遺民問題
人類が暗闇の宇宙で出会った最大の希望は、洗練された人工知能でも未知の超文明でもなく、かつてバブルの熱気に包まれていた日本のイケイケな技術者たちでした。
かつて地球を壊滅に追い込んだ大災害から三百年。巨大宇宙船『フロンティア号』のストレージを無駄に圧迫し、一度は容量削減のために消去されかけた「旧地球遺民ホログラムデータ」。彼らは単なる無駄に高画質なパーティー好きの亡霊ではなく、かつて不可能を可能にして日本中を建設ラッシュに沸かせた、伝説の土木技術者や科学者たちの集団だったのです。
昭和画質に圧縮されたことで奇跡的に残された彼らと、新米船長タカシ率いる開拓団。これは、絶望的な未開の惑星『ネオ・ジュリアナ』に降り立った人類が、バブル期の圧倒的なノリと超人的な現場力によって未来を切り拓いていく物語の記録です。
地球が滅亡の危機に瀕し、人類の生き残りが宇宙船で新天地へと飛び立ってから三百年。
宇宙船『フロンティア号』の広大な特別居住区には、ひとつの頭の痛い「遺民問題」が存在していた。
「問題」と言っても、宇宙怪物でも未知のウイルスでもない。彼らは単に**『滅亡前の地球で、一番ノリノリだった時代の人々』**の精細なAIホログラムたちだった。
「おいおいおい、今日も最高にバブリーに行こうぜぇ〜ッ!」
司令室のモニターには、ジュリアナ扇子を振る平野(1989年東京出身)と、ハイロテックな宇宙服を着た新米船長・タカシの苦笑いが映し出されている。
新惑星への入植を控え、タカシには大きな仕事があった。この『旧地球遺民ホログラムデータ』を、新惑星のデータベースに移行するか、それとも容量削減のために消去するかを決断しなければならないのだ。
データ容量は切迫していた。新惑星での農業マニュアルや医療データを保存するには、彼ら「遺民」のデータがあまりにも巨大すぎる。原因は明快だった。全員のデータが無駄に解像度が高く、当時のバブル景気の熱気や無駄なパーティー動画で膨れ上がっていたからだ。
「船長、消去プログラムの準備が整いました」
副船長のミサが冷静に告げる。タカシは深呼吸をし、特別居住区へ足を運んだ。直接、最後の言葉をかけるつもりだった。
ホログラムの広場では、肩パッドの入ったスーツを着た男たちが「イケイケ〜!」と叫び、ポケベルを打ちながら栄養ドリンクを飲んでいる。
「あの……皆さん」
タカシが声をかけると、バブル遺民代表の平野がシーマのキーを指で弄りながら振り向いた。
「ん? なんだい船長ちゃん。顔色が暗いぞ! 24時間戦えない男はモテないぞ?」
「実は……容量の問題で、皆さんのデータを消去することになりました。新惑星での生活には、農業や化学のデータが必要で……皆さんのような『当時のノリ』を残すスペースがないんです」
申し訳なさそうに頭を下げるタカシ。しかし、平野は腹を抱えて笑い出した。
「ハハハ! なんだそんなことか! 容量が足りないなら、最初から言ってくれよ!」
平野は懐から極太のショルダーホンを取り出し、何処かへ電話をかけた。
「おい、アッシー! 地球科学の専門家ホログラム、全員呼べ! あと、土木作業が得意な『現場の親方』データもだ!」
一瞬にして、広場に数千人のホログラムが現れた。彼らはみな、バブル期の派手なスーツや作業着を着ている。
「船長ちゃん、俺たちの時代を舐めちゃいけないよ。俺たちは『不可能を可能にして土地を転売する』プロだ。農業? 土木? インフラ整備? 全部俺たちの庭だよ!」
なんと、バブル遺民の中には、当時の最先端技術者や建設ラッシュを支えた伝説の技術者たちのデータが、パーティーの参加者として大量に紛れ込んでいたのだ。
「えっ、でもデータ容量は……」
「そんなの、俺たちの無駄な『高画質宴会動画』を圧縮すれば一発だろ! ほら、解像度を昭和のテレビ並みに落とせ!」
平野が合図を出すと、バブル遺民たちの姿がうっすらと画質の荒いレトロな映像に変わった。その瞬間、宇宙船のストレージ空き容量がガクンと跳ね上がり、空いたスペースに新惑星の全開拓マニュアルが余裕で収まってしまった。
「これで解決だろ? 祝勝会だ! ディスコの予約入れといて!」
ハイタッチを求めてくる平野の手を、タカシは呆れながらも強く握り返した。こうして、新惑星開拓の未来は、人類史上最も調子に乗っていた時代の遺民たちに託されることになったのだった。
【了】
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
「滅亡寸前の人類を救うのが、最先端AIでもスーパーヒーローでもなく、かつて日本中を建設ラッシュで沸かせたバブル期のモーレツ技術者たちだったら……」という妄想から生まれたコメディSFです。
24時間戦うビジネスマン、謎の宴会芸、肩パッドにショルダーホン……一見すると無駄で騒がしいだけのバブル文化ですが、あの時代を突き動かしていた圧倒的な熱量と「不可能を可能にする現場力」は、未開の宇宙都市を開拓する上で最強の武器になるのではないかと思っています。
昭和画質に圧縮されたイケイケなおじさん達と、現代的な苦労人船長タカシの凸凹コンビが、新惑星『ネオ・ジュリアナ』をどうバブリーに切り拓いていくのか。ぜひ温かい目で見守っていただけると嬉しいです。




