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第11話 女心と男心と金

「武上さん?」

「寿々菜さん!」


2人は校門の前でひしっと抱き締め合い・・・は、しなかったものの、

武上の気持ちとしてはそんな感じだった。


寿々菜は一緒に帰るつもりだった友達にことわりを入れ、

武上の所へ駆け寄ってきた。


「どうしたんですか?武上さん」

「あの・・・寿々菜さん。昨日はすみませんでした」

「・・・」

「寿々菜さんの・・・好きな人を疑ってしまって」


武上は頑張った。

本当によく頑張った。

褒めてやりたい。


すると、その頑張りが通じたのか、寿々菜は申し訳なさそうに微笑んだ。


「いえ。私の方こそすみませんでした。昨日の夜、和彦さんに電話で怒られました」

「え?和彦に?」


これにはさすがに武上も驚いた。


「はい。『さっさと解決しねーと舞台で稽古できねーだろ!』って」

「・・・」

「武上さん。もし氷室さんが誰かに殺されたのなら、早く犯人を捕まえてください。

私は、宮下さんが犯人じゃないと信じています」

「はい・・・あの、それでですね、お願いがあって来ました」

「え?私にですか?」

「実は、氷室麻綾が首を吊った紐は、その焼け具合から、

首を吊った後に焼き切られた、ということがわかりました。

つまり、氷室麻綾が首を吊る前に紐に細工したのではなく、

首を吊った後で、何者かが紐を焼いたようです」

「じゃあ・・・」


武上は頷いた。


「やはりこれはただの自殺ではありません。捜査一課も本格的に捜査に加わります。

それで、さっき謝ったばかりなんですが、」


武上は思い切って言おうと思った。



寿々菜さんなら、分かってくれるはずだ。



「寿々菜さんに、検査を受けていただきたいんです」

「検査?」

「寿々菜さんは、宮下さんと一緒に寝てた・・・確かに普通なら、宮下さんがベッドから出れば、

寿々菜さんも気付くでしょう。でも、寿々菜さん、

一昨日は宮下さんの家で一緒に食事をしたんですよね?」

「はい」

「その中に睡眠薬が入っていたとも考えられます」


寿々菜が青くなる、

が、こくりと頷いた。


「わかりました」


武上はホッとした。


「ありがとうございます!もう時間がだいぶ経っているので、

飲んでいたとしても検出されるかどうかはわかりませんが、

検出されれば大変なことですので・・・すみません、嫌ですよね」

「嫌ですけど。検出されなければ宮下さんの疑いが少しは晴れますよね?

だから受けます」

「・・・ありがとうございます」


武上の心中は複雑だった。


武上は寿々菜のことを好きなのはもちろん、

寿々菜がどんな人間かよくわかっている。


だが、刑事としては寿々菜が嘘をついている可能性も考えなくてはいけない。


つまり、宮下の共犯、ということだ。


宮下は一昨日の夜、家を出て行った。

寿々菜はその目的を知っているか知っていないかはともかく、

宮下に疑いをかけまいと「家にいた」と嘘をついた。


そんな可能性が万に一つ、ないとも言えない。


今回は寿々菜に手の内を全て見せることはできない。

それが、武上にとって何より辛かった。







「お疲れ様です、寿々菜さん」


警察病院の前で、武上は寿々菜に微笑んだ。

お疲れ様も何も、武上にここまで車で送ってもらい、

尿検査をしてきただけだ。

疲れるも何もない。

だが、一般人には馴染みのないこんな場所、来るだけでも疲れるだろう、

武上はそう思い「お疲れ様」と言ったのだ。

寿々菜に対する後ろめたい気持ちもある。


「検査結果は明日には出ます」

「そうですか。・・・結果って、私は教えてもらえるんですか?」

「お知りになりたいですか?」


武上は正直、陽性反応が出て欲しいと思っていた。

そうなれば、宮下への疑いは深まるが、寿々菜の共犯説は消える。


寿々菜は首を振った。


「いいえ、いいです。結果は分かってますから」


寿々菜の声は自信に溢れていた。

武上も「わかりました」としか言えない。


少し気まずい沈黙が流れる。

寿々菜と武上には珍しいことだ。


「・・・喉、渇いちゃった。そこの自動販売機で何か買ってきていいですか?」

「あ。僕が買ってきますよ」

「いいですよ、そんな」


そうこう言いながら、2人して自動販売機の前に行き、財布を取り出す。


「寿々菜さん、本当に僕が、」


そう言った時、武上に寿々菜の財布の中が見えた。

武上はそう長身という訳ではないが、160センチの寿々菜よりは15センチほど高い。

真横に立てば、寿々菜の手の中の財布が嫌でも見える。



え?

なんでそんなに金を持ってるんだ?



寿々菜の財布の中には、武上が一瞬見ただけでも、

1万円札が3,4枚入っていた。


もちろん寿々菜も端くれといえども芸能人。

普通の高校生より多少金は持っているだろうが、

とにかく寿々菜は自分で金を管理することが苦手だ。

以前、武上・寿々菜・和彦・山崎で2泊3日の旅行をした時も、

寿々菜は旅費をギャラから山崎に天引きしてもらったくらい。

旅行には1万円も持ってこなかった。


その寿々菜の財布に数万円の金。



今から買い物にでも行くんだろうか・・・

でも、寿々菜さんがそんな高い物を買うとも思えないし。

まさか・・・



武上の頭に刑事らしい言葉が浮かぶ。



宮下からの口止め料?



それなら、親にも山崎にも管理は頼めないだろうから、自分でなんとかするしかないだろうが・・・

武上は、頭を振った。



馬鹿な!

寿々菜さんが金で買収なんて、される訳ないだろ!?



しかし、今回は寿々菜も共犯の可能性がある。

もしかしたら、もしかしたら、と色んな可能性が思い浮かぶ。


「武上さん?」

「あ、いえ・・・家までお送りしますね」

「大丈夫です。今から用事があるんで、電車で行きます」

「・・・そうですか」



用事ってなんですか、寿々菜さん・・・



そんなことすら聞けず、

武上はため息をついた。




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