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第6話 取調べ?

「なんで俺が、武上に取り調べられなきゃいけねーんだよ」


控え室で不満全開の和彦。

その横で困ったような顔の山崎。


いつものパターンなら、武上も遠慮無く感情のままに話すのだが、

今日はいつもと状況が違う。


武上は刑事で、和彦は死体の第一発見者だ。


「和彦。お前が氷室麻綾の死体を見つけたのは、何時頃だ?」


和彦は、ムスッとしながらも携帯を開いた。


「俺がお前に電話したのが・・・8時4分だな。

その前に110番したのが7時58分だから・・・

多分、俺の携帯の時間で、7時55分くらいだ」

「58分までの3分間は何をしていた?」

「手の脈とか見て、氷室が本当に死んでるか確かめてた。

最初見つけた時は、稽古で死んだ振りしてんのかと思ったし」


武上は頷いた。

和彦も一応は真面目に答えてくれているらしい。


「和彦が、最後に生きてる氷室麻綾を見たのは?」

「昨日の夜9時過ぎだよ。それまで全員一緒に稽古してたんだ。

んで、俺は演出家の羽賀たちと飲みに行ったけど、氷室は来なかった。

舞台関係者が氷室に会ったのは、飲みに行く前に『お疲れ様』っつった時が最後だな」


武上は和彦の話を手帳に書きながら頭を整理した。


鑑識から死亡推定時刻を聞けばはっきりするかもしれないが、

氷室麻綾が死んだのは、昨日の午後9時過ぎから今朝の7時55分の間だ。

衣装を着ているということは、

昨日、全員での稽古が終わってから1人残って稽古している時に死んだか、

一度帰ってまた朝ここで1人で練習している時に死んだか、のどちらかだろう。


「次に状況だが・・・氷室麻綾が来ているドレスは、本人の衣装か?」

「そうだ」

「じゃあ、スポットライトは?俺が来た時は点いてたけど、あれはずっと点いてたのか?」

「昨日、俺が帰るときは消えてたけど、さっき氷室を見つけた時は点いてた。

武上が、何も触るな動かすなっつったんだろ」

「普通、個人で稽古する時に照明なんて点けるのか?」

「普通は点けねーけど、点けたきゃ点けてもいいさ」


和彦はあくまで客観的に話している。

嘘や思い込みはなさそうだ。


まあ少々気に食わないが、和彦が第一発見者というのは、

武上にとってはラッキーかもしれない。


「首に巻かれていたロープは?」

「あれは舞台の小道具だ」

「先が焼けてたのは?」

「知らん。昨日稽古で使った時は普通の状態だった」

「・・・」


通常なら、ここからは前提を他殺に切り替えて、

「氷室麻綾を恨んでいたような人は?」という質問になるのだが・・・

武上も和彦を頼っていることを自覚しつつ、聞いてみた。


「どう思う?他殺か、自殺か」

「さーな。どっちでもおかしくねーよ」

「でも、自殺にしちゃ不自然だろ。あんな風に舞台の上で死ぬなんて」


和彦は「わかってねーな」と言って鼻で笑った。


「舞台俳優ってのは、自分の美学にこだわる奴が多い。氷室もそうだった。

死ぬなら舞台の上で衣装を着て死にたい、って思っても不自然じゃないさ。

首を吊る前にロープに細工をして、自分が死んだ後、舞台に落ちるようにする、

それくらいはやりそうだ」

「そんな手間のかかることやるくらいなら、舞台の上でナイフで胸を刺して自殺した方が楽だろ」


自殺に楽も何もないとは思うが・・・


「舞台を血で汚したくないと思ったかもしんねーぞ?」

「・・・なるほど」

「首を吊るのに小道具のロープを使ったのは、

そこまで『舞台』にこだわったのか、

突発的に死にたくなって、目に付いたロープを使っただけか・・・

それはわかんねーけど、後者なら遺書はないだろうな」



遺書!

そうだ。自殺なら、遺書があってもおかしくない!



武上は、手帳にその点も書こうとボールペンを走らせた。

だがインクの出がいまいちよくない。

手帳の端でボールペンの先を擦るように円を書くと、

なんとか復活した。


「自殺だとして、何か思い当たる理由はないか?」

「俺が思い当たる理由っつったら、せいぜい舞台へのプレッシャーくらいかな。

今回のヒロイン役は、氷室にとっちゃまたとないチャンスだったからな」

「他には?」

「うーん・・・あ、叶わぬ恋、かな」

「叶わぬ恋?・・・ああ!!」



思い出した!!!

「氷室麻綾」って、宮下真と噂になってる女じゃないか!!



「その相手って、あのラパンの宮下真か!?」

「お。武上、よく知ってんじゃねーか。そうそう、宮下だよ。

氷室は宮下に言い寄ってたが、宮下はてんで相手にしてなかったからな」

「・・・そうか。じゃあ付き合ってた訳じゃないんだな?」

「ああ」


噂になってる、と言っても、必ずしも付き合ってるとは限らない。

当たり前のことだが、武上はてっきり氷室と宮下は恋人同士だと思っていた。



じゃあ、宮下の本命はやっぱり寿々菜さん・・・?

はぁ。



だが、今はそれどころじゃない。

武上は頑張って寿々菜のことを頭から追い出した。



さて、自殺だとしたら、これは俺の事件じゃない。

でも・・・



武上が口を開く前に、和彦がニヤニヤしながら、

「んじゃ、次は他殺の場合を考えよーぜ」と言った。





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