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色彩  作者: 蒼依ゆき
第一章
8/37

308号室、橙色(おれんじいろ)

今日は色々とハプニングがあった。

いつかは来ると思っていたけど、いざその時となると頭が真っ白になるらしい。




白石さんに出会ってからもう2週間以上が経とうとしていた。


時の流れって早いなぁ、なんて改めて感じたし、多分これは白石さんと出会ってから入院生活が楽しかったお蔭だよなぁって思う。



だから俺はいつも通り白石さんの病室まで来ていた。

時間もいつも通り夕食の2時間前だった。

俺の楽しみの時間。



「…えっと…どなた様でしょうか?」



しかし数回ノックして開いた扉の向こうにはいつも通りの光景ではなく、見慣れない光景が目に飛び込んできた。


その見慣れない者の原因が俺のことを訝しげに見つける。


お前こそ一体誰なんだと睨み返したいところだが、あっちからしたら俺の方が異様に見えるだろうからそんな阿呆なことはできない。


この人が誰だか知らないが、ここにいるってことは白石さんの知り合いなのだろう…多分。


一瞬何が起こったか理解できずにポケっとしていた俺は、思考をフル回転させそこまでの結論に至ったわけだけど。



「「あの」」



重なる2人の声。

あ…と気まずそうに目を合わせる2人。


結局そのままお互い黙ってしまったわけだけど。

どうしよう、声出し辛くなった!!


俺が絶望感に浸っていると目の前の男の人は静かに俺の肩を叩き、チョイチョイと外を指さして先に出て行った。


外で話そうと言う事なのだろうか?


よく分からなかったが、とりあえず悪い人ではなさそうだし着いて行かないと何も分からなそうだし。


俺はほんの数秒考えてから後を追った。



「すみません、急に外へ呼び出してしまって」



しばらく黙ってついていくとそこは屋上だった。



「あ、いえ、俺の方こそ突然押しかけてしまって…」



へぇ、ここって屋上に上がれたんだぁ…なんて緑の草や綺麗な花々に囲まれる屋上庭園をぐるりと見渡して感心していた俺は、声をかけられたことに一瞬反応が遅れてしまった。


そんな俺を見て何があったのか察したのか、彼はフッと優しく笑った。

その陰のある笑顔はどことなく白石さんに似ている気がした。



「珍しいですよね、屋上庭園なんて」


「あ、はい。俺も初めて見て…」


「ここも最近建て直したばかりで、前までは屋上庭園なんてなかったらしですよ」


「そうなんですね」



普段病気なんてしない俺は病院なんて縁のないものだ。

そして市立病院なんてもっと縁がない。


だから元の市立病院がどんな感じだったのかとか、いつ変わったのかなんて知らなかった。


まぁ、きっとこんな大きな病院は今回限りになるだろうなって思うけど。



「僕は白石那珂(しらいしなか)那津(なのつ)の兄だよ」


「おっ…!?」



お兄さん!?

俺は思わず叫び出しそうになる口を慌てて塞いだ。


そして周りを見渡して他の利用者を気にしたが俺のことは気にしていないらしく各々のことをやっている。


それを見て俺は手を外してふぅ、と大きく息を吐いた。


あまりの衝撃に俺の心臓は鳴りやまない。

いつかは誰かに出会うと思っていたけれど、まさか肉親の方なんて。

いや、むしろ肉親の人に会う確率の方が高いじゃん、俺馬鹿なの?



「そんなに俺と那津って似てないかなぁ」


「あ、いえ!別にそういう事では!!」


「冗談ですよ」



可笑しそうに笑った白石さんのお兄さん。

もしかして俺の緊張を解らせてくれようとしているのだろうか?


こんな名も知らない、妹へと近づく不審者に限りなく近いアウトオブ不審者の俺を。ええ自覚はしておりますとも、おりますとも!!



「ところで君は黒岩くんですよね?」


「え?」



なぜその名を!!

きっとそんな顔をしていたに違いない。


白石さんのお兄さんは俺が驚いていることが当然かのような顔をして話を続ける。



「僕、毎日お見舞いに来ているんです、夕食前位に。それで君のことをよく見かけていたのでどこの誰かと思って氏名特定のため、一度後を着けちゃいました」



この人はきっと恐ろしく妹想いの優しい兄なのだろう。


その行動も俺が批判できるものではないし。

事実知らないやつがいたら気になって後つけちゃうよね、きっと…多分。



その時に声をかけられなくて本当に良かったと思うよ。

あの時はまだ慣れなくてオドオドしていたし。

そうか、それが尚更不審者に見えたんだな、納得したよ俺。



「なので勝手に後を着けてしまったことをお詫びしようと思いまして」


「いや!別にそんな!」


「あ、気にしていないのなら良かった」



何この人、俺ちょっとよく分からない!!


ド天然なのだろうか、俺の言葉をド直球に受け取った白石兄は安心したように胸に手を当てた。


いや別にいいんだけど、いいんだけどさ!

ストーキング(仮)をしたことに対してもっと、ね!?

俺も悪いんだけどさ!!


ちょっと頭の中で混乱しまくる俺だけど、このことに関してこれ以上言及するわけにもいかないし、とりあえず自己紹介はしないといけない。


なんだかする必要はない気がするけど、なんかこのままじゃ誤解されたままになりそうだし。



「えっと…俺は黒岩那津(くろいわなつ)です。一応交通事故に遭ってここに入院してて、リハビリの最中です」


「交通事故…怪我はもう大丈夫なのですか?」


「はい、昏睡状態だったみたいなんですけど、今はもう順調に良くなっています。あ!白石さん…那津(なのつ)さんとは病院で知り合ってですね、それで仲良くなったというか、仲良くなってもらったというか…」



そう、ここが重要。俺は決して不審者ではありません、しっかり知り合いとしてのお付き合いを、ですね。


そんな俺の言葉聞いたお兄さんは俺と白石さんの出会った経緯などを聞いてきた。


まぁ当然だろうなって思ったから、隠すことも躊躇われたし、別にやましいことをしているわけでは無かったため正直に今まであったことを話した。



「じゃあ妹の昔からの友達ってわけではないんだね…」


「そうですね、この病院で初めて彼女に会いました」



俺改めて肯定するとお兄さんは少し残念そうな顔をした。

俺は白石さんのことはまだまだ全然わかっていない。

2週間も連続で会いに行っているくせに、と思われると思うけど仕方ないのだ。


なぜなら俺と白石さんの一緒に入れる時間は1日2時間、そう夕食がくるまでの2時間。


もっと早く来れればいいのだけど、俺にもリハビリと姉の面倒を見ると言う役目があるのだ。


早く治さないと。

医療費も姉さんが働いたお金で出しているわけだし。


まぁ、そんなこんなで俺と白石さんは実質の会っている時間はかなり少ないと思う。


そこで話すことはその日の天気だったり俺のリハビリ状況、姉さんの愚痴。


そう言えば白石さんの話は聞いたことなかったなぁ…今度聞いてみよっと、お兄さんいたんだね!から会話を広げるとして…



那津(なのつ)は元気にしていますか?」


「え?あぁ、多分元気だと思いますよ。怪我もしていないですし…でも目が見えなくて耳も聞こえないんだからすごく不安だと思います」



俺の言葉に眉を下げ「そうですよね」と言ったお兄さんを見て俺は言葉を間違えてしまったと後悔をした。


ここは元気ですよと言うだけでよかったのに俺はなんて頭の回らないやつなんだろうか。


するとお兄さんは置いてあったベンチに静かに腰を下ろせば、自分の隣に座るように俺を促した。


俺は促されるまま隣へと腰を下ろし、沈黙の気まずさに視線を泳がせる。



「…妹は、後天的なんです」


「え?」


「昔って言うほど過去のことでもないかな…そう、つい最近までちゃんと普通の女の子で、学校にも行ってたのです」



まさかお兄さんから白石さんのことを聞くことになろうとは思いもしなかった。


しかしこれは反則と言うやつではないだろうか?

本人に聞かずして本人のことを知るなんて。

それでも知りたいと思う俺はきっと卑怯者なのだろう。



「色々あって今は目も見えないし耳も聞こえない状態で入院しているけど…そのせいで、うちの両親の過保護が更に酷くなってしまって」


「いきなり入院ってなったら仕方ないですよね」


「でも母さんたちは那津(なのつ)が外に出ることをよく思わないせいで那津はずっと病室の中ですから過保護すぎるのも考え物だなって思います」


「お医者さんから言われて、とかではないんですか?」


「松川先生は…あ、担当の先生なんですが、その先生はできるだけ外に出た方がいいかもしれませんって言ってくれているんです」



お兄さんも白石さんには外へ出てほしいらしい。

まぁ、ずっと室内じゃ気分も滅入ってしまうだろう。


俺だってしばらく動けなかった間は、同じ景色しか見られなくて声も出せないから喋ることも出来なくて、だから気分が滅入っていた。


そんな俺をおかしそうに笑う姉さんを見られたのは安心したけど…

目を覚ましたばかりの時は姉さんすごく不安そうな顔してたからね。



「ですから、今度から那津に会いに来て下さるときは気をつけてください」


「それはどういう?」


「母さんたちに見つかったら大変、ということです」



がんば!と言っているように見えるその笑顔は、俺を恐怖させるには十分すぎるものだ。そしてお兄さんの言いたいことはそれだけでしっかりと伝わった。


次からは本当に病室に入るときは気を付けないと…俺の人生が終わる気がする。



「お兄さん…恐ろしいこと言わないで下さいよ、ホント」


「親切ですよ。あと僕のことは那珂(なか)でいいです」


「あ、じゃあ那珂さんで」


「はい、ありがとうございます」


「俺のこともナツって呼んでください。あと敬語じゃなくて普通に話してください。たぶん年上ですよね?」


「じゃあ僕も遠慮なく…ナツくん、これからよろしくね」



お互い握手をしてから少しだけ他愛のない話をして別れた。

ほんの15分くらいの出来事だったと思う。


那珂(なか)さんは用事があると言って白石さんの病室には寄らずに帰って行ったけれど、ヒトコト言わずに帰って大丈夫なのだろうか?


まぁ、大丈夫だから帰ったんだろうけど。



「そう言えば結局詳しいことは聞けなかったなー」



セコイことしようとしていたのを神様にでもバレちゃったかなぁ。

やっぱ自分の口から白石さんに聞いた方がいいのかなぁ。


那珂(なか)さんからは結局、詳しいことは聞けずに終わったわけだけど。

しかし、ただ深まっただけの白石さんへの謎に俺は頭を抱える他ない。


俺はまた大きくため息を吐く。


考えていても仕方ない、とりあえず目の前に立ちはだかる『白石那津』の病室の扉を開けなければ。


しっかり病室内に人がいないかをチェックしてからね、うん。

那珂さんのせいで変な警戒心ついちゃったよ、全く。


俺はそして扉に手をかけた。


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