12章『錯綜する二人の簒奪者』
『未来の日記』
夜は静かだった。
こんなに静かな夜なのに、胸の中だけがやけにうるさい。
布団に潜りながら、未来は天井を見上げた。
——零ちゃん、眠れてないだろうな。
あの人は、考え始めると止まらない。
それが強さでもあるけど、同時に危うさでもある。
「正しいかどうか」でしか動かない人。
でも今回ばかりは、それだけじゃ足りない気がした。
相手は四葉廻流。
あの人は、正しさで動いてる人間じゃない。
もっと遠くを見てる。
もっと大きなものを、当たり前みたいに動かそうとしてる。
——零ちゃんが、勝てる相手なのかな。
ふと、そんな考えがよぎった。
いや、違う。
勝てるとか負けるとか、そういう話じゃない。
零ちゃんは、きっと戦う。
理由なんて単純だ。
「ここに残る」と決めたから。
それだけで、あの人は帝国にも逆らう。
未来は小さく息を吐いた。
ほんと、不器用だよね。
人の気持ちは読めるくせに、自分の気持ちは、全然言わない。
でも今日は、少しだけ違った。
メルちゃんに、ちゃんと向き合ってた。
ぎこちなくて、遠回りで、でもちゃんと——
自分の言葉で話してた。
ああいうところ、ずるいよなあ。
普段は何も言わないくせに、
大事なところだけ外さない。
そりゃ、みんなついていくよ。
未来は寝返りを打った。
——だからさ。
少しだけ、不安になるんだよ。
あの人は、どこまで行っちゃうんだろうって。
ナゴヤ支部も、生徒たちも、メルちゃんも。
全部守ろうとして、全部背負おうとして。
その先でいなくなっちゃうんじゃないかって。
「それはやだな」
小さく呟いて、目を閉じる。
私は、零ちゃんの“隣”にいたいだけなのに。
支えるとか、守るとか、そんな大層なことじゃなくていい。
ただ、同じ場所に立っていたい。
なのにあの人は、どんどん先に行く。
手を伸ばさないと、届かないくらい遠くに。
だから。
ちゃんとついていくよ、零ちゃん。
置いてかれないように。
見失わないように。
それが、私の役目だから。
未来はゆっくりと息を整えた。
今度こそ、少しだけ眠れそうだった。




