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第10話 三山刑事の取調べ

回復の見通しが立たない武上に代わり、

三山が演出家の羽賀と、主演の中谷に話を聞くことになった。


ちなみに和彦は今日はもうさすがに舞台稽古はないということで、

山崎と一緒に事務所に帰った。

だが、KAZUを遊ばせておく門野社長(和彦と寿々菜が所属する事務所の所長だ)ではない。

早速別のスケジュールを組むことだろう。

もしかしたら、舞台の延期・中止も視野に入れ、他の大きな仕事を探し始めているかもしれない。


寿々菜は、言い忘れていたが(そして本人も忘れているが)、

普通の公立高校へ通う女子高生なので、

三山から「公用にて遅刻」という一筆を貰い、不機嫌なまま学校へ行った。


武上は・・・天井裏で正座してぼんやりと鑑識の動きを眺めている。



さて、何はともあれ取り調べである。

三山は控え室の一室を借りて、まずは羽賀から話を聞くことにした。


「とんでもない!私は、氷室とはあくまで演出家と役者の仲ですよ!」


羽賀は少々オーバーに言った。

何でも大袈裟にしてしまうのは、演出家のサガか、

それとも嘘を隠すための演技か。


「確かに私は・・・その・・・まあ、気に入った女優がいれば、誘うこともありますよ。

たまにですよ、たまに!」

「はあ」

「でも、氷室なんか誘ったこともない!顔は可愛いが、あんなやせっぽっちの暗い女・・・

俳優としてはともかく、女としての魅力なんてありゃしない!」

「はあ」

「しかも!氷室は宮下真に言い寄ってたんですよ!?

とても氷室になんか手を出そうとは思いません!」

「羽賀さん。宮下さんのことがお嫌いですか?」

「え?ああ、違います、そういう意味じゃ・・・

だって、宮下真に言い寄ってたということは、氷室は・・・」


三山は考えた。



そうだな。

宮下真に言い寄っている女に手を出そうとは考えないだろうな。

でもこの世界の人間は、なんでもアリだし・・・



この「なんでもアリだし」ということこそ、

三山が和彦と寿々菜から学んだ教訓である。



「宮下さんは今海外にいるそうなんですが、ご存知ですか?」


三山はかまをかけてみた。


羽賀には昨日、数人のスタッフ・出演者と飲んでいた、というアリバイがある。

でも、誰かを雇って氷室麻綾を殺した、とも考えられる。

そして、その罪を宮下になすりつけようとしているとも。


だから「宮下は海外にいる、つまり犯行は無理」ということを伝えれば、

どういう反応をするかを見たかったのである。

実際には、宮下が海外に行ったのは今朝なので、犯行は可能なのだが。


「へ?宮下が海外?仕事ですか?」

「はい」

「へえ。あいつも大物になったなあ」

「・・・」


純粋に関心する羽賀。

演技かどうか、見分けるのは難しいところだ。


「『御園探偵』のラパン役で人気が出ましたからね。それにずっとCMはやりたがらなかったのに、

こないだようやく初めて1本出たし。うんうん、演技も悪くないから、今度使ってみようかな・・・」

「CM・・・?ああ、そう言えば出てますね。見てビックリしましたよ」

「刑事さんでもビックリするんですな。でも確かに、あのCMは衝撃的ですからね。

CMとしては大成功ですよ」


羽賀は至って自然だ。

見た目にはいかにも「犯人」という感じの男なのだが・・・



三山は「ありがとうございました」と羽賀に礼を言い、

今度は中谷を控え室へ招き入れた。



中谷の第一印象は、

顔もスタイルも良い好青年、といったところか。

いかにも舞台役者らしく、細い割りに筋肉質で姿勢もいい。

声もよく通る。


しかし・・・


三山は手帳からチラッと目だけ上げて中谷を見た。



確か28歳と聞いたが、どうみても30過ぎって表情してるな。

疲れているというか、元気がないというか・・・



三山は和彦を頭に浮かべ、目の前の中谷と比べた。



オーラがない!

うん、これだ!

和彦君と違って、この中谷には芸能人らしいオーラがない。



まあ、和彦の場合、少々オーラが強過ぎるきらいはあるが、

確かに中谷にはおよそ芸能人らしい雰囲気がなかった。

自分に余り自信がなく、オドオドしているように見えるのだ。

初の主演というプレッシャーのせいかもしれない。


「中谷さん、あなたは氷室さんと仲がよろしかったらしいですが、」


三山が言い終わらないうちに、中谷がしゃべりだした。


「確かに仲はよかったですが、それは初の大役を担う者同士、共通の悩みがあったからです。

お互いを励ましあいながらここまでやってきました。それなのに・・・」


中谷が少し涙ぐむ。


「お気の毒でした」

「いえ・・・すみません」

「プライベートでも仲はよろしかったんですか?」

「まあ、そうですね。何度か一緒に飲みにも行きましたし」

「・・・氷室さんから、宮下さんのことについて、何か聞いたりしていませんか?」


また敢えて宮下の話を出して、反応を見る。

が、意外な答えが返って来た。


「もちろん、宮下さんのことについての相談も良く受けましたよ。

麻綾さん、宮下さんに夢中でしたからね。『2人きりじゃ会ってくれないから』って、

僕も入れて3人で会ったこともあります」

「え?中谷さんは、宮下さんとお会いしたことがあるんですか?」

「はい。でも、さすがに全然麻綾さんのことは相手にしてないって感じでした。

冷たくしたりはしてませんでしたけどね。あくまで同業者って立場を貫いてました」


中谷は、自分が疑われているとは思ってないらしい。

三山が宮下について聞きたがっていると思っているのだ。


意外な話は聞けたが、三山は話を本筋に戻した。


「では、中谷さんと氷室さんは、恋人同士、ではない?」

「もちろん、ただの友人ですよ。

僕は麻綾さんを、麻綾さんは僕を応援していました。

お互い頑張らないと、今回の舞台でしくじれば共倒れですからね」


それもそうである。

ヒロインの氷室がいなくなれば中谷は困る。


そしてそれは、羽賀も同じだ。


でも、とっさに殺してしまうこともある訳で。




中谷が出て行った控え室で1人、三山は頭を捻った。


中谷は昨日の飲み会には参加せず、家に帰って1人で台本を読んでいた、

ということでアリバイはない。

しかし、三山にはやはり一番怪しいのは下川に思える。

(和彦の推理にちょっかいを出しはしたが)

もし殺していないのなら、

素直に「昨日天井裏に上がった時、氷室さんの死体を見た」と言えばいいのに、

なぜ嘘をついてまで隠す必要があるのか。


「三山さん」

「お、武上。大丈夫か?」

「・・・すみません」


武上はまだ元気がない。

三山は苦笑した。


「まあ、あの寿々菜さんがあんなに怒るのは珍しいもんな。ま、気を落とすな。

あの子のことだから、すぐに笑って許してくれるよ。

それに、別にお前は悪いことをした訳じゃないんだ」

「はい・・・」


それは武上もわかっている。

わかってはいるが、宮下と寿々菜のことも含めてダメージは大きい。


それでも「ちゃんと寿々菜さんに謝ろう」と思ってしまう武上であった。






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