表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/18

第13話 二つ目の死体

本来の目的は果たせず、

しかし更なる爆弾をポケットに入れて武上は事務所を出た。

重い足取りで駅へ向かう。



門野社長から強引に借りてきたこの写真。

鑑識に回して合成かどうか見てもらおう。

門野社長はご丁寧に「合成じゃない」と教えてくれたけど・・・



ありがた迷惑、と言ったところか。

合成じゃないということは、本当に2人はキスしていたということで・・・

つまり恋人同士ということで・・・


武上はポケットから写真を取り出して見た。


夜道での隠し撮りにも関わらず、二人の顔は疑いようもないくらいはっきり写っている。

さすがプロのカメラマンだな、と感心すらしてしまう。


それにこの和彦の表情。

武上はテレビドラマになんか興味はなかったが、和彦や寿々菜と付き合いだしてから、

多少は気にするようになった。

寿々菜はともかく、和彦は本当によくドラマに出ていて、キスシーンなんかしょっちゅうだ。

でも、この写真の和彦は、ドラマの中でキスしている時の和彦の表情とは全然違う。

いかにも「素」という感じだ。



てことは、やっぱりこの2人は恋人だったんだ。

とんでもないもの見つけちゃったな。

寿々菜さんには、黙っておいた方が・・・



「武上さん?何してるんですか?」


聞きなれた、というか、愛しい声に武上が顔を上げると、

寿々菜が武上の横に止まった車の後部座席の窓から顔を出していた。

寿々菜の横には和彦が座っている。

運転しているのは山崎だろう。


武上は慌てて写真をポケットに突っ込んだ。


「あ、あれ?寿々菜さんに和彦。どうしてこんなところに?」

「武上さんこそ。私は事務所に用事があって来たんですけど、

駅で偶然和彦さんに会って、乗せてもらったんです」

「そうですか・・・」

「和彦さんは、社長に呼ばれたんでしたっけ?」


寿々菜が振り向くと、和彦が「ああ」と返事した。

恐らく、さっきの写真の件だろう、と武上は思った。


「武上さんは?事務所に用ですか?あ、もしかして私達に?」

「いえ・・・。聞き込みでたまたまこの辺りに来ただけです」

「そうなんですか。お疲れ様です!武上さんも乗りますか?」

「寿々菜。俺達事務所に行くんだろ。武上が乗ってどーする」

「あ、そうですね」


武上は寿々菜からも和彦からも目を逸らした。

もしかしたらこの2人のどちらかが・・・そう思うと、とてもじゃないが2人を見れない。


その時、武上の携帯が鳴った。


「あ、もう行って下さい。電話ですから・・・三山さんからだ」


「三山」という一言を聞いてしまえば、寿々菜も和彦も、そしてハンドルを握る山崎も、

興味があって去る気はしない。

武上は仕方なく、3人が聞き耳を立てる中、三山からの電話に出た。


「はい。武上です」

「今どこにいる?R町に行けるか?」

「え?はい、行けますけど。事件ですか?」

「死体が出た」

「死体?」


寿々菜と和彦の目が輝いたのは、気のせいか・・・


「自殺か他殺か事故かまだ分からないがな。死んだのは中谷寛人だ」



中谷寛人!?



「それってあの氷室麻綾が出るはずだった舞台の主演の中谷寛人ですか!?」

「そうだ」


三山はため息をついた。


「俺は中谷の取調べをしたのに・・・うかつだったな」

「そんな。三山さんのせいじゃありませんよ。分かりました、住所は?

・・・はい、じゃあメールして下さい」


武上が携帯を切ると、和彦が当たり前のように「乗れ」と言った。

武上も素直に従い、助手席に座る。


「おい。中谷が殺されたのか?」

「殺されたのかは分からないが、死んでるそうだ」

「場所は?」

「中谷の自宅だ」

「おい、山崎。場所分かるだろ?」

「はい」

「和彦。門野社長に呼ばれたんじゃないのか?」

「あんな狸はどーでもいい」

「・・・」


三山からのメールを待つまでもなく、

気の重い武上と和彦のスキャンダル写真を乗せた車は、夜道を出発した。






現場は既に警官や野次馬で騒然としていた。

武上はなんとなく、芸能人の住んでいるマンションだと言うから、

さぞかし豪華なところなのだろうと思っていたが、

武上が住んでいるアパートに毛が生えた程度のマンションである。

一応マンションの玄関にはオートロックがついているが、

1階の廊下の柵が大人の胸くらいまでしかないので、簡単に乗り越えられる。


武上が警察手帳を見せると、寿々菜たちも含めてすぐに中谷の部屋に案内された。


部屋の中も外観に負けず劣らずシンプルで、

玄関の扉の向こうには3メートルほどの廊下があり、右にトイレと風呂、左にキッチン、

そして廊下の奥にロフト付きの8畳のワンルームがあった。

そのワンルームの床の上に、首にロープを巻きつけた中谷がぐったりと倒れている。


中谷を見て、寿々菜が息を飲んだ。


「こんばんは。どんな感じですか?」


武上が鑑識に声をかける。


「死にたてホヤホヤってとこですね。まだ1時間経ってないですよ」


嫌なホヤホヤである。


中谷の首に巻きつけられてあるロープの端は長く伸びていて・・・


「また、先が焼き切れてるぞ」


和彦がかがみこんでロープの端を見て言った。

武上も和彦の上から覗き込んでみる。


なるほど、確かに焼き切れている。



またか・・・



武上は部屋を見回した。

すると、ロフトへ上がる梯子の一番上の段にロープが結び付けられており、

やはり焼き切れた端がブラブラと揺れていた。


「梯子の一番上にロープの端を括りつけて、反対側の端を首に巻き、

ロフトから飛び降りた、ってとこかな・・・」


しかし、武上の呟きを聞いた鑑識が、首を振った。


「違いますね。これは他殺です」

「え?」

「被害者の首のロープの跡を見てください。綺麗に首を一直線に一周してるでしょう?」


確かに、被害者を立たせれば、ロープの跡は地面とほぼ平行だろう。


「首をつったのなら、ロープ跡はこうはつきません。

顎の下から耳の下にかけて、斜めに跡がつきます」

「・・・なるほど、そうですね。じゃあ、誰かがロープで絞め殺した跡、

自殺に見せかけるために梯子から中谷を吊るし、更にロープを焼き切ったってことですか?」

「吊るしてもいないでしょうね。人の身体を吊るすなんて、並みの人間じゃできませんから。

それに、それならロープの跡が2つ付くはずです。

長いロープを使って首を絞め、そのまま首にロープを括る。

それからロープの途中を焼き切って、反対側の端を梯子に結びつけた。

これでなんちゃって自殺のできあがりです」


なかなか愉快な鑑識である。


一見、中谷が氷室を殺し、その罪の意識に耐えかねて、氷室を殺したのと同じ方法で自殺した、

と見えるが、どうやら別に犯人がいて、氷室殺しの罪を中谷になすりつけようとしたようだ。


武上は、ここのところいつも持ち歩いている、氷室麻綾の殺害現場の写真を取り出した。

氷室麻綾の首についているロープの跡は斜めだ。



ということは、氷室麻綾は自殺なのか?

でも、そうだとしたら誰が何故ロープを焼き切ったんだ?

それに、氷室が自殺にしろ他殺にしろ、中谷を殺した犯人は、

氷室の首に巻きついていたロープが途中で焼き切れていたということを知っている人物だ。

そうでなきゃ、ロープを焼き切ろうなんて思わないもんな。



武上が考え込んでいると、寿々菜が和彦の横に座り、

ロープが焼き切れている部分をじっと見た。


「寿々菜。きたか?」

「・・・はい」


寿々菜はロープを指差した。


「この切れ方・・・なんかちょっと・・・」


武上も再びロープに目をやった。


「不自然ですか?」

「いえ・・・不自然じゃありません」

「え?」

「というか、これを見て思ったんですけど・・・前のロープの写真ってありますか?」


武上は頷いて、氷室麻綾の首に巻きついていたロープの写真を取り出した。


「ほら、この写真の焼き切れ方と、今回のロープの焼き切れ方、違いますよね?」

「本当ですね・・・」

「確かにな」


武上と和彦は頷き合った。


中谷のロープはいかにもライターかチャッカマンで焼き切りました、という感じだが、

氷室の方は・・・一部分だけが焦げていて、不自然だ。


氷室のロープだけ見ていると何とも思わないが、

中谷のロープと見比べると、その不自然さが良く分かる。


「氷室のロープはどうやって焼き切ったんだろうな?」

「ロープに火をつける方法か・・・ライター、チャッカマン・・・じゃないんだよな?

じゃあロウソクか?」

「氷室の現場にロウなんか残ってたか?」

「いや・・・」


これは今夜の宿題になりそうだな、と武上は思った。


だが、寿々菜も和彦も氷室が殺された時の状況は知っている。

中谷を同じ方法で殺すこともできる。


そう思うと武上は、宿題の答えを見つけたいような、見つけたくないような、

複雑な気持ちになったのだった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ