EP3『ショウタイム』
3『ショウタイム』
翌日、朝食を摂ってから先生との決闘が始まる……
「さて、お前らに出す課題は1つ。カースを使いこなし私を身動きが取れない状態にできれば勝ちだ。傷害や骨折などは禁止。人海戦術を避けるため、私に攻撃できる人数は三人までだ。そして私は攻撃しない。自己防衛と、時間停止の魔法だけだ。制限時間は15分とする」
「先生、1ついいですか?」
「お、なんだ?怖じ気付いたか?優等生君」
「タバコのライターだけ貸してくれないですか?」
「燃やすんじゃねぇぞ?」
「どうせ燃えないんでしょ?この教室は」
「ああ、ご明答。それくらいくれてやる」
「ありがとうございます。お礼に二人の駒で勝利して見せますよ」
「言ったな?」
「ええ、勿論」
自信満々の零に反して見る見るうちに表情が曇って行く生徒達。
「さて始めましょうカルネ先生」
「お前、作戦は話したのか?生徒に」
「いいえ。即興でやってもらいます。信用できるクラスメイトですから」
「ふーん。そうか、余裕そうだな」
「さっさと始めましょう」
先生の思考配分を乱すために雑な比喩でも落とし込んでみるかな。
「ベッドのお時間です。スモールブラインドは黒宮 星。ビックブラインドは氷室 未来!アンダー・ザ・ガンはカルネ先生、あなたです」
「ふーん、テキサスホールデムポーカーか。そうこなくっちゃなぁ。いいよベッドしてやるわ」
「ポーカーのアンダー・ザ・ガンは言ってしまえば全員から銃口を向けられてる存在だ。猛者である程スターティングハンドはタイトに絞ってくる」
「おい、さっきから何を言ってるんだ零」
ポーカーをやったことのない黒宮星からしたら訳が分からないだろう。だがこれは言葉による揺動だ。そんなに意味はない。
「タイト、つまり強気でなく堅いということ。星はコール。カルネ先生を捕えろ。正面から崩すぞ。未来はフォールド。つまり待機だ。あとこっちにこい」
そう言って零は未来に耳打ちする。
「そんなんじゃ捕まえられないぜ?」
「殴ってもいいんですか!?先生」
黒宮が不安そうに言う。
「ああ。殺しにこい」
「わかりました。お覚悟を」
しかし黒宮の拳はことごとく空を切る。決して黒宮の拳が遅いわけじゃない。カルネ先生が早すぎるんだ。時間を操るという魔法の前では、人の速度など静止してるに等しい。
カルネ先生は、拳が飛んでくる度に時を止め、思考する。
――あいつのことだ。何か策があるんだろうが、まさか黒宮を使うとは。当然私はクラスメイト全員のカースを把握しているが、こいつのカースは【感情】だ。身体能力はクラス随一だといえるが、一番戦闘向きじゃない。もう一人の氷室は【温度】を操るカースだ。こいつが一番厄介だ。身動きの取れない状態、即ち氷漬けの状態でもこの条件は満たされる。まず私の体力や魔力を削る気か)
……とでも考えてるんだろう。先生がライターを渡した時点で零の勝利は確定していた。未来への指示も終え、先生の思考をかき乱そうとする。
「先生、氷漬けにされると負けでしょうから、それだけは勘弁してあげましょう」
「そんな情けは要らないが、貰えるものは病気以外貰ってやるよ」
――お前の唯一の勝ち筋だぞ?なんでわざわざ捨てる)
「俺の手札はスペードのKとQです」
「ポーカーで開示とは勝つ気あるのか?」
「この手札なら当然、レイズしますが、あなたは?」
カルネ先生は攻撃をすべて避けながら息切れもせず答える。
「コールしよう。ゲームマスターさん」
「了解しました」
そうして指を鳴らした瞬間、氷室から冷気と熱気が発せられる。その二つが合わさった瞬間、爆発音と共に濃霧が発生した。
「霧……いや水蒸気か。流石優等生君だ。応用力がある。まさか温度のカースをこんな使い方するとは。だがこれでは黒宮も見えないだろう」
フッと笑って決め台詞のように吐き捨てる。
「愚かだな」
「うお!?滑って!?」
カルネ先生の足元が凍り付き、滑った。
「来い!星!!」
カルネ先生の後ろでライターの火が揺らめいた。それを合図に星が先生を捕らえた。あまりの唐突さにカルネは魔法を発動できなかった。
「捕まったが、まだ動けるぞ。」
「さて先生、聞いてください。チェックの時間です。それ以上動いたら次は水蒸気爆発で全員殺します」
「なっ!?」
「これは脅迫です。ショウダウンとでもいいましょうか。降参してください」
「……わかったわかった。降参だ」
クラスメイトから歓声と拍手が巻き起こる。
***
カルネ先生が決まりの悪そうな顔で言う。
「お前、水蒸気を出したときになんで私が時を止めることを計算に入れなかった?」
ニタァと素敵な笑みを浮かべる。
「それ聞きますか?カルネ先生、本当はわかっていらっしゃるでしょう」
「念の為だ」
「あなたの時間停止、使ってるとこをみたことがないんですよ」
「ほう?」
「見てないとこで使ってるのかも知れませんが、そんな便利な能力を日常に組み込まない理由がわからない。だからそれはデメリットがあるのかなと。例えば体力や魔力……というものがあるかは不明ですが、消費が激しい物と推測しました。
未来のカースで動きを止めても時間停止で氷が溶けるまで待つ……みたいなのは出来ない。だがそれだと未来任せになってしまうし、何かの間違いで未来がやられたらおしまい。リスクが高すぎる。
だから何らかの方法で視界を奪うことができれば対処しようがないと思ったんです。そして、あなたは氷で動きを止められることを自らの負け筋だと考えたはずです。そりゃそうです。こちらの唯一の勝ち筋なのですから。
制限時間を設けたのも自分の魔力切れや体力切れを狙わせないためですよね。ってことはつまり、氷で動きを止められたらどうにもできないということですよね。
制限時間がなければ一生氷漬けにされて体力や魔力が切れます。そして視界の奪い方はカースを見たときに決めていた。
時を止めても唯一関係無い方法が視界を埋めてしまうこと。
そこにどうやって黒宮を突撃されるか。これが迷いましたが、先生がよくタバコを吸ってるのは周知の事実。だからライターをもらったんです。この時点でほとんど勝ちなんですよ」
零以外、全員唖然とした表情だ。
「なんで水蒸気の中で滑った私の居場所がわかる?」
「先生は知らないかもですが、カースには応用力があります。未来のカースは【温度】に関することが大抵出来ますので、自らの視界をサーモグラフィー的にすることが可能なのかと。まぁぶっちゃけ、そんなん無くても滑った後の場所なんて俺なら予測出来ます。逃げ惑う王の位置を当てるなんて、将棋やチェスなんかよりも簡単なことです」
「そうか……完敗だ。お前らならもしかするかもな。実は前の世代まではこの課題すら突破できなかったんだ」
零はまるでそんなことどうでもいいかのような顔をする。
「そんなことより、この後どうするんですか?」
「意外とやる気あるんだな、お前」
「親友にぶん殴られましたのでね」
「ごめんって……」
と、黒宮は零に謝った。
「別にいい。そこまで気にしてない」
「その割には言ってくるのな」
まあまあ、とカルネ先生が場を収める。
「よし、それじゃあ次は脱獄だな!」
「待て待て気が早い気が早い!もっと段階踏まないか?」
「なんだ優等生君、びびってんのかぁ?」
とニタニタしながら言う。内心、零はイラっとしている。
「無謀と挑戦は違いますよ、先生」
黒宮は先生を睨みつける。
「逆に聞くが、それ以外何ができるって言うんだ?」
辺りを静寂が包む。
「……せめて情報が欲しいです。警備は何人いるとか、相手はどんな武器を持っているかとか、そもそも内部構造とか」
「それもそうだなぁ」
うーむと先生は腕を組み椅子に腰かける。
「よしわかった。明日、情報を集めてお前たちに渡そう。というか今からやるから欲しい情報を教えてくれ」
「情報って、そんな引き出しを開けるように出てくるものなんですか?」
「私はこの監獄の幹部だぞ。それくらい余裕さ」
幹部がこんなんとか世も末だな。と零は思った。
「欲しい情報は警備員の数と使用できる魔法の種類、武器、配置、内部構造かな。爆弾とか武器あったら。通信用のインカムとマイクとかあれば」
「ほーうそれがあれば脱獄できるっていうのか?何個持ち出せるかは不明だが一応全部あるぞ」
「十分だ。やって見せる」
一瞬、先生が驚きとも笑顔とも言えない微妙な表情をした。
「了解!やってみろ優等生ぇ!今から資料作ってきてやるよ」
カルネ先生は今まで以上にやる気を感じた。
***
翌日、教科書くらいの分厚さのある資料を持って来た。
「ふぅー疲れたぜ。ほら、全部頭に叩き込んどけ」
「ありがとうございます」
零は早速資料に目を通す。警備員の数は総勢20名ほど。なんだ、思ったより楽に勝てそうじゃないか。武器は魔法と警棒、BB弾を入れたおもちゃのような銃。模した種類はワルサーPPKで装填数は8+1発。BB弾なのは恐らく殺害を避けるためなのだろう。あとは魔法か。危険そうなのは【爆発】【水流】【旋風】【電撃】【監視】くらいかな。あとは戦闘向きじゃない。これなら行けるかもしれない。
「あ、先に行っておくが全員で脱獄することが目標だから捨て駒的な扱いは絶対禁止な」
「……わかりました」
零は本当は黒宮辺りをヘイト役として使おうとしていた。
「構造を頭に入れるのが一番大変だなぁ」
なんてぼやいている。それでも目を通していく。
「あ、ちなみに私は脱獄に参加しないからな」
「まぁ、どうせそうだと思いましたよ。先生を使って良いなら余裕すぎますし、それを許すなら前の世代とかで達成してるはずですし」
「私はもうすぐ辞職する」
予想もしない言葉だった。
「……は?」
「……ってことにするんだ」
「何言ってるんですか?」
「まぁ落ち着け。私が辞職するってことは、ここの看守は私じゃなくなる」
「そんな無責任な……!」
「だからお前は、私の代わりに来る看守の対策まで対策しておくことだな」
「何十人もいる看守から一人を当てろと!?」
「んなもん全員対策すりゃいいだろ」
零はグッと言葉を飲み込んだ。
「まぁ大丈夫だ。私は次の担当になった看守を殺してくれたら帰ってくる」
「一体何言ってるんですかあなたは……」
「まぁとやかく言わずに、策略を練ってくれよ優等生。脱獄作戦が終わるまでは見といてやるからよ」
本当に意味かわからなかった。この時は……。
「それさらっと失敗するって言ってません?」
「私は1回で脱獄できるだなんて思ってないが?」
「1回で脱獄できなかったら終わりでしょう」
「お、流石の優等生君にも、先入観ってやつには勝てないか」
「もったいぶらずに説明してください」
「あいつらがBB弾を使用する理由はなんだ?」
「無駄な殺生を避けるため……?」
「75点。完答はそれと、お前らを育てるためだ」
「まぁ……監獄教育システムだから納得はいくが……」
この時はまだ、この違和感に気が付かなかった。
「そんで、いつ行けそうだ?脱獄」
「銃を持ってきてくれたら一気に決行が早まります」
「はい、持ってきたぜ」
時を止められるって便利だな……協力してくれたらどれだけ楽か。
「先生、星と未来を呼んできてください」
「ん? ああ、わかった」
零は馬鹿げた作戦を思いついた、が、一旦はこれに賭けてみることにした。
「きたよー!零ちゃーん!」
――相変わらず元気だな未来は。
「未来、【カース:温度】で溶けない氷とか生成できるか?」
「んー?多分できるけど?」
「氷の形って決められるか?」
「うん、できるよ」
「時間かけてもいいから、それで剣を作って欲しい」
「え、わかった」
……数分後
「こんな感じ?」
それは綺麗な両刃の剣だった。
「それを数本作って欲しい」
「はーい!」
「星、お前の身体能力を見込んで頼みがある」
「なんだ?殴り飛ばしたお礼だ、何でも聞いてやる」
「あれはカルネ先生の指示だろ?」
「げ!? ばれた!」
「俺の親友は温厚なのでそんな簡単に人を殴りませんよ。そして、罰として先生にも手伝ってもらいますか」
「お前、ここまで仕組んだな……優等生」
いや、カルネ先生の自業自得である。
「先生は、そのBB弾入った銃二丁を使って星を撃ってください」
「「……は?」」
二人が口を揃えて言う。
「星はその氷の剣で避けるか弾くかしてくれ」
「え、ちょっと待て」
「それが出来たら今回の脱獄は行ける。頑張ってくれ」
「おい待て!無茶言うな零!」
「俺は作戦の穴がないか詰めるから、出来たら教えてくれ。その翌日決行するから」
「おい!待て!」




