表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/65

 EP38『呪われし力たち・弐』

38『呪われし力たち・弐』


 次は獅子堂 雅火くんだ。クラスの中心的な人物で、なんだか星を思い出す。

 濃い赤色が特徴のツーブロックだ。

 ――元気にしてるかな。

 すると、すぐにガラガラと教室の扉が開く。

「単刀直入に言うぜ」

 そういって、ガッシャーンと椅子を蹴り飛ばす。

「俺はあんたのことが嫌いだ」

 零は一拍、瞬きをした。

「そうか」

 それだけだった。雅火の眉がぴくりと動く。

「……否定しねえのかよ」

「好かれるために教師をしているわけではない」

 教室の空気が、じり、と熱を帯びる。

「気に食わねえんだよ、その余裕」

 足元から、微かな火花が弾ける。

「生徒を値踏みする目。全部見透かしたみてえな口調」

 零は静かに答える。

「値踏みはしていない。査定しているだけだ」

「同じだろうが!」

 瞬間、空気が爆ぜる。

「【紅陽烈火】!!」

 背後に、猛烈な炎が立ちこめる。ただ圧力だけが空間を支配する。零の髪が揺れる。

「なるほど。嫌悪が点火剤か」

「違う」

 雅火の声は低い。

「誇りだ」

 一歩、踏み出す。

「俺はな、誰かに守られる側じゃねえ」

 炎が強まる。

「クラスの中心だとか、勝手に決められるのも気に食わねえ」

 零は動かない。

「ならどうなりたい」

 その問いに、雅火は一瞬詰まる。

「……支える側だ。誰を」

 炎が揺らぐ。

「全員だ」

 静寂。零は、ほんのわずかに目を細めた。

「なら、その炎は怒りではないな」

 雅火の喉が鳴る。

「誇りだと言ったはずだ」

「そうだな」

 零は振り返り、炎の熱が肌を刺す。

「だが誇りは、他者を拒絶するために使うものではない」

 炎が更に勢いを増す。

「俺はあんたを認めない」

「それでいい」

 即答だった。雅火の目が揺れる。

「認められるかどうかは、俺の問題だ」

 零は続ける。

「だが一つだけ言っておく」

 視線が、真正面からぶつかる。

「クラスを守ると言ったな。なら、俺を嫌っている暇はない」

 沈黙。

「この後の模擬戦で示せ。俺に応えろ」

 炎が、揺らぎながらも安定していく。

「……あんた、挑発してんのか」

「事実を言っている」

 しばらく見つめ合い、やがて、獅子の炎がすっと消えた。

「気に食わねえけど」

 雅火は舌打ちする。

「逃げねえで立ってたのは、少しだけ評価してやる」

「光栄だ」

「次は燃やす」

「相手だけにしてくれ」

 雅火は背を向け、扉へ向かう。だが出る直前、足を止めた。

「模擬戦ってなんのことだ」

「明日、生徒対看守の模擬戦が行われる。二次試験のようなものだ。能力や身体能力だけでランク付けするのは不公平だろ」

「じゃあ、あんたやあの気に食わねぇ看守長をぶっ飛ばせるってわけだな」

「……今のところ、君は未来にぶつける予定だ」

「はあ? あいつのカースは?」

「【温度】だ。主に氷を操る」

 雅火が地団太を踏んだ。

「氷に炎ぶつけたら勝てるに決まってるだろ!」

「未来を甘く見ない方がいい」

 零の瞳が、熱を帯びた。その冷徹な声と圧力に、雅火は少しだけ身じろぎした。

 扉が閉まる。教室に残るのは、僅かな瞳の熱と、火種だけだった。


 獅子堂 雅火

 カース【煉獄】【紅陽烈火】ランクS

 

 ***


 次の生徒は月城 ねむだ。いつも眠そうな目をしているが、不思議と居眠りはしないらしい。恐らく、その秘密はカースにあるのだろう。

「よろしくお願いします……」

 長い黒髪をあしらって、いかにも優等生という雰囲気だ。だが、声は小さい。今にも舟を漕ぎそうな目。

「眠いのか」

「起きています」

 即答だった。零は頷く。

「カースは【逆夢】だっけか」

 少し間を置き、

「【微睡之歌】です」

「歌うのか」

「はい」

 零は教室の窓を閉める。

「見せてくれ。」

 ねむは小さく息を吸った。静かな旋律が流れる。小さな鼻歌だ。柔らかく、曖昧で、境界を溶かす声。

 零の視界がわずかに揺れる。足元が遠くなる。意識が薄く裏返る感覚。

 同時に、ねむの体がふらりと揺れた。そのまま、目を閉じた。倒れると思った次の瞬間、目の前から彼女が消えた。

 次の刹那、零の背後。完全に無音だった。いや、正確には小さな鼻歌が流れていた。恐らくヨハン・パッヘルベル「カノン」だ。

 速い。思考を挟まない動き。零は半身で受け流すが、猛烈な眠気に足がとられた。

「……なるほど」

 歌い終わると、ねむは目を開けた。

「眠っている間、身体能力が上がります。ですが、歌ってる間しか、眠れません」

「上がるのは素早さか」

「あと反射神経ですかね……でも」

 ふら、と体が揺れる。零が手首を掴む。軽い。本当に軽い。

「私は力がありません。昔から虚弱体質気味なのです」

 ねむは素直に言った。

「組み合われたら私はまず勝てません」

 零はそのまま軽く押し返す。

「ちょっと先生……」

 ねむはよろける。零はすぐにねむを抱きかかえた。

「火力不足か」

「なので、短期決戦向きです」

「深く眠ったらどうなるんだ? 普通に寝ます。熟睡です」

 零は評価用紙に記す。

「なるほどな、別に普通に寝れるなら、私生活に支障はないか」

「心配してくれるんだ」

「まぁ、一応な」

「優しくはない。教師として当然だ」

 零は淡々と返すが、視線は彼女の足元に落ちている。立ち方が不安定だ。歌っていない今は、ただの虚弱な少女だ。

 ねむは微笑んで、静かに頭を下げた。

「ありがとうございました」

 彼女が去ったあとも、教室にはかすかにカノンの残響が漂っていた。


 月城 ねむ

 カース【逆夢】【微睡之歌】ランクB


 ***


 「……望月 絶です」

 背筋は伸びているのに、どこか影が薄い。零は視線を上げる。

「もしかして、緊張してるか?」

 生徒に打ち解けていたのはどうやら零だけの方で、中にはこういう生徒もいる。

「……少し」

「そうか」

 それ以上は踏み込まない。

「カースは【隔絶】だったな」

「はい。真名は【絶世絶界】です」

「物騒な名前だな」

 ほんのわずかに、零の口元が緩む。絶は一瞬きょとんとした。

「……自分でも、そう思います」

「どういう能力だ?」

「指定空間を分断します。外からは干渉できません。出入りは俺の許可次第です」

「お前が出たら?」

「空間は割れます。破片に触れても何も起こりません」

「なるほど。俺を泣きこんでやれるか?」

「はい」

 絶が小さく息を吐く。空気が静かに切り替わる。

 教室が、紺色の空の中に沈む。まるであの日の夜空が降ってきたみたいだ。

「……静かだな」

「はい。ここには、灯火先生以外は誰も入れません」

「お前もか?」

 絶は少し間を置く。歩み寄る。絶は構えない。

「戦闘向きじゃないな」

「はい。俺はそこまで体術も強くありません」

 言い訳ではなく、事実として言う。零は距離を詰めるが、手は出さない。

「だが、守るには十分だな」

 絶の目が、わずかに揺れる。

「守る……」

「暴走を止める。増援を断つ。逃げ道を消す」

 零は壁に触れる。

「使い方次第だ」

 絶は少しだけ視線を上げる。

「……閉じるのは、簡単じゃないです。かなりの体力を消費しますし」

「だろうな」

 即答。

「敵と二人きりになる。逃げ場がなくなる。覚悟がいる能力だ」

 絶の喉が小さく鳴る。

「先生は……入るの、怖くないんですか」

 零は一瞬だけ考える。

「怖いと思う相手なら入らないさ」

 淡々。

「お前は違う」

 絶は、少しだけ目を見開いた。

「……どうして」

「閉じるやつは、壊したいわけじゃない」

 零はそう言う。

「守りたいか、逃げたいかだ」

 沈黙。

 やがて、空間が音を立てて割れた。映像のような破片が零れ落ちる。

「解除しました」

「なるほどな。強さは普通だ」

「はい」

「だが能力は上位だぞ」

 絶は静かに顔を上げる。

「使う時は、どういうときにに開き、閉じるか決めておいてくれ」

 絶は、ゆっくり頷いた。

「……はい」

 教室に、穏やかな空気が残る。

 零は冷たい。けれど、静かな者に対しては、無闇に音を立てたりしない。

 望月 絶は思う。この人なら、もし閉じても。少しだけ、息ができるかもしれない、と。


 望月絶

 カース【隔絶】【絶世絶界】ランクA

 

 ***


 次の生徒は道坂 胡桃だ。明るい茶髪にほんわかした雰囲気で、少し未来に似ている。

「よろしくお願いしまーす」

「こちらこそ。早速で悪いが、カースを見せてくれ」

「えー、もうちょっとお話しできると思ったのに」

「何か話したいことでもあるのか?」

 胡桃はクスりといたずらな笑みを浮かべる。

「零先生って近づき難いじゃん? あ、悪い意味じゃなくてさ。なんていうかそういう雰囲気なんだよね」

 ――そんなこと、昔からよく言われていたな。

「ほう……それで?」

「そういうとこだよ近づき難いの。まあ、お話したらちょっとは印象変わるかなって思ってさ」

「俺の印象を変えてどうするつもりだ」

 胡桃は返答に困ってしまった。

「意地悪だね、距離詰めたかっただけなのに」

 少し悲しい顔を見せた。

「胡桃さん、趣味はなんだ」

「それしか引き出しないの?」

「うるさい」

「私ね、こう見えて裁縫とか得意なんだ!」

 零は僅かに目を細める。胡桃の雰囲気からは、どちらかといえばのんびりした印象を受けていたが、指先を使う細かな作業が得意というのは少し意外だった。

「裁縫か……器用なもんだな」

「リアクション薄くない?」

 零はもともとそこまで表情に出ない。

「距離を詰めたいと言ったな。なら遠慮はするな。俺だって別に、人と関わりたくないわけじゃない」

 その言葉に、胡桃は一瞬だけ真面目な顔になる。そして、いつものほんわかした笑みに戻った。

「じゃあさ、零先生。今度はちゃんとリアクションしてよ? 私のカース、ちょっとびっくりするかもしれないから」

 そう言って、胡桃は両手を軽く握り、いたずらっぽく視線を上げた。空気が、ほんの僅かに張りつめる。

「なんとなくだがネタは知ってるさ」

「つまらないの……【混乱花弾】」

 零の肩に花びらが落ちた。その花は頭上から降ってきたようだ。

 すると、零の視界が変化した。

 目の前に自分がいた。

 目の前の自分は、女の子のような仕草と、笑顔で立っていた。

「なるほど……」

「私のカースはこんな感じだよ」

「解いてから喋ってくれ、気持ちが悪い」

 零に扮した胡桃は、唇を尖らせながら手を掲げる。

「えー、ショック」

 すると片方の零の周囲に花が散り、胡桃は元の姿に戻った。

「一応確認だが、対象が花びらに触れたら、幻惑を見せるということで、間違いないか」

「うん! そんな感じ」

「わかった。感謝する」

「ねえ先生、私、どうだった? 一応試験なんでしょ?」

「これは試験の一環だが、どちらかというと俺が君たちを知るためにやっていることだ。成績に反映したりはしないさ」

「え? じゃあ何のために試験を……」

「二次試験があるんだよ。次の生徒で最後だから、教室で待っていてくれ」

 胡桃は大人しく教室へ戻ることにした。

「なぜみんな、俺のことを知りたがる。雅火くんみたいに反発してくれた方が疲れないな……」

 零は小さく呟いた。

 

 道坂胡桃

 カース【翻弄】【混乱花弾】ランクB


 ***


 出席番号順に十名の生徒を査定して、これでやっと最後だ。教室の空気もだらりとたるんできた。

「待ちくたびれたぜぇ、先生」

「君で最後だ、灰村 直人」

「じゃぱっぱと終わらせえるか。そのボールペン、投げてくれないか?」

「下手すれば俺、解雇されるんだが」

「当たらねぇから大丈夫だよ」

 零は能力名を見て、安心してペンを投げた。ボールペンは直人を目掛け回りながら飛んでいく。直人はすかさず、右手を宙に翳す。

「【狂捻軌跡】」

 ボールペンは腕の前で停止し、零に矛先が向いた。ボールペンは耳元を掠め、やがて勢いが失せ地面に落ちていた。

「俺の能力はこれだけだ」

「だが、なかなかに便利なものじゃないか。物体の軌道を変えられるなんてな」

「おう、みんな退屈にしている。早く戻って二次試験の説明をしてやれよ」

 零は一瞬の表情の変化を見逃さなかった。

「お前、何か隠していることがあるだろう」

「あ? なんもねぇよ」

「そうか……」

 生徒との関係を崩したくなかった零は、それ以上の詮索を控えた。

 これで、全員分の能力査定が終わった。


 灰村直人

 カース【歪曲】【狂捻軌跡】ランクB

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ