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影と呼ばれた男  作者:
第3章 旅路
12/18

北国

「やあ。」

「お世話になります。」

「やだなあ。なにをそんなに堅くなってるのさ。」

「いやぁ親父にさ,ちゃんと挨拶しろって言われてるのさ。」

迎えに来た車に乗り込みながら,光太郎は多一郎を見た。

車の中には多一郎と,多分ボディガード兼世話役だろう,屈強そうな男が乗っていた。


もう一人の男は,光太郎の荷物をトランクに入れている。

「飛行場に行くよ。」

「車じゃないのか?」

「途中海があるからね。船か,飛行機かってとこさ。」

「で,飛行機か・・」

「ああ。自家用のがあるからね。」

「へえ・・・」


 小学園の子どもでいるのは少し疲れるな。たまには酒でも飲みたいもんだ・・・・

いやいや。油断は禁物だ。光太郎はゆっくり車の中・・今は・・探るのはやめておこう。


・・・気を抜かないように・・・光太郎は繰り返し己に言い聞かせた。

・・・父の最後の様子が少し分かってきた今となっては,茨城の言うように,助手の行方が知りたい。夕べ見せてもらった助手の写真がよみがえる。何の変哲もない・・・黒髪のめがねの男。

もしかして,この男も擬態していたとしたら?

父の能力はどのくらいだったのだろう?

他の奴の擬態を見破れるほどだったのか?

とりとめもない思いが次々と浮かんでくる・・


「なあ光太郎。」

声で我に返った。

「北国のことどのくらい知ってるよ?」

「ええ?北国かあ?俺,良く分からんぜ。」

・・・・

「そおかあ・・・北国にはなあ,でっかい熊って言う動物がいるんだぜえ。」

「くま?」

「おおよ。でっかくて家ぐらいあるんだぜえ。」

・・・・・

あきれて黙っている光太郎に勢いづいたのか,

「おまけにな,でっかい湖があって,そこにはみっしーっていう化けもんが住んでるんだぜえ~。」

・・・・延々とその手のほら話が続く・・・俺は仕方なしに,へえ・・とか,凄いとか口を挟む・・


「坊ちゃん,そのくらいにしておきなさい。」

見かねたのか,隣の席のボディガードが口を挟んできた。

「そろそろ空港ですよ。」

前の席の男も言う

「ちぇっ」

「坊ちゃん,チェってことはないでしょう?」

・・・・・

「光太郎さんも,坊ちゃんが嘘を教えて済みませんね。」

「・・はあ・・」

間抜けな顔を作ってみせた。今のところ,怪しまれてはいないようだ。光太郎は少しほっとする。


 車から降りて,飛行機に乗る前に,荷物を開けろと言われて,素直に開けてみせる。怪しまれる物はなにもない・・・。

「おや?これは?」

「ああ。本ですよ。僕は,中都国の人間なので,東国のことについて書かれた本をガイドブックにしてるんです。

今回,北国のことも知ることが出来てうれしいですけど,東国のことも,多一郎君に教えてもらいたくて持ってきたんですよ。

後は多一郎君と一緒で,夏休みの宿題ですよ。」

「おい,おまえ・・・」

多一郎の焦った声がした。光太郎が怪訝そうに多一郎を見ると,

「坊ちゃん、私たちに宿題がないなどと嘘を教えましたね。」

とボディガードが言い始めた。

「おや。」

もう一人も多一郎をじろりと見た。

・・・・・

 飛行機の中は,二人のボディガードによる多一郎への説教タイムだった。気の毒だが,自業自得というものだ。光太郎は一人優雅にお茶やお菓子を楽しんでいられた。お菓子なら,子どもが沢山食べても怪しまれない。光太郎は遠慮なく多一郎の分も平らげた。


 飛行機から降りて,また車に乗った。多一郎の宿題については,家に連絡して送ってもらうことになったそうで,多一郎は車の中でふてくされていた。

「悪かったな。」

「いや。連絡してなかった俺も悪かった。」

・・・・・

「次の機会では,宿題は持ってこないことにしようぜ。」

・・・・

「それはどうですかね。お坊ちゃん。」

「げ・・・聞こえていたのか。」


この三人。なかなか親しいんだな。うまく仲間に入れてもらえるといいんだが。



北国での生活はなかなか楽しかった。

部屋が同じなのには閉口したが・・・毎日の訓練が出来ない。食事が十分でない。この2つが光太郎の悩みとなった。毎日の訓練は,ぜんそく設定で,体育もろくにしていない光太郎では走ることも出来ない。

 そこで,体を鍛えるために,毎朝走ることを夏の課題にしたと言うことにして毎朝走ることにした。

 初日は多一郎もボディガードも付いてきたため,少しをゆっくりとでしか走れなかったが,2日目からは,ねぼすけの多一郎は来なくなり,ボディガードも,あの速さと距離なら大丈夫でしょう。と付いてこなくなったため,快適に走れるようになった。

 もちろん,監視カメラやセキュリティなどを避けることは波動で探れば簡単だった。

 この時間だけ本来の姿に戻って,骨を伸ばせればもっと良かったかもしれない。だが,どこでぼろが出るか分からない。光太郎は決して擬態は解かなかったが,30分位を集中して運動するので,これはこれで充実した時間となった。


午前中は勉強、午後からは虫を採りに行ったり,湖に泳ぎに行ったり,普通の小学園の子どもがするようなことを満喫した。子どもの頃は毎日訓練と勉強ばかりで遊ぶこともなかったなあ。と光太郎は思い返した。これはこれでもう一度小さい頃をやり直しているようで楽しいのかもしれない。


「おまえ,おやつをすっごく食べるのな。」

「おやつは俺の命だ。」

「へえ。それでいて夕飯もちゃんと食べるしなあ。」

まずい。疑われている?

「明日親が来るだろ,明後日にはここでパーティがあるんだ。食ったこともないようなお菓子が沢山出るぜ。どうだ,楽しみが出来ただろ?」

「おお・・すげえ。どんなのが出るんだい?」

あのなあ・・・・でっかい・・・


光太郎の頭はめまぐるしく回転していた。パーティ。もしかしたら,キーになる人物に会えるかもしれない・・・

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