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色彩  作者: 蒼依ゆき
第一章
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306号室、黒色

意識がはっきりしてからどれくらいの時間が経っただろうか。


未だに周りの空間は真っ黒だ。

何も聞こえないし、何も見えない。

理由はわからないが、ただ、黒く静か。

でもそこには恐怖はなく安心感があった。


この真っ暗な空間は一体どこなのか。

そして、どうしてそんな所にいるのか。



自分が一体誰なのか。



そんな基本情報も理解できないこの状況だが、むしろこんな状況に心底安心している。


何も見えない、何も聞こえない、何も知らない。

何も出来ないことへの安心感。


変なの。


そう思いつつ感覚がある手を動かしてみた。

やわらかい布みたいなものがわかる。

どうやらここはベットの上。

そこに寝かされているようだ。


動けるあたり怪我をしている訳ではないみたい。

ほら、こういう状況って小説でよくあるじゃない?『拉致監禁、その際に大怪我をし入院』みたいな。


…あれ?本の読み過ぎかな。

本読んだ記憶もないんだけれど。



「…あー…」



一応、声は出るらしい。

まぁ、当たり前か。


何も見えなくて、聞こえないことの方がおかしいのだから。


私が手を上に持ち上げながらグーパーグーパーとしながら冷静に状況判断をしていると、いきなり手を握られる感覚がした。


それに思わず体が強張る。


いきなり手を握られたこともそうだが、いつの間にかそこに人がいたことに気づけなかったことにも驚いた。


もしかして私は暗い空間にいるわけではないのか?


そんな疑問を抱き、そしてキツく握られている右手には懐かしさを感じていた。


しかし誰の手なのかは分からない。

知りたいとも思わなかった。

いや、知っているはずだ。

私は覚えている。


真っ暗な世界から私を引っ張りだしてくれるような力強さを感じるこの手の、この懐かしい感じ…


嫌だ、触らないで。

何も思い出したくないの。


暗闇の中に光が当てられるような気がして、ひたすらに恐怖が膨れ上がった。


何も思い出したくない。

やめて、やめてよ。

私の震えは止まらない。


私は無意識に、思わず、手を振り払ってしまっていた。


気づいたらもう手は握られてはおらず、持て余されたその手を慌てて自分の方へ戻し、握りしめる。


少しの罪悪感はあった。

きっと、絶対この人は私の知ってる人。

そして多分私は病院にいて、この人はお見舞いに来てくれた。


そんな人の手を…でも…


目が見えているわけではないが、そこにいるのであろう恐怖の元凶に顔を向けた。


そして首を横に振り、しばらくジッとする。

何も分からない状況。


目の前にいた人はどこかに行ったかもわからない、もしかしたらまだそこにいるかもしれない。


また手を握られてしまえば叫び出してしまうかもしれない。


そんな中また、突然私に触る手が現れた。


私は一瞬ビクッとなったが、それは先程までと同じ手ではなく機械的な感じの手で少しホッとする。


機械的なって言ったらおかしいけど、決められたことをやっている様な手だ。


それからどのくらいの時間が経ったか。


何かされたような気はするが、何をされたかまでは分からないまま部屋は静かになった。


きっと誰もいなくなってしまったのだろう。

感覚的に、なんとなーく分かる周りの状況。


そこで私は一息ついた。



「はぁ…見えないって不便だなぁ」



自分がいつから目が見えない状態なのか、それは分からないが記憶の中にある風景の数々を見るに、きっと生まれてから目が見えないわけではないらしい。


そして、耳もまた然り。


でも今現在、私は目が見えなければ耳も聴こえない…だからきっと何かしらの病気だろう。


変に冷静だけど、そうじゃないとこの状態の説明がつかないし。


それにこうなる前の記憶もないもんだから混乱する余裕もないのだ。


あるのは少しの知識と風景の記憶。


とりあえずキョロキョロしてみるけど目が見えないから、空とか見たいけど見れないし。


何か聴きたいなぁって思っても無理だし、だから音楽とか論外だし。



「これはなぁ…」



唯一できることは喋ることだけど、聞こえないのに誰としゃべろと。


点字か、点字なのか?私分からないよ?

え?コミュニケーションどうしよう。



とりあえず私が言いたいことは一つだ。



「暇すぎる」



私はまた一つため息をついて見えない天井を見上げた。

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