第14話 か弱き目撃者達
武上は、第一発見者と会うべく、一度マンションの外に出た。
第一発見者は、近くに住む主婦3名である。
「こんばんは、お忙しいところすみません」
武上は頭を下げたが、街灯の下に立つ不機嫌そうな主婦達の表情は変わらない。
3人とも、40代後半と言ったところか。
なかなかふくよかなご婦人達である。
しかし、どうやらその「ふくよかさ」を気にしているのか、
武上にはお揃いに見えるスポーツウェアを着ている。
「夜のお散歩ですか?」
「ウォーキングよ。私達、家族の夕食が終わった後、毎日こうやって歩いてるの」
「それで、あの部屋で男性が死んでいるのを見つけたんですか?」
「まさか。人の家の中までウォーキングしないわよ」
そりゃそうだ。
「なんかね、あの部屋から男が転がるようにして出てきたから、3人で『怪しいね』って言って、
ちょっと覗いてみようって事になったの」
「でも、このマンション、オートロックですよね?」
「1階の柵を乗り越えたわ」
大した好奇心である。
しかし、そのお陰で中谷が発見されたのだから、
何が幸いするか分からない。
「その部屋から飛び出てきた男というのは、どんな男でしたか?」
3人仲良く、あるのかないのかよくわからない首を右に傾げて「さあー」とやりだす。
「暗かったしねー」
「男ってことくらいしかねー」
「ほら、私達、こう見えて結構か弱いから、怖くってねー」
「・・・・・・」
武上は、こういう時こういう女性にどういう言葉をかけるべきか即座に判断できるほど、
大人ではない、というか、経験が少ない。
そこへ突然、和彦が、いや、KAZUが登場した。
「こんばんは、みなさん」
「・・・ええ!?KAZU!?」
「KAZUだわ!ほら、御園英志よ!」
「きゃああ、KAZUだ!ちょっと、誰か携帯持ってないの!?写メよ、写メ!!」
「ウォーキングだから持ってきてないわよ!!」
「デジカメは!?」
「もっと持ってきてないわよ!」
「ちょっとぉ~!どうするのよ!?もったいない!!!」
もったいないって、なんだよ。
と、武上は思ったが、「か弱い」はずのご婦人方はすっかり逞しく変身し、
(武上には元々逞しく見えていたが)
KAZUの身体をベタベタと触っている。
武上なら鳥肌ものだが、
KAZUは嫌な顔一つせず、ニコニコとご婦人方の相手をしている。
そして、大騒ぎが一段落したところで、KAZUは憂いを帯びた表情で言った。
「あの部屋で死んでいたのは僕の古くからの友人なんです」
古くからじゃないだろ。
「もしかしたら、みなさんが見た男に殺されたのかもしれません!」
よく涙ぐめるな。
「どうしても、その男の行方を知りたいんです!ご協力して頂けませんか・・・?」
おう。目にカラコンでも入れてるのか?キラキラしてるぞ。
武上の逐一細かい突っ込みはさて置き、
KAZUにすっかりほだされたご婦人方は目を潤ませ、
「私達にできることならなんでも!」とすっかり態度を変えてしまった。
武上は面白くないが、手がかりは彼女達しかいない。
渋々、今回の事件の関係者の写真を和彦に叩きつけるように渡した。
「みなさん、この中にさっきの男はいますか?」
「うーん」
「はーん」
「ふーん」
三者三様の声でうなる。
が、すぐに3人揃って1人の男の写真を指差した。
「この男よ!」
「うん、間違いない!」
「いかにも悪人って顔してるでしょ!?」
暗くてはっきり見てないんじゃないのか!?
武上の冷たい視線もなんのその。
KAZUは山崎に車から色紙を持ってこさせると、
笑顔でサラサラとサインをして3人に渡した。
3人がKAZUの虜になったのは言うまでもない・・・。
「なんなんだ、さっきのは・・・」
「なんだよ。協力してやったのに」
「・・・」
すっかり「和彦」に戻った和彦(?)が、
車の後部座席でふんぞり返る。
その横には、すっかり眠り込んだ寿々菜。
無理もない、もう12時前だ。
特に寿々菜は、学校の後に警察病院で検査を受け、
その後何か用事だと言って出掛け、そして中谷の事件に付き合った。
疲れて当然だ。
和彦は、さっき主婦達が「この男」と言って指を差した写真を右手の親指と人差し指でつまんで、
ペラペラと揺らした。
「こいつが犯人?なんかピンとこねーな」
「そうだな・・・でも、ピンとこない人間の方が犯人ってことがよくある」
「ふーん。さすがは刑事殿だな、っておい、武上。
お前、事件現場に残らなくていいのかよ?何のん気に俺らと帰ってるんだ」
「帰ってない。別の仕事があるんだ」
お前の写真の鑑定だよ!!
余計なことしてくれやがって!!
と、心の中で叫ぶ。
寿々菜や和彦が中谷を絞め殺したとは考えにくいが、
時間的には可能である。
さっき武上と会うまでに、やれないことはない。
何より、氷室の方で2人とも容疑が晴れないのだ。
「はあ・・・どうしたらいいんだ、俺は・・・」
「何悩んでるんだ」
「・・・あのな・・・」
武上は恨みをたっぷり込めた視線で、助手席から和彦に振り返ったが、
もちろん和彦は無視である。
「あ、そーだ。寿々菜が、来週の火曜日の夜あけとけって言ってたぞ」
「え?俺に?」
「俺と武上に。ついでに山崎もあけててもいいってさ」
「スゥに指示される覚えはありませんけど」
「んじゃ、山崎は来なくていいや」
「行きますとも」
行くのか。
「って、行くってどこに行けばいいんだ?」
「決まってんだろ」
和彦は、今から行くわけでもないのにその味を想像してうっとりと、
「来来軒だよ」と、馴染みの中華料理屋の名前を言った。