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*詰め寄り
「どうして彼を罰しないんですか!?」
バン! と、大きな黒いデスクに両手をついて彼女は身を乗り出した。
ここは園長室──保険医の南 志保は、恰幅の良い頭のはげ上がった50代ほどの園長に詰め寄っていた。
「彼は処罰を受けるようなことはしていないよ」
校長は、しれっと応える。
のらりくらりと発する園長に、志保は右拳をふるふると震わせて我慢しきれないように声を低くくぐもらせた。
「あれの! どこが! 処罰対象ではないとおっしゃるのですか!?」
園長から目を外さずに、何も無いドアに向かって指差した。
「彼は我が学園の優等生だよ。遅刻も欠席もいじめもない」
「そういう問題ではないでしょう!? 昨晩の寮の花火事件はどうなんですか!」
白衣を乱暴に整え、志保は校長を睨み付ける。
「怪我人も苦情も無い。それをどう処罰をすると?」
「……っ」
口を開きかけたが、志保は諦めたように深い溜息を吐き出すと、目を閉じて頭を横に振った。
「解りました。失礼します」
無言で優しく頷く園長を一瞥し、部屋をあとにする。