退魔の巫女
満月が空に浮かび、その狂気なる力をこうこうと地上へと降らしている。つまり奴らが一番活発に時間帯だ。
妖魔、人の負の感情、陰気を元にして生まれてくる怪物だ。妖魔は満月の晩に月の狂気染みた力によってより凶悪な存在となっていく。それほど月には力があるのだ。
そんな中で、とある廃止されて荒れ放題の病院の中に一人の巫女がいた。
名は真弓。妖魔を滅する者として、その定めを受け入れた少女だ。
腰まで伸びた髪を首の後ろでまとめて巫女装束が良く似合う美少女なのだが、その眼光の鋭さは尋常ではなく、まるで抜かれた刀のように鋭く切り裂くようだった。
だが真弓は何をするわけでもなく、刀を持ちながら病院の中央にある中庭に只立っている。
「見つけた」
言葉を発すると同時に真弓はすでに走り出していた。
西棟の二階、数は十、いや、二十ぐらい居るわね。
だがこちらは真弓一人だけ、だが真弓は臆することなく妖魔が集まっている場所を目指して疾走する。
真弓が目的の場所に辿り着くと、そこには狭い廊下に妖魔がひしめく様にうごめいていた。
数が増えてる? どうやらそこが月の力を浴びやすい場所なのね。
妖魔の数はすでに三十を超えている。だが真弓は臆することなく、そしてスピードも落とさずに、そのまま妖魔の群れへと突っ込んでいく。
真弓の存在に気付いた妖魔が次々と攻撃をしてくる中で攻撃をかわしながら、しかもスピードを落とすことなく走り続ける真弓。その動きは見事としか言いようが無い。
そして一番前に居た妖魔が真弓の間合いに入ると、一気に袈裟懸けの一閃で真っ二つにした。そのまま勢いを殺さず横に居る妖魔を薙いて滅した後、真弓は次々と妖魔に向かって刀を振り下ろす。
戦闘が始まってから十分ぐらいだろうか、真弓はその場に居た三十体以上の妖魔を全て滅していた。
この程度の数じゃハンデにもならないわね。
確かにその通りである。何せ真弓はあれだけの戦闘をこなしながらかすり傷一つ負っていないのだから。
それだけでも真弓の強さが分かると言う物だろう。
だがこれで終わりというわけではない。何せ今宵は満月、しかも陰気が溜まっているこの廃病院はより一層、妖魔が集まりやすいからだ。
真弓は廊下の割れている窓から空の満月を見上げる。
満月も見てるだけなら綺麗なんだけね。
だがその力に気付いている者はほとんど居ない。月の狂気の力は人間でさえ狂う時があるのに、特に月の力満ちる秋にはお月見と称して騒ぐぐらいだから、精神体とも言える妖魔が受ける影響は半端ではない。
だからこそ私が居る。
自分の使命を改めて実感すると再び妖魔の探索に入る。それは見た目ただ立っているだけのようだが、実は霊力を波状で放出し続けて妖魔を察知する。いわばレーダーのような物だ。
「なんか、ずいぶんと集まったみたいね」
場所は屋上、数は……さっきの倍以上か。まあ、屋上は月に一番近いから、妖魔の群れが大きくなるのも当たり前よね。
月に近ければ近いほど月の力の影響は大きく、そして狂気染みてくる。
真弓は袂を探ると札の取り出し、その枚数を確認する。札には赤い鳥居が描かれており、そのほかには真っ白な特殊な札だ。
三〇か、十分間に合いそうね。
数を確認した札を袂に戻した真由美は再び走り始めた。妖魔がひしめく屋上を目指して疾走する。
屋上の扉を切り裂いて躍り出た真弓は、屋上にひしめいていた妖魔の数に驚いた。
数がかなり増えてる。まったく、何処からこんなに沸いてくるのよ。
だが真弓はひるむ事はなく、袂から札を一枚取り出し刀に貼り付ける。
「恐み恐みも白す。火之迦具土神、その力お貸しくだされ」
札が燃え尽きるのと同時に刀が炎をまとう。燃え上がった刀を手にして真弓は妖魔の群れへと駆け出し、その一振りで数体の妖魔を消滅させた。
そんな真弓の背後に妖魔が迫る。
真弓は腰を落として回転、妖魔の攻撃をよけながら一閃で妖魔を消滅させた。だがそれで終わりではない、妖魔は次々と真弓に迫ってくる。
時にはかすり傷を負うものの真弓は次々と妖魔を滅して行き、札の効力が切れると再び火之迦具土神の力を借りて刀に炎を宿す。
そうしながら真弓は妖魔達を滅し続けた。
真弓が屋上の妖魔を全て倒したのは、東の空が白くなり始めた頃。
さすがにあれだけの数を相手にしては無傷では済まず、真弓は所々に切り傷を負っており、巫女装束も何箇所か切り裂かれていた。
日が昇り始めて妖魔の気配が消えたわね。はぁ〜、さすがに疲れたわ。
月に妖魔を狂気させる力があるように、太陽には妖魔を衰退させる力がある。だからこそ、妖魔の活動は夜、しかも月が出ている晩に限られている。時折新月に活動する妖魔も居るがそれほど力がなく、いとも簡単に滅せられる。それほど月は妖魔に力を与える。
疲れたからか、その場に座り込む真弓。朝の新鮮さを感じる風が通り過ぎていく。
一仕事終えた後の朝の空気ほど気持ち良い物は無いのよね。
上り始めた太陽を見ながら朝を思いっきり感じる真由美。その顔は先程までの殺気を帯びた表情ではなく、とても晴れ晴れとした物だった。
そんなワケで今回は巫女さんが戦う、現在ファンタジーバトル物を書いてみました。
今まで書いてきた物とは風変わりですが、こういったバトル物を書くのも結構好きなですよね。
では、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。
以上、葵夢幻でした。