始まり編2
6月27日午前10時35分。
岡崎と明智は電車に乗っていた。
「3時間か。腰が痛くなりそうだね明智君」
どこか浮かれた雰囲気の岡崎を冷めた目で見ながら明智は投げやりに答えた。
「それくらいの時間なら大丈夫ですよ先生」
そう、腰が痛くなるくらいなんだというのだ。
俺の眠気に比べたら何ほどでもない。
椅子に深く腰掛け目を閉じながら明智は思う。
今ばかりは俺が面倒を見なくてもいいだろう。
昨日は、コンビニの深夜のバイトが入っていて寝ていないのだ。
先生もさすがに疲れているのを察してくれるはずだ。
「ねえ、明智君あれ何かな?」
俺の様子など加味してくれるわけがなかった。
体を揺すってくる岡崎に明智は目を瞑ったまま答える。
「あれは山です」
「へー」
しばらくの沈黙が続き、明智が眠りについていたとき再び岡崎が体を揺すった。
「ねえ、あれは」
「ビルですね」
またもや、目も開けずに答えると岡崎が声を大きくした。
「明智君! もっとちゃんとよく見てよ、すごく変な形だ……あ~あ、過ぎちゃった」
「はいはい、分かりましたから静かにしてください」
「でもね、明智君」
前のめりになって言い募ろうとする岡崎を今度は目を開けて座席へと押し返した。
「でもじゃないですよ。あんた何歳ですか」
「え? 32歳」
「32歳と言えば立派な大人です。落ち着いて然るべき年齢です。それなのにそんなに騒いで恥ずかしくないんですか。電車なんてはじめて乗るものでもないでしょう」
いつものことながら、どうしてこんなことを言わなければいけないのかと思いながらも明智が言うと岡崎はコテンと首をかしげた。
そういうところにイラッとするのだ。
「電車には乗るけど、遠出なんてめったにしないだろう?」
「楽しみにすると言うのはいいですけどね、周りの迷惑と言うものを考えて行動してくだ」
話をしている最中横をワゴンサービスが通りかかった。明智の言葉を遮り岡崎が注文する。
「あっ、お姉さんジュースを一つ」
「先生、それ以上頼まないでくださいよ」
常務係のお姉さんからジュースを受け取り、置いたところで我慢していた拳を岡崎の頭上へと落とした。
「いったー」
「うっさい、黙れ。電車に乗っている内は喋るな。人の話をちゃんと聞け。席から経つな。以上」
「えー」
睨みつけると、しぶしぶと言った態でカバンから本を取り出し読み出した。
表紙には『行動とそれに伴う心理』と書いてある。
岡崎は心理学が好きなようでそういう本ばかり好んで見る。それなのに、なぜ子供のような言動が多い大人なのだろう。
明智は大きなため息を付いて、目を閉じた。
やっと、仮眠が取れる。
明智はカルシウムが足りない。
そして、岡崎は言動が気持ち悪い。