EP4『空の青さを知らない僕ら』
4『空の青さを知らない僕ら』
「なぁ零、流石にきついって……」
「じゃあ遊ぶか?」
「え、いいのか?」
すると、先生が銃を撃つのをやめて言う。
「もともと今日はうちのクラスが使っていい日だから遊んできていいぞ」
「もう授業はしないんですもんね」
「その代わり、体力付けてもらうからな」
すると星がむっとした顔をした。
「なんで零はやってないんですか」
「頭使う役だからいいかなって」
「……言い返せない」
零はさも当然のことだと言わんばかりの顔をした。そして、先生が校庭への外出許可を下ろした。次々と校庭へと駆けていく。先生は元気だなーと言いゆっくりと廊下に出た。星は同級生に腕を引っ張られている。流石運動児だな。
「あれ?零は行かないの?」
未来がそう言う。ちなみに彼女も中々の運動神経と体力だ。女子の中だとトップレベルだろう。
「俺は体力使うこと嫌いだからパス」
今、この教室には二人しかいない。二人で窓際の席に座っている。一つの机を前後で挟む形だ。
「へー、完璧な生徒に意外な弱点だね」
「俺は完璧なんかじゃない。天才や優等生というのはあくまでの象徴だ。数学におけるxやpみたいなものなんだ」
「じゃあ私が、あなたの欠けてる部分を埋めてあげるよ」
零はちょっと意外そうな顔をした。仲の良い未来でも、初めて見る顔だった。まるで仮面が剝がれたかのような。そして、すぐに笑顔を作る。
「……なんだよ、それ」
「私なりのプロポーズ」
「脱獄出来たらまた言ってくれ」
「え……」
今度は未来が面食らったような表情になった。
「冗談だ。お前もそうだろ?」
「当然じゃん! 誰があんたなんかにプロポーズするか!」
「冷たいな」
「もう知らない!」
ふんっ!と言い赤らめた頬を膨らます。
「ごめんって」
「嫌だ!」
参ったなぁ。こうなると翌日まで許してくれない。寝たら忘れてくれるけど……。
暫く二人で、閉ざされたこの教室の外を見る。すると、クラスメイトが元気に遊んでる。日の当たらない校庭と言うべきか。俺達は監獄の内部は鉄の壁で覆われているため、日光の暖かさを知らない。更に言うなら、草原の緑や、空の青さすら知らない。ただそういう写真や、似た色を見たことがあるだけなんだ。
「なぁ、未来」
「何!」
まだ怒ってるな。流石に揶揄いすぎたか。
「空の青さを知りたくないか?」
「何言ってんの?零ちゃん」
「そうだよな……こんな馬鹿げたことの為に脱獄しようだなんて、誰も思わないよな」
未来が意外そうな顔をした。
「それが零ちゃんの”夢”なんだ」
「夢? いや、うん……そうかもな」
「私にも、夢があるの」
悲しそうな顔をしていた。俯いた横顔だったが、それは確かに、見飽きた幼馴染みの顔だった。
「なんだ?」
彼女は殊更、明るい顔で語る。
「お花を見たいの」
「なんだそれ。まあでも、俺と似たようなものだな」
と言って二人で吹き出す。まるで昔に戻ったような感覚に陥る。もう怒ってないかな……なんて不安になった。同時に、こんな時間がもっと続けばいいのにだなんて陳腐なことを思ってしまう。暫く雑談をしてると、クラスメイト達が帰ってきた。
二人でいたため、案の定、星や他クラスメイト、カルネ先生にも茶化された。先生が生徒に混じっていじるな。
「それじゃ星、引き続き頑張ってくれ。未来もな」
「嫌なこと思い出したわ……現実は残酷だ」
星は人一倍楽しんだのにも関わらず、息を切らしてない。それどころか自身の今後を憂いている。
二人が行ったころ、カルネ先生が問いかける。
「なぁ、本当に星一人だけが銃弾回避出来たら脱獄出来るのか?」
「ええ、それさえ達成したら恐らく脱獄出来ます」
「監獄の鍵すら見てないのにか?」
「……作戦の穴に気づいてたんですか、先生」
「ああ、鍵の在り処すらわかってないのにどうするのかなって」
「先生から一本取った時みたいに脅します」
「そうだと思ったわ。それは無理だぞ」
「なんでそう思うんですか?」
「”あいつ”にはカースを無効化する技術がある」
「あいつ?」
「鍵の守護者だ」
「そういうことは早く言ってくれませんか!?」
「悪い悪い。余裕そうだったもんで」
お陰で練り直しだ。今夜は徹夜かな。鍵は看守が持っているのか。いや、恐らく看守長だろうな。ある程度の地位じゃないと鍵の管理なんて任せられない。
「あっ……」
「どうした?柄にもなく間抜けな声出しやがって」
「先生、放送室のマイク、ジャック出来ませんか?」
「放送室の看守ぶっ飛ばしたらいいんじゃないか?」
「……了解です」
「お前、何する気だよ……」
「囮ができなくても、揺動なら出来ます」
「ふーん。私はてっきり、銃弾回避が出来るようになった星に囮をさせるのかと」
「そんな血も涙もないことしませんよ。囮ができた方が確実ですが」
「なるほどな。まぁ、楽しみにしてるぜ。星もいい動きしてきてるし」
「あいつ、やる気あったんですね。サブプランを使うつもりだったんですが」
「友人のこと信頼しろよ……」
「してますよ。無理難題を言った俺が悪いんです」
「意外と自責の念があるんだな」
零は押し黙ってしまった。椅子に倒れるように腰かけた。
「あ、そうだ。お前、天才優等生なんだから彼女くらいは守れよ」
「は? 彼女?」
ついに中途半端な敬語が外れる。
「未来だよ」
「彼女じゃないです」
「もどかしいなー! 早く付き合っちまえよ」
「中学生のノリやめません?」
「600年以上も生きてるともはや若返るんだよ」
「そうですか……」
「元気ないなぁ。そろそろ本番だろうし、頑張れよ」
「勿論です」
――空の青さを知りたいからな。




