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影と呼ばれた男  作者:
第3章 旅路
10/18

22歳


「浩介。」

朝食の席で

「おまえ、1年位,東国の板東学園の小学部に転入してこい。」

「はい?・・・え?小学部って・・・先生かなにかになるってこと?」

「ばあか。転入だって言ってんだろ。」


・・・・・


「何のために?」

局長は,焦がすこともなくなったトーストをかじりながら,浩介を見た。

「諜報行為をするためさ。」

え?

「俺,まだ進路を決めたわけじゃないんだけど。」

「だからさ。」

浩介はコーヒーを飲んでいる局長を見返した。

「だからって?」

「実際に自分を試すのにもってこいだろう。」

局長はカップをテーブルに置いた。


「・・・実はな・・東国の煌王の孫息子が小学部に来年入園するんだ。 」

浩介はきょとんとした。

「東国の煌王は,5カ国の中でも相当のくせ者で通っていてな。あちこちの国からいろいろ狙われていたり,反対に狙ったりしているのさ。」

まだよく飲み込めない浩介に,

「だからおまえがご学友になって,懐に入り込めればいいと思ってだ。」


・・・・・


「そんなに小さな子になったことがないよ。」

「これから特訓だな。」

「まだ引き受けるって言ってないよ。」

「いや。おまえは引き受けるさ。」


・・・・・


「なぜ?」


局長は急に居住まいを正した。

なんだ?

「おまえの父親が命を落としたのは東国でなんだ。」

初めて聞く父の情報。そう言えば,局長に聞くこともなかった。俺は薄情な人間なんだろうか・・・ふと胸をよぎる。


だが・・・


・・・そこで命を落としたとは?どういうことだ?


「当時、あそこの学園で大がかりな人体実験を行っているという情報があってな・・・」

父はその調査のために潜入し,何らかのアクシデントに巻き込まれて死亡したという。

一緒に行っていた仲間によって,遺骸はなんとか回収されたが,とても見れるものではなかったらしい。


それでか・・・それで葬式は終わったと言われたのか・・・

 では・・・あの父の形見とは?

父の形見として渡されたのは,意外なことにロケットだった。中に浩介と父と母三人が笑って写っている写真が入っている・・・今まで気にもとめていなかったが,父が肌身離さず持っていた物であったとしたら・・・


浩介も居住まいを正した。いつもの授業を受けるときのように。


「形見に渡されたロケット・・・父が身につけていたんでしょうか?」

・・・

「ロケット・・実は,我々もじっくり調べたが,何の変哲もないものだった。

・・・だが,今のおまえなら,何か分かるのではないのか?」


・・・どこにしまったっけ・・あのロケット。浩介は記憶を探った。


「ロケットをどこに置いたか・・覚えていない・・・」

「それなら。おまえが来たばっかりの頃,なくすといけないからとおまえが俺に寄越したぞ。それで俺が預かることになったじゃないか。」

どうりで。記憶に引っかかってこないはずだ。


「あれは地下にある。」


浩介は身震いした。ロケットから読み取れる波動に俺は耐えられるんだろうか。


浩介は地下の局長室に一人いた。


 局長室の机の上にはロケット・・・。局長は浩介にそれを示すと,黙って部屋を出て行ったのだ。


 浩介は波動で静かに・・慎重に・・それを探っていく・・・


 幸福感・・・愛情・・・あふれんばかりの記憶が浩介に流れ込む・・・そこには何ら負の感情はない。浩介への愛・・・妻への愛・・・それしか感じられない。


 浩介の目にいつの間にか涙があふれ・・・流れていた。

 思えば,父親が亡くなったと聞かされても泣かなかった浩介が,父のために,失われた家族のために,初めて流した涙だった。


俺は絶対父の死因を探る。父のために・・・いや。俺自身のために。


しばらくして局長が部屋に戻ってきたが・・・静かに泣いている浩介を見て,黙って部屋を出て行った。




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