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学園スパイラル-女医の襲撃-  作者: 河野 る宇
◆第2章~匠という生徒
4/8

*殺す気か

 匠の微笑に負けた志保は保健室に戻る──思えば彼女は保険医で、匠たちと接した事はほとんどない。

 耳に入る彼らの噂に驚くやら呆れるやらで、さすがに我慢しきれなくなったというのが現状だ。

 しかし、実際に接してみるとさほど悪い印象は感じられない。

「ううん! きっとネコ被ってるんだわ!」

 頭を振って意識を切り替えた。

 とにかく、あの生徒には要注意だわ……キリリと目を吊り上げ、決意したように拳を硬く握る。


 次の日の放課後──どうやら匠たちは美術室に行ったようで、志保も西棟の3階に向かった。

 夕暮れに近づく空は校舎を西日に染める。

 志保は『美術室』と書かれたプレートのある引き戸をノックした。

「はい。あら、志保先生どうしたんですか?」

 出てきたのは女生徒だ。

 肩までの黒髪に、前髪が邪魔なのか雑にカチューシャをしていた。

 手には黒い粉が着いている。

「ここに周防くん来てる?」

「はい。今デッサンのモデルしてくれてますけど」

「え」

 モデル!?

 その言葉に志保はドキリとした。

「ちょっと覗いていい?」

 いや、変な意味でじゃないわよ。

「ちょっと待ってくださいね。匠くんに了解を得ないと」

「? どうして?」

「いま彼、全裸なんで」

「!?」

 なんですって!?

「待っててくださーい」

「え、ええ」

 妙に心臓がドキドキして素直にドアの前で待った。

 数十秒後に同じ女生徒が顔を出し、OKだと志保を中に促す。

 動悸の治まらない志保の目に、紅の陽差しを受けて物憂げな表情で白いシーツの上に座り込んでいる匠の姿が映った。

「なんだ、布が被さってるのね」

「え?」

「なんでもないわ」

 聞き返してきた女生徒に慌てて応え、匠を見つめる。

 白い布を巻き付けた姿だが、その下は確かに全裸だと解る──半分以上が隠れているけれど、引き締まった体だという事は容易に想像出来た。

「みなみ女医こんにちは」

「今日はモデルなのね」

「花崗岩を引き受けてくださるので、ほんのお礼です」

「! 花崗岩? 昨日の?」

「はい」

「何か一つ言うことを聞いてくれるっていうから、モデル頼んだんです~」

 女生徒が嬉しそうに発した。

「そうなの」

 つぶやいて匠を見やると、布がはらりといたずらし上半身を露わにした。

「!?」

「ああ、すまない」

「今日はここまでにしましょうか。ありがとうございます~」

「うん、また明日来るよ」

 志保は、そう言って立ち上がる匠に背中を向けた。

「……」

 こっ、殺す気!?

 心臓が飛び出るかと思ったわよ!

 なんという破壊力、まだ子供のくせにとんでもない色気だわ……志保は胸の動悸を必死に抑えた。

 落ち着くために美術室の外に出る。

「はぁ~……」

 何度か深呼吸をしていると、美術室のドアが開き匠が出てきた。

 先ほどの事を思い出し、志保は思わず顔を背ける。

「何かご用では?」

 問われて我に返る。

「べっ、別に特に無いわよ。岩をどうするのかと気になっただけだわよ」

 明らかにろれつも回ってなければ声も震えている……泣きそうになりながらも、ぐっと涙をこらえた。

「あ、あなたね」

「はい」

 穏やかな声に喉が詰まり、端正な顔を見上げる。

「こ、こないだの花火は反省してるの!?」

 変に語尾がうわずった。

「少々、騒ぎすぎましたね」

 ホントに彼は高校生なの!? なんなのよこの落ち着いた雰囲気は! なんでわたしの方が慌ててるのっ!?

 嵐のように荒れ狂う心中を表情に出さず、志保はにこりと微笑んだ。

「こないだはヤクザと揉めたとか聞いたわよ」

「それは誤解です。彼が勘違いをしたので、ちゃんと解っていただけるようにお話しました」

「そうなの? それならいいけど」

 志保は納得出来ないように眉を寄せる。

 彼女の言ったことを簡単に説明すれば──友人の健が街でカツアゲに遭い、逆にその相手を倒してしまい、相手は学園にまで来て逆ギレした挙げ句、匠の配下となったのである。

 その男が匠を「兄貴」と呼ぶまでになったのにはそれなりの経緯はあるが、いまそれに関して関係はないので、とりあえずそういった事があったと思ってほしい。

 もちろん相手はヤクザなどではなく、ただのチンピラだ。

 匠たちは決して自ら学園の外で騒動は起こさない。あくまでも学生らしく、学生としての配慮はしているのだろう。

 外での騒動は犯罪につながりかねない──そういった考慮も匠たちには含まれているのかもしれない。

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