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学園スパイラル-女医の襲撃-  作者: 河野 る宇
◆第3章~謎は解けた!?
7/8

*鈴木君

 保健室から出た健は、鼻歌交じりで美術室に向かう。

 そうして、デッサンのモデルになって待っていた匠と合流し帰路に──健は学園の寮に入っているのだが時々、2人で商店街に立ち寄る事がある。

「よう匠!」

 さっそく、文房具屋の店主が匠たちに声をかけた。

「やあ、橘さん。お元気ですか」

 50代半ばだと思われる男性に微笑む。

「おう! 何かいるものあるかい?」

「いえ、今はありません」

「そうかい、またな~!」

 遠ざかる匠たちに手を振った。

 匠の父は自警団の団長でもあるため、町内会でも名は通っている。

「! 佐々木さん、お久しぶりです」

 商店街の脇道で軽トラに石材を乗せている2人組の男性に声をかけた。

『佐々木石材店』の店主の佐々木さんとアルバイトの鈴木君だ。

「よう匠! 相変わらず綺麗だねぇ」

 40代細身の店主が手を揚げて応えた。

 その隣で鈴木君は匠にぺこりと小さく会釈する。まだ20代に入ったばかりだと思われる青年は、おどおどとして匠と比べるとかなり落ち着きがない。

 匠が落ち着きすぎていると言えばそうなのであるが、鈴木君はいささか頼りなさが目立つ。

「仕事には慣れましたか」

「え、はい……まあ」

「もっとハキハキ喋れよ! 誰も取って食わねぇって」

 佐々木は、おおらかに笑って鈴木君の背中を叩く。

 彼はほんの一ヶ月ほど前に、佐々木さんの店にバイトで雇われたのだ。石材を扱うため、力仕事が多い。

 店主の佐々木はその点を心配していたが、思っていたよりも力があるのでそのまま採用となった。

 大学生の鈴木君は微笑む匠に一切、視線を合わせようとはせず、目を泳がせている。

 多少のいぶかしさを感じたが、匠と目を合わせて正常でいられるのは健くらいのものかもしれない。

 ただでさえ美形である匠に見つめられて、動揺しない者はほぼいない。

 匠たちは佐々木さんたちと別れ、再び商店街に歩みを戻した。

「確か彼は5時30分に終わるんだったかな?」

「え? 鈴木君? あ~、うん。確かそれくらいにバイト終わるね」

 つぶやいた匠に健が返し、それを確認するように匠は微笑んだ。


 それから数日後──午後17時30分の商店街。

「お疲れさまです」

「!」

 背後から突然、声をかけられ驚きつつ鈴木君は振り返った。

「ああ、周防くんか」

 ほっとしたように笑みを浮かべて歩き出す。

 彼は独り暮らしをしているので、夕飯の買い物をしに来たのだ。

「あ、あのさ」

 鈴木君はふと立ち止まり、躊躇いがちに発した。

「なんでしょう」

「君の学校に岩が置かれてたと思うんだけど……どうなったの?」

「よく知っていますね。美術部が彫刻に使うそうです」

「! そうなんだ」

「あなたにそのような情報が流れているとは驚きです」

「え、いやっあのその、たまたま聞いたんだ」

 しどろもどろに答える鈴木君に顔を近づける。

「誰がそれを話していました?」

 無表情に尋ねてくる端正な顔に思わず息を呑んだ。

「う、えと……その」

「正直に話していただけませんか」

 にこりと微笑まれ鈴木君はつい頬を赤らめてしまった。

「ここでは話しづらいでしょうか。移動しましょう」

 そう促され、鈴木君は素直にその背中を追った。


 そうして、商店街の外れにあるカフェに入り席に着く。

 年下の匠が妙に大人びて見え、鈴木君は若干の尊敬を覚えた。

「実は──」

 ブレンドコーヒーとエスプレッソが運ばれてくると、鈴木君はコーヒーを傾けてひと息吐き、目を伏せて話し始めた。


「ほう、詐欺にね」

 心地よい音量のクラシックを耳にしながら匠は、関心するように声を上げる。

「ぼく、佐々木さんにあんな風に言われて腹が立って」

「そりゃあまだ一ヶ月ですから、半人前と言われるのは当然でしょう」

「解ってる。でも、お前にはまだ石のことなんて解らないって言われて……」

 そんなとき、ふと声をかけられた石材業者の話に乗ってしまった。

「値打ちのある石を渡せば、ぼくも認めてもらえるかもって思って」

「認めてもらうために必要なのは、人としての正しくしっかりした言動ですよ」

 そこを固めてから実績を積んでいくのです……と匠の静かな言葉に、喉を詰まらせる。

 買った石はただ花崗岩で、勝手な事をした手前、佐々木さんに言い出せずに匠のいる学園に運んだのだ。

 運んだと言えば聞こえはいいが、匠ならなんとかするかもしれないという意識があって「捨てた」のである。

「解りました」

 と匠はゆっくり立ち上がり、未だ視線を泳がせている鈴木君を見下ろす。

「それを口外しても面倒になるだけですので、不問にします。次からは何かあれば直接、私におっしゃってください」

「あ、はい」

 淡々と応えられ、鈴木君は伝票を手にして入り口に向かう匠の背中をじっと見つめた。

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