。

 しかし,波動を使わなくても,人の擬態を見破ることは彼にとって容易なことだったため,会場にいる敵か味方か分からない擬態者には閉口した。


 おや・・・あれは・・・速見さん。こんなところで何をしているんだ?いつもの速見の姿とダブって見えるその男は,黒服のウエイター姿だった。

「坊ちゃん、お一つどうぞ。」

 速見がグラスを渡してくる。グラスと一緒に小さな紙片。光太郎はグラスごとそれを受け取った。

「ありがとう。」

グラスのジュースを飲む。紙片はとっくにポケットだ。速見はそれと分からぬようなウインクをして立ち去っていった。早く読みたい。後はじりじりしながらお開きになるのを待つばかりだった。



その夜,トイレで紙片をこっそり開いた光太郎は,内容を読んで唇をかみしめた。

 その後,誰にも読まれないように細かく裂くとトイレの水に流した。


 どうしたらいい?


北国煌王の娘の教育係が・・・助手だった男・・・・・・それとともに書かれた「気をつけろ」の文字・・・これは確かな情報なのか・・・招待された日は明後日・・・そこで何か分かるのか?


招待された日,光太郎と多一郎は再びスーツに身を包み,今度は家に来てもらうのでなく,出かけていった。


車を降りると,そこは宮殿と行ってもいいような場所だった。

「すげえ・・・」

「なんだ。俺の家よりすげえのか?」

「俺,まだおまえんちに行ったことねえぞ。」

「あれ。そうだったっけ?なあ?」

多一郎はボディガードの一人を見て聞いた。

・・・吉沢という男だった。教育係も兼ねているこの男はなかなかの切れ者だった。

「そう言えばそうですね。帰ってからご招待して差し上げればいいのではないですか。」


・・・・階段を上ってドアの前に着いた。周りには警報器が8ついている・・・銃の気配・・・1・2・3・・・・・5か。壁には・・・電流か・・足下には仕掛けがあるな・・・瞬時に読み取れる情報。素早く波動を引っ込める。疑われてはまずい。

光太郎は無邪気な振りをした。足下の点をさして,吉沢に

「吉沢さん,この黒いのなあに?」

と聞いた。吉沢の目が光った。何らかの分析術が使えるようだ。


「・・・何でもありませんよ。多分ただのシミでしょう。」

それを聞きつけた玄関にいた守衛か,執事かが,寄ってきて床を見た。

「すみません。汚れをもっときちんと落とすよう,メイドにきつく言っておきますから。」

「そうなの?ボタンみたいに見えるからさ。」

「そう言えばそう見えるな。面白いな。」

多一郎も一緒になって騒いでくれた。よし・・・


賑やかに宮殿に入ったところに煌王の娘,百華が待っていた。

「何を騒いでるの?」

「入り口の床にね,黒いボタンみたいなのを見つけたんだよ。」

「なあに?私も見たいわ。」

・・・・・

わいわい・・・

・・・・・

入り口付近でやってきた子ども達がみんなで床を這うようにして黒いボタンを探す様は端から見ているとどうなんだろうか。光太郎は一緒になって這いつくばりながらそんなことを考えた。

 黒いボタンは巧妙に隠されていて,黒い細かい模様の中で潜んでいた。それを探してつつきだしたのだから,宮殿の警備の者達の慌てようはなかなかの見物(みもの)だった。このボタンは何らかの仕掛けであり,これがあることは気づかれてはならないもの・・・足止め効果のある物だと光太郎は分析していた。いじり回しながら,それと分からぬように自分の命令を塗り込む。


ようやく煌王の娘の教育係だという男が出てきて騒ぎは収まった。

 この男が・・・光太郎は知らん顔をしながら多一郎と話していたが,そっと男を伺っていた。

「お嬢様,床に膝を突くなんて・・・」

それから我に返ったように,

「さあ。皆様。どうぞこちらに。」

と言って集まっていた10人ほどの子ども達を中に案内させた。その時,教育係の目が吉沢と合い,互いに牽制するようににらみ合ったのを光太郎は見逃さなかった。この二人は知り合いか。まず,泊まる部屋に案内され,荷物を置いて二人はパーティの会場に向かった。


 子どものパーティとは言え,テーブル仕立てやかざりは大人の物と比べても遜色のないものだった。広間から庭に出られるように 設定もされていて,庭にもいくつかの白いテーブルが置かれ,近くには簡単なゲームなどが出来るような道具が置いてあった。


「今日はお招きありがとうございます。」

多一郎と二人で挨拶に行くと,百華は,うれしそうに,

「あなた,中都国の大使付きの方の息子さんなんですってね。中都国のこといろいろ聞きたいわ。」

と言ってきた。


「東国についてはどうですか?」

多一郎が神妙に聞いた。

「あら。もちろんよ。でも,私まだ中都国の方と親しくお話したことがなかったのよ。だから,とても興味があるのよ。」

「私で良ければ,いつでもお話しいたしますよ。でも。まだ子どもですので,詳しくは話せないと思いますが。」

光太郎の答えをちょうどやってきた教育係が聞いていた。百華は,

「あら。大宮。ちょうど良かったわ。このお二方は,こちらが東国の煌王のお孫さん。と言うことはご存じよね。こちらの方が,子ども達の間で今人気の中都国の大使付きの方の息子さん。お名前は,光太郎さんね。」

「はい。茨城 光太郎と言います。」

「そうですか。私は,このおてんば百華さまの教育係をしています。おおみやつかさと言います。」

「ひどいわ。おてんばじゃないわ・・・」

お嬢様が抗議しているが,ここは無視・・・多一郎に任せよう。

しかし・・・

おおみやつかさ・・・何となく妙な。

「どんな字を書くんですか?へえ。大宮司・・・なんかかっこいいですね・・」

「ありがとうございます。楽しんでいってくださいね。」

そう言って今度は百華お嬢様の方を向いた。

「お嬢様,お父上とお母上がお呼びです。いったんお戻りください。」


6歳の姿では出来ることは限られてくる・・・光太郎は考えながら多一郎とともに庭のあちこちを見て歩いた。警報器がここに・・・あそこにも・・・あの木には監視用の映像機が・・・こちらは・・・・次々に入る情報。あまり伸ばしすぎてはいけない・・あの大宮司という男。だいぐうじ・・・そう読める名前。もしかしたら闇の神官?もしそうなら,俺の擬態は?ばれているのか?いや。俺の擬態はいまだ見破られたことがないのだが・・・光太郎の波動は,全ての闇の擬態を凌駕していた。自信を持て・・・どこかから声がする。そうだ。大丈夫だ。不審な動きをしなければ。


「これをやろうぜ」

多一郎がラケットを持ってきた。少し楕円の頭に羽が13枚付いている球も持っていた。

「これか・・・」

「これだ。」

光太郎は運動は苦手と言うことになっているが,このゲームだけはたまに多一郎と楽しんでいた。もちろん。力をおさえてだが。かなり癖のある動きをするこの球を打つことは結構いい運動になっていた。

二人が打ち合いを始めると周りに他の子ども達も集まってきた。

光太郎は適当なところで北国の高官の息子にラケットを渡した。

それからさりげなく近くの木に寄りかかる。木から感じられる情報がさっきから気になっていたのだ・・触ることによってより正確な情報は得られる。


木は光太郎に驚くべきことを教えてくれた。光太郎は木から離れ,食べ物の載ったテーブルに向かった。このテーブルからも何か感じられそうだ。テーブルに手を置こうとしたまさにその時,急に空気が重くなったように感じられた。

「やあ。光太郎さんでしたね。」

大宮だった。

「はい。」

振り向いて返事をする光太郎に

「何か召し上がりますか?」

と尋ねてきた。

「ええ。このタルトが美味しそうでしたので。」

大宮は手にトングを持って光太郎を見た。

「おいくつ?」

「全種類を一個ずつって言ったらどうします?」

「ははは。お取りしましょう。」

そこに上着を手に掛けて,汗を拭き拭き多一郎がやってきた。

「大宮さんでしたね。その子はお菓子となると目がないんですよ。沢山食べるのでびっくりしないでくださいね。」

と言った。

「ほう。」

大宮の目が光った。空気がますます重く感じられる。まずい。慌てて警戒する。

甘い物を沢山摂取するのは擬態者の特徴の一つだ。ばれたか?

「多一郎君のお宅で食べた物のと同じ物を,食べ比べてみたいだけですよ。」

多一郎は,皿に

「ほら。これ,食べたことあるよね。これも。これも。」

と言ってはのせていった。

「こんなに食べられないよ。」

「一緒にあっちで食べようよ。では,大宮さん,また後で。」


・・・・助けてくれたのか?もしかしたら,こいつ何か感づいているんじゃないだろうな。


その晩は,宮殿に泊めてもらうことになっていたので,ますます警戒が必要だ。光太郎は気が重かった。大宮から感じる気配・・・何だろう。今までに感じたことのないものだったのだ。多一郎。こいつはいい奴だ。年が俺に近ければ・・・本物の友だちにもなれたかもしれないな。後に光太郎は浩介として再び多一郎と接することになるのだが,今はそんなことは分からない。・・・


光太郎と多一郎が仲良くお菓子を食べていると,百華が母親とともにやってきた。

「ここにいたの?光太郎さん,母も中都国のお話を聞きたいんですって。あっちでお茶しながら聞かせてくださる?」

「私も一緒でいいですか?」

「多一郎さん。もちろんよ。」

百華の母親・・・なんだか・・・気配が・・・擬態者か?母親が?


テーブルの上にはお菓子がたくさん並んでいた。

「大宮が用意したのよ。」

・・・・・大丈夫か・・・

「これなんて美味しいのよ。中都国にも,東国にもないお菓子だって大宮が言ってたわ。」すすめられたが,気配があまりいい物とは感じられない。食べるなとささやく声がする。

「いやあ・・私はこの上のジャムっぽいのが少し苦手で。」

断る。残念そうな百華は,そう?美味しいのに。と言ってそのお菓子を食べようとした。母親が

「百華さん,太りますよ。おやめなさい。」

さりげなく食べさせまいとしている。

「くわないのか?」

小さい声で多一郎が聞いてきた。光太郎はかすかに頷き,

『ここのは食べない方がいい。』

と指先で伝えた。授業中の雑談を聞かれないために二人で編み出した方法だ。ここで役にたつとは。

『分かった』

多一郎も指先で応えた。

「私たちはさっきあちらで沢山食べてきたんです。」


それから当たり障りのない中都国の話と,今通っている東国の小学園の話で楽しく盛り上がった。百華の通っている小学園の話もなかなか興味深かった。是非,見学したい。と多一郎が言ってくれたので,自分が言わなくて済んで,光太郎は胸をなで下ろした。疑われるようなことは言いたくない。


パーティは程なくお開きになり,光太郎達宮殿に泊めてもらうことになっていた子ども達だけが残った。これから広間で夕食まで楽しい催し物があるという。

二人は広間に向かった。

「なあ。」

多一郎が光太郎にそっと話しかけてきた。

「さっきのは?」

「薬だな。多分。」

「だから百華に食わせなかったのか 。」

「おそらくな・・」


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