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第9話 怒りの涙

「寿命が10年縮んだぞ。生首かと思った」

「すみません」


寿々菜は天井裏の床にぺたんと座り、和彦に頭を下げた。


「梯子を上ってきて、顔を出しただけなんですけどね」

「下から1回声をかけるとかしろよ」

「和彦さんに呼ばれたって言ったら、

警察の人がこの上にいるから上っていいよ、って言ってくれたんで、

そのまま上ってきちゃいました」


和彦はまだドキドキしている胸を押さえて「まあ、いいや」と言った。


「武上さん、あの舞台の上のって・・・」

「氷室麻綾という女優です」

「!氷室麻綾さん!?」

「ご存知ですか?」

「もちろんです!あ、直接会ったことはありませんけど」


寿々菜は小さく首を振った。


「そんな・・・氷室さんが・・・」


武上は、



そうだよな。

彼氏に言い寄ってた女だもんな、知ってるよな。



と心の中で愚痴ってみてから自己嫌悪に陥った。



寿々菜さんは、何も悪くないのに・・・



「おい、寿々菜。宮下は仕事なんだろ?今、どこにいる?」

「え?宮下さんですか?飛行機です」

「は?」

「朝一の便でイギリスへ発ちました。私、今お見送りに行ってきて・・・」

「「イギリス!?」」


武上と三山が同時に叫んだ。


「宮下真、海外に行ってるんですか!?」

「はい。映画の撮影で。年明けに戻ってくるって言ってました」

「「・・・」」


「・・・」の部分の三山の思いは、

「殺人の後の海外逃亡か。ありがちだな。でも、仕事だというし、年明けに戻ってくるんじゃ、

せいぜい逮捕されるのが少し先に伸びるくらいか」、

という内容だが、武上の方は、

「海外出張(?)の前夜にわざわざ寿々菜さんと・・・!いや、前夜だから、かな・・・はあ」、

である。


更に和彦は、

「宮下のやろー、海外で映画撮影かよ!!出世したもんだな!!」、

と、意味不明な文句を言っている。


「あ、あの。状況がよくわからないんですけど・・・」


戸惑う寿々菜に、武上が気を取り直して説明を始めた。


自殺か他殺か分からないが、氷室麻綾が照明器具で首を吊って死んだこと。

その際に使ったロープの途中が何故か焼き切れたため、

死体はスポットライトの当たる舞台の上に落ち、和彦によって発見されたこと。

天井裏で下川というスタッフの眼鏡が発見され、下川を尋問したが、

どうも下川は嘘をついているらしい、ということ。


寿々菜は、まだ垂れ下がっているロープの端と、

眼鏡が落ちていたところに貼られているシールを見て、

「うーん」と唸った。


「どうした、寿々菜。何か感じるか?何かイルか?」

「和彦さん・・・私、霊能力者じゃないんですけど」

「わかってるって」


しかし寿々菜は、少しでもおかしなことがあると、すぐに違和感を感じる性質たちである。

もっとも感じるだけで、その原因を自分で突き止めることはできないのだが。


寿々菜は後ろを振り向き、梯子を見た。


「梯子がそこにあって、眼鏡がここに落ちていて・・・その間にロープがある・・・」

「それがどーした?」

「じゃあ、下川さんは、梯子で天井裏まで上って来て、そのロープの前を通り過ぎ、

ここまで来て眼鏡を置いたってことですよね?」

「そうなるな。・・・そうか!

あいつはここで、死んだ氷室を見て逃げ出したか、氷室を殺したかのどちらかだ。

でも、眼鏡がロープより奥に落ちてるってことは、前者はあり得ない」

「どうしてだ?」


武上が和彦に訊ねる。


「もし氷室の死体を見てビビッて逃げ出したんなら、

なんでロープより奥に眼鏡が落ちてるんだ?落ちてるとしたら、梯子とロープの間だろ」

「下川がここに来た時すでにロープが焼き切れていて、氷室麻綾の死体が下に落ちてたら?」

「それこそ、下川がここでビビッて眼鏡を落とす理由がないだろ。死体を見てない訳だから」

「・・・あっ、そうだな。・・・ということは、」

「下川がここで氷室を殺し、その時にロープより奥に眼鏡が落ちた、だな」


しかし、三山が意地悪なことを言い出した。


「そうかな?下川さんは氷室麻綾の死体を天井裏で見つけて、慌てて逃げ出した。

その時、眼鏡を梯子とロープの間に落とした。

ところが、氷室麻綾の身体が舞台に落ちた時の衝撃で天井裏が揺れ、

眼鏡がロープの向こうまで飛んでいった・・・どうかね?」

「うーん、ないとは言えねーなあ」


和彦は推理にいちゃもんをつけられて、怒るでもない。

むしろ三山との知恵比べを楽しんでいるようだ。



「御園探偵」の御園英志と小森警部みたい!



と、寿々菜は思った。

誰だ、小森警部って・・・


「それでは、下川が何故嘘をついているかはともかく、結局グレーのままですね」


武上が呟く。


「和彦。羽賀って人と中谷って人は?話を聞きたいんだが」

「今頃大慌てで、氷室の代役のスケジュール調整とかやってんだろ」

「お前は行かなくていいのか?」

「第一発見者として警察に厳しい取調べを受けてるから、いいんだよ」

「・・・」


下川はグレーのまま今後も調査が必要、

羽賀と中谷の事情聴取は後回し、


となると。


全員の視線が寿々菜に集まる。


「?なんですか?」

「寿々菜さん・・・」


武上が手帳とボールペンを準備して、寿々菜に向かいあった。


「昨晩ですが、宮下さんの家にいたんですよね?」

「はい」

「2人きりですか?」

「はい」


ズキズキ


「ずっと2人で・・・朝まで?」

「はい」


ズキズキズキズキ


「途中で宮下さんがどこかへ出掛けたりしませんでしたか?」

「えーっと。なかったと思います・・・あ、コンビニに行くって一度家を出て行きましたけど」

「何時ごろですか?何時間くらいですか?」

「9時頃です。5分くらいですよ」

「・・・そうですか」


それでは、無理である。


寿々菜は眉をひそめた。


「武上さん。もしかして、宮下さんを疑ってるんですか?」

「疑っているというか・・・氷室麻綾はまだ自殺か他殺かもはっきりしませんから・・・

でも、氷室麻綾が宮下真に言い寄っていたという話を聞きましたので、一応確認を、」

「宮下さんはそんなことしません!!」


突然寿々菜が大声で怒鳴った。

武上も三山も山崎も、そして和彦も驚いた。

こんな寿々菜は初めてである。


「確かに、宮下さんは氷室さんに言い寄られて困っていたようです。

でも、宮下さんは絶対に人を殺したりなんてしません!!」

「寿々菜さん・・・」

「それに私、ずっと宮下さんと一緒にいたんです!宮下さんに氷室さんを殺すなんて無理です!」


武上は寿々菜の剣幕に何とか耐え、

かろうじて刑事らしい言葉を返す。


「例えば、寿々菜さんが眠っている間にこっそり家を抜け出した、とも考えられます」

「そんなこと、無理です!私、宮下さんと同じベッドで寝てたから、

宮下さんが起きれば、いくらなんでもわかります!」

「・・・」


武上は1000のダメージを受けた。

ゲームなら、いっそゲームセットしてやった方が武上のためだろう。


さすがの和彦も、武上を少々哀れに思ったのか、

寿々菜をなだめた。


「寿々菜。武上は刑事なんだから、色んな可能性を考えるのは当たり前だろ。

宮下だって、殺そうと思ってなくても弾みで殺したって事だってありうる。正当防衛とかな」

「だから!宮下さんは、昨日ここになんて来ていません!誰も殺してなんかいません!」

「寿々菜・・・」


寿々菜は怒りでフルフルと震えると、

ワッと泣き出してしまった。





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