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色彩  作者: 蒼依ゆき
第一章
3/37

308号室、混合色

「…」


「…」



あれかはどれくらいの時間が経っただろう。

なぜだか微妙な沈黙が訪れております。


仕方なく黙って姉さんが泣き終わるのを待っていたのに、泣き終わったかと思ったら今度は姉さんが黙り始めたのだ。



「姉、さ?」



出しづらい声を無理やり発してだんまりを決め込む姉に声をかけるが微かに動くものの俺の声に答える様子はまだ無いようだ。


だから俺なりに今の状況を推測してみる。


まず、この部屋…白いこの部屋はどう見ても病人が搬送される場所だ。


そして俺のこのダル重い、略してルモイ体。

これは俺に何か起こった証拠。


更に不自然なところで途切れた記憶。

これはもう決定的だ。


そう、これらの事実により浮かび上がる解答はただ一つ!

俺は何かの人体実験の道具にされてしまったってことさ!


だから俺の姉さんはこんなに黙り込んているんだね、きっと俺に言い辛いんだ。


分かるよ姉さん…唯一の家族だもん、俺も姉さんがこんな状態で言えない理由があるとしたら苦しいよ。


そして俺は今、物理的にも苦しいよ。



「あんた、また馬鹿なこと考えてるでしょ」



やっと口を利いてくれたかと思えば暴言を吐くこの姉。


未だに俺を離そうとしないのは変わらないが、そのままの状態で言われると耳に近いから精神的ダメージ倍増だよ。


てかその抱きしめにくい格好疲れないのか、今更だけどさ。



「…あんた、目ぇ開けるんじゃないわよ」


「は?なん、」


「刺すわよ」


「うぃっす」



俺は早急に目を瞑る。

やはり姉には勝てないと痛感した。


しかし姉のこんな態度の理由を俺は分かっていたから。


鼻をすする音が小さくだけど、聞こえる。

姉さんが俺に泣き顔見せたのって何年前だっけ。


目を瞑りながら随分昔だなぁ、と幼かった頃の自分たちを思い浮かべながら思った。



「状況理解が出来てないみたいだから私がわかる範囲で最初から説明するわね」



そして話し始めた姉さんから聞いた話は、誰か違う人が起こした事件かと思った。


まるで現実味がない、そんな内容。


だって俺が交通事故に遭って2週間ほど眠っていたなんて、そんな馬鹿な話だぞ?


事故当時の詳しいことは分かってはいないが、トラックが突っ込んできたとか。


俺は頭を軽く打っていた為に意識が戻るのに時間はかかったみたいだが幸いにも打ちどころがよかった為、酷くはならなかったとか。


幸いにもっていうのも可笑しいけど、なんかもうトラックに轢かれて生きてる俺スゲーとしか言えないわ。



まぁ、とりあえず大変だったのはこの後からだった。


右足と左手を骨折していた俺(どうりで痛みが段違いだと思った)は、一ヶ月ほどの入院を言い渡された。


骨折だけなら、まだしも体の筋肉が固まっていてうまく歩けないから思っていた以上に辛い。


リハビリ楽勝とか言ってたあの頃が懐かしいな。


姉さんいわく「寝過ぎ」だそうだ。

全くその通りです。


てな感じで俺のリハビリ生活が始まったわけだが、なんだかんだ言って生きてたことの喜びは大きかったと思う、きっと姉さんも。



時間は飛ぶが、リハビリに励みだしてから2週間が立った頃、俺は若い力で順調に回復していた。



「俺の生命力半端ねえ」


「そうね、まるで黒光りしてるヤツみたい」


「やめて、その例えやめて」



俺は笑いながら姉さんと廊下を歩く。

と言っても俺は車椅子で、姉さんがそれを押してる感じなんだけど。


でもこんな冗談を言い合えるほどに俺の体力も、姉さんの精神も安定してきてて、相変わらずの姉さんに戻ったことが俺は嬉しかった。



「じゃあ私はもう帰るから」


「また明日も来るの?」


「んー…明日は仕事長引きそうだから無理かも」


「おっけい」



今まで毎日来てくれてたせいもあって少し残念には思うが、仕事なら仕方ない。


遠ざかる姉の姿を見送り、見えなくなった頃に俺も自身の病室へと戻ることにした。


パタパタと看護師さんや他の患者の足音が通りすぎる中、俺は車椅子を前に進める。


『那津』


自分の名前の書いてある表札を見つけ、今日はなんだか早く付いた気がするなぁなんて思いながら扉に手をかけた。



「きっと車椅子が楽しすぎるせいだな」



そんな馬鹿な独り言を呟きながら扉を開けて後悔する。

調子に乗り過ぎた報いだろうか。


俺は目の前の光景を見て、静かに後ろに下がり部屋の表札を再度確認した。


『白石那津』


…誰。

いや俺が誰だよ!!


思わず表札をガン見して心の中で全力で突っ込む。


だってあっちからすれば、いきなり知らない男が部屋に入ってきたんだから。


これはやばい、と『白石』と思われる人を目に捉えた。


しかし、その人はジッと窓の外を見つめたままこちらを向こうとはしなかった。


まるで俺がここに存在していないような、彼女の世界に俺はいないんだって言われてるような…そんな気がした。



「あの、」



俺は思わず声をかける。



「…」



それでも彼女の反応はなかった。

真っ白で広いこの空間に取り残されたように、ただそこに座っている。


不思議と俺は引き込まれるようにして部屋に入っていった。

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