308号室、白色。
目が覚めたら真っ白な天井があった。
そんな小説のテンプレみたいな言葉がまず頭に浮かんでしまったのは、本当に真っ白しかなかったから。
ここはどこなんだと体を動かそうとするが体は重たく、とてもダルい。
とりあえず目だけをキョロキョロと動かしてはみるものの、ここはどこかの白い個室としか認識できなかった。
それ程にも殺風景で何もないこの部屋。
なんだか落ち着かないぞ。
しかし体は動かしたくないぞ。
俺は不思議に思いつつ声を出そうと口を開いてみた、が
「っぁ……?」
声もうまくは出なかった。
喉になにか突っかかっている感じ。
自分の意志では治りそうにもない。
かすれた声は、カラオケで歌いすぎた時のあれを思い出す。
まぁ、あれよりは酷いんだけど。
一体何が起こったんだ?
自分の身に何が起きたのか未だに理解できず、混乱で頭がグルグルする。
落ち着け、大丈夫だ順を追って思い出そう。
俺はひとつは深呼吸をして、無意識に天井を睨んだ。
俺は確かさっきまで学校に行っていたはずだよな。
ちょうど下校するところ…うん、そうだ、放課後だった。
俺は部活とかしてないから小学校からの腐れ縁である良樹と帰ろうとしていたんだ。
帰ろうって言っても家の方向が真逆だから、学校前で別れるようなもんだけど。
違う、そうじゃない。
そんな事はどうでもいいのだ、その後だ後。
俺は気を取り直して先程まで自分がいた場所を思い出していく。
自身の通っている校舎、教室、校庭。
霧がかかった記憶の中を必死に駆け巡ってみるが寝起きのためか、はたまた別の理由からか、まだ頭がボーッとしていた。
見知った風景ばかりが頭をかすめて肝心の部分が思い出せない。
毎日同じ風景ばかりを見ていたからどの時間軸の記憶かも曖昧すぎる。
しかし下校してるところまでは思い出せている。
確か学校前にある『必要性があるのかこの信号機』で有名な信号前で良樹と別れて、帰ったらモン○トしようか、それともモン○ンしようかなんて考えながら信号待ちをしていた。
まぁ、それはいつものことなんだけど…
そこからだ、そこからいつもと違うことが起こったはずなんだ。
なんだったかな…信号機がチカチカし出した…違うな。
猫が塀の上を歩いて、るのはいつもだな。
変なことしか思い出さないな俺。
俺の日常が平和すぎて怖いわ。
そこでカーテンの隙間から太陽の光が差し込んできた。
体が動かせないから直射日光がキツイ。
眩しいな、おい。
そして、ふと思い出す。
待てよ、確か変な音がしたんだ。
それで後ろを振り返って…そうだ、多分そこで何か眩しい…
よし、少しずつ思い出してきたぞ。
あと少しだ、頑張れ俺。
ガラガラ
突然ドアが開く音がした。
俺はいいところまで思い出せていたのだが、そこで思考を停止させる。
そして同時に震えた声が届いた。
「那津…」
聞き覚えのある声と、聞き覚えのある名前。
俺がそちらに顔を向ける間もなく抱きつかれてしまった。
小さな衝撃だが体中に痛みが走る。
「ったぁ…」
そこで自身の体はダルくて重いのではなく、痛くて動けないだけだと気付かされた。
やっと発せられた声は少しかすれていて、風邪を引いたわけではないのに変な感じだ。
とりあえずついて行けない状況だが、泣きながら俺に抱きつくこの人のことを俺はよく知っていた。
「那津、よかった、よかっ…」
「い、痛、ね、」
この人は俺の唯一の家族の姉さんだ。
「うるさい!」
「はぃ…」
しかし俺のかすれた悲鳴は一括されてしまった。
出ない声を振り絞ったのにも関わらず、ギュッと抱き締めてくれる力は更に強くなる。
なぜ姉さんが泣いているのか、なぜこんなにも体中が痛いのか。
思い出せそうで思い出せないこの状況に腹立たしいが、腹が立っていても仕方ないのは分かっている。
だからこの状況の説明というか、補足というか。
そういうのが欲しいのだけれど…
これじゃあ俺が昔読んでた、読者が追いてかれて売れなくなっちゃった小説と同じ末路だよ。
とはいえ今の姉さんに声をかけたところで怒られるんだろうなぁ…声出すのもなんか面倒くさいし、かれてるし。
てか痛みが次第に無くなってきたぞ。
これ俺死ぬかな。
なんて思いつつ俺はゆっくり目をつむった。
仕方ない、売れなくなった場合は俺が買ってやろう。
そしてそのまま押し入れの奥底で保存しよう。
なんて冗談は置いといて…
とりあえず姉さんが落ち着くまで待つか。
それにしても、それまで何してよう…暇だなぁ。