*好きにして
「匠くん、どうしたね」
学園長が入ってきた匠に声をかけ、彼はそれに一礼してニコリと笑みを浮かべた。
「実は中庭の花崗岩についてなのですが」
「! 花崗岩? そんなものが中庭にあるのかね」
「学園長も知りませんでしたか」
「うむ……では調べてみよう」
「お願い出来ますか」
「……」
淡々と続けられる会話に志保は目を白黒させていた。
あうんの呼吸とでも言うのだろうか、開口一番に切り出した匠の言葉を学園長はそのまま聞き流して対応している。
ここまでの間柄になるには、かなりの会話を交わしていないと出来ない事だ。
志保は、学園長がこの生徒にやたら穏便なのはそういう事か……と呆れて2人を見つめた。
「明後日までに解らなければ君が好きにするといい」
「ありがとうございます」
「!? ちょっ……学園長!?」
「ああ、志保くん。どうしたね?」
初めて気がついたという風に口を開く学園長にツッコミを入れそうになった志保だが、それ処ではない。
「何を考えているのです学園長! 生徒の自由にしていいサイズでは……っ」
「匠くんなら問題なかろう」
「マジかこのジシイ!」
──と、言いかけたその言葉を飲み込んで拳を握りしめた。
「ちょっとあななたち!」
校長室から出て2人を呼び止める。
「なんでしょう」
相変わらず涼しい眼差しで聞き返す匠に少しクラリ……となりながらも志保は気持ちを切り替えて声を張り上げる。
「あの岩どうするつもり?」
もはや教師(保険医だが)の言葉遣いとは思えないが、彼女は今とても必死なのだろう。
「どうするとは?」
匠の落ち着いた問いかけに「うぐっ」と声を詰まらせる。
「そ、それは……変なことに使ったりしないでしょうね?」
「変なことってなんですか?」
へらへらと笑いながら質問する健をギロッと睨み付けた。
「犯罪まがいの事には使いませんよ」
微笑みに負けそうになる。
「そ、そう……だったらいいけど」
負けた。