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ルームシェア

ルームシェア③

作者: mint

ルームシェアもなんだか続いてきてしまいました。

初めは本当に単発の予定だったんですが。

ちょっとギャグ色強めです。

お楽しみいただければヾ(@⌒ー⌒@)ノ

ーー拝啓、お父さんお母さん

私は今、人生最大のピンチを迎えております。

助けて下さいっっ!



事の始まりは忘れもしない2週間前。

新しいルームメイトが引っ越してきた事にある。

今までのルームメイトは基本絡まないようにしているのもあってか、割と皆1、2年くらい居たりするし、こちらにも特に害は無かった。

それが、だ。

引っ越してきたその隣人がいきなり行った事といえば、謎の匂いを発生させる装置を設置し、謎の料理を作るために色んなわからない植物が干からびたものを揉んだり擦ったりしているではないか。

そしてそれもどちらもが、今まで経験した事の無い香りを発生させる上に、発生した香りが全くと言っていいほどとれないのだ。

これまでの人生に無かった香りに最初の三日間は悶絶したものだ。

それから本を読んで知ったのだが、隣人はインド人だったらしい。

そういえば肌は浅黒かった気がしないでもない。


インド人のお人は女性だったから、余計なのだろう。朝、晩ときちんと自炊しているが、それが全てカレーという食べ物だったらしい。

近所の友人が遊びに来た際にカレーの香りで美味しそうだと喜んでいたっけ。

けれども毎日それが続くとなるとたまったものではない。

確かに慣れると食欲をそそるいい香りだということは分かるが、毎日毎日この香辛料とかいう漢方薬のような香りを嗅がせられるというのはある種の拷問ではなかろうか。

唸って色々試行錯誤を試みる事にした。

例えば、生活時間をずらしたり、彼女が料理をする時間は出掛けるようにするとかだが、しかし。そんなものなんの意味も無かった。

なぜならこの香辛料の香りとやらは、とれないのだ。

例え彼女が全く料理をしなくても、前日の香りはずっと残っているし、キッチンにある硝子の中の植物の粉からはその芳香が漂い続けるからだ。

これには流石に参った。

今までの隣人の中でも歴代一位を誇る迷惑さである。


そして一番の問題は、彼女には全くと言っていいほど抗議が届かないということである。

色々試みているのだ。少しでも自分が迷惑しているのだというアピールをしているのだが、それが全く通じない。

電気を点けたり消したりしてみたり、ドアをバタバタしてみたり。あんまり怖がらせてもなんなので少し控えめではあるが、抗議したのだ。だが、ダメだった。


耳元で囁いてやろうかとも思ったが、言葉が解らないと困るかと思ってそれは試していない。でも一応、彼女は普段見ているTV番組は日本のものだし、ニュースも日本語のやつだ。どこまで解っているのかわからないので試せないでいる。

たまに大勢の人が踊って歌っているやつだ。日本語ではないから恐らくインド語なのだろう。そちらは鼻歌混じりに楽しそうだし、口ずさむ事もあるからやはり囁くのは止めた方が良さそうだ。

そんなこんなで試行錯誤を繰り返し二週間という時間が経ってしまったわけだ。

あんまりにもこの日々が辛くて、つい先日の集会で友人達に愚痴をこぼしてしまった。


「は?何?あんたんとこ国際的じゃん?!」

言ったら大爆笑され、ついでに有難くもないアドバイスを頂いた。

「イイじゃん!美味しいカレーのレシピを教わっておきなよー。いつか、彼氏とかに食べさせれば?」

全く他人事だと思ってと、心の中で悪態をつく。

「でもさ、何にもイタズラに反応しないって事は、あれじゃない?所謂最強の無感症なんじゃない?」

まただ。聞き慣れない単語が出てきた。

なんだ、無感症というのは。

この友人達はまだすごく若いからかもしれないが、こういう時に感じるのだ。ジェネレーションギャップというものを。

「あーね、それヤバイよね。」

一番年若いこの娘日本語には驚かされるばかりではあるが、あーねってなんだ。何にでもヤバイというのはやめて欲しいところだが、今は相談に乗ってもらっているのだから、文句は言えない。

「前のオトコがそれでサイアクだったよー。もう、汚ったないんだもん。ヒッキーでさ、ずっっっとゲームしてて臭いし。仕方ないから、必殺技使って追い出したけどー」

マジでー、とかなんとか盛り上がっている。

若いって強いなと思ってしまう。

「必殺技って?」

このままでは、追い出した自慢が始まりそうだから、ちょっとだけ自分の問題解決に向かう方向に誘導を試みる。が、失敗だった。

「そいつは、ずっとゲームしてたから、夜中にTV画面にイタズラしてさ。可愛い女の子がいっぱい出てくるやつだったから、その女の子の顔を血みどろのぐっちゃぐっちゃにして、で、照明を点けたり消したりしてさ。そしたらヒイィィイ助けてぇええって!出て行ってくれたわけー」

「ぎゃっはっはっ!やるねー。私もねー似たようなのやったよー」

「……。」

正直、聞かなければ良かったと思った。

聞いてるこっちが怖いから。そんな事されたら泣いてしまう。しかも結局追い出し自慢になってしまった。

皆結構酷いことをしてるもんだと。だから、生きてる人らに嫌われるのではなかろうかと思わずにはいられなかった。


帰宅してからも、皆の言葉が思い返される。

我慢できないならやっちゃえば、と。事も無げに言い切っていた。

しかしだ。無感症だとなー、ダメかもよ、よっぽどの事しないととも言われた。

だからと言って、皆がやったような事をして良い訳が無いのだ。

だってある意味、お邪魔しているのはこちらの方なのだから。慎ましやかにすべきだと思うのだ。

でも、このままの状態を我慢し続けられるのかと問われると自信は無い。

幸いにも、彼女は出かけているようだったから、少しリビングでゴロゴロする。

ふわっと香った方向に振り向く。

それは彼女が最初に設置していた怪しげな形の物からだった。香辛料でもないこの香りは慣れれば落ち着く良い香りだった。

ふんと鼻を鳴らし、天井を仰ぐ。

異文化というのも悪くないと、不覚にも思ってしまった。もう少し様子を見てても良いのかもしれない。

そんな事を考えているうちに寝てしまったようだ。

気付いたら彼女は帰ってきていてすぐ横でTVを見ていた。見ているのは夜のニュース番組だ。

じっと彼女に見入ってしまった。

彼女にははニュースを見ながら字幕の漢字を練習していたからだった。

普段気にも留めなかったが、確かによく思い返してみればTVを見ながら彼女はいつもテーブルに座って書物をしていたっけ。

「………。」

なんだか応援したくなってきた。

後ろから覗き込むと、お世辞にも上手とは言えないが必死さの伝わる字が羅列してある。

間違えているものも多く、つい、ほんの出来心だったのだが、間違えた字の隣に正しい字を書いてしまった。

その瞬間だった。

「¥%$☆×€#÷○っ!!!」

悲鳴でも無い、かと言って日本語でもない表記しずらい声を上げた。

そうして彼女には、日本語で紙にダレ?と書いたのだった。


今度はこっちが呆気に取られる番だった。

怒涛のごとく、彼女はカタカナとひらがな混じりで次々と文字を羅列していく。

ーーアなた、ダレ?

ーーおとコ?おんな?

ーーイツからイルノ?

次々と書かれていく質問の数々に、彼女は自分がココにいるのを知っていたという事に気付かされた。

解っていて、彼女は何もしなかったのだ。

不意に込み上げてくるものがあった。

一体何と表現して良いのだろうか。

考えている間にも質問は増えていくばかりだ。

そしてその中の一つに目を奪われてしまった。

ーーサビしいからトモダチになって?


異国から一人でココに来たのだろうか。

日本とインドではすぐに帰れる距離では無い。心細いその気持ちが理解出来ない訳はない。少し考えれば誰でも分かる事だが。

しかし、幽霊の自分で良いのか。

ついに彼女の手が止まる。返事が無いから不安になったのだろうか。

ーーわたし、しんでるけど、いいの?

と、書いてみる。

すると彼女は物凄い勢いで首を縦にふる。

ーーイイよ!


それからというもの日に一度はこうして筆談する事になった。

彼女の事、母国の事、家族の事。

彼女は色々な話をする。

そして漢字やらひらがなやら日本語の勉強をした。

対して自分にはインド語を教えてくれた。

これからは幽霊も国際的でなければいけないようだ。

英語の勉強もしようかと思う。彼女は日本語以外に英語とフランス語が話せるらしい。

深く考えては、いけない気がする。なんだかとても。

幽霊の立場としてはどうなんだろうとは思うが、こういうのも悪く無い。


拝啓、お父さんお母さん。

私にインド人の生きてる友達が出来ました。

筆談ですが仲良くしています。

長く居るとこういう事もあるのでしょうか?




追伸

謎の匂いを発生させる装置の香りは幽霊を呼ぶためのものだったようです。

異文化コミュニケーションしてますか?


幽霊も国際化の波にのまれている模様です。また逆も然り。

これはこれでとても不憫な気がしますが、お友達が出来たので良しとしましょう!

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― 新着の感想 ―
[一言] 幽霊に負けてしまいました。 異文化コミュニケーション、めっちゃ出来てる! すっごく楽しそうで、羨ましいです。 このシリーズは、私的に結構楽しめるので、好きですよ。
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