EP33『色めいた街』
33『色めいた街』
新幹線の中から除く景色に、思わず目を見開いた。アナウンスではもう少しで愛知県に入るらしい。しかし、目の前に広がっているのは、荒れ果てた大地だった。昔、映像で見せられた日本は、四季折々の景色があり、その美しさは花鳥風月と評される程である。
趣も風情も一切感じられない灰色に満ちた大地は、失望と共に零の心を締め付けた。
――まだ、未来は起こさないであげよう。
東京は流石に首都ということもあり、かなり整備されていることが分かった。カルネ先生は慣れているのだろうか……。
「ここがナゴヤ支部の管轄か……」
「ああ。最初に見る景色としては、衝撃的だろう」
「ひどい有り様だ。爆発かなんか起こったのですか」
「さあな」
声は落ち着いている。だが零は、その背中に感じる重さを理解していた。彼もまた、この荒廃の中で秩序を保つ責任を負うのだろう。列車がゆっくりと速度を落とす。淀んだ空気が霞み、周囲の建物が見え始める。高層ビルが建ち並ぶ、近未来の様相を呈していた。
「俺はここでやれるのか……」
零は拳を軽く握る。自由を得たばかりの身で、これほどの異世界に足を踏み入れる覚悟を迫られるとは思っていなかった。だが、心の奥底で、確かな熱が燃えていた。未来の寝息に耳を傾け、零はそっと目を閉じる。
「どうしたぁ優等生、緊張してんのか?」
「まあ、そうだ」
「珍しいな、漏らすなよ」
「ガキじゃないんですから」
「ガキだろお前、まだ十五だぞ」
なんて子供みたいな会話をしていると、未来が起きた。
「ええええええええええ! すごい! きれい! かっこいい!」
目を輝かせながら、窓に顔を引っ付けながらナゴヤの街を見ている。
「ちょっと零ちゃん! なんで起こしてくれなかったの!」
「え、ああ、すまん……」
カルネは零の心境を察し、笑い噴き出すのを堪えている。
「さて、そろそろ着くな。鞄、持っておけよ」
***
ナゴヤ駅、金時計から直通の地下通路には「監獄教育機関 ナゴヤ支部」と記載されている。途方もない現実の圧力が押し寄せてくる。看守という肩書きは、自分にとっては重すぎる。零はそう感じていた。
通路から地上に上がると、看守らしき人物が一人立っていた。
「来られましたか。セタガヤ支部の皆様方」
「ローゼルス、一昨日ぶりだな」
「ええ、カルネ主任看守。そちらが、例の天才ですか」
ローゼルスは零を一瞥すると、にっこりと人懐っこい笑みを浮かべた。
「灯火 零と申します。以後、お見知りおきを」
一礼すると、未来もぺこりと頭を下げた。
「氷室 未来です。本日からよろしくお願いいたします」
「私はローゼルス・ローダンセ、ナゴヤ支部の看守長です」
看守長か。いずれ相まみえることになりそうだ。
「なるほど、カルネ先生が転勤したのって、ナゴヤ支部だったのですね」
「ああ、そうだ」
「先生がいなくなってからどれだけ大変だったか!」
未来がカルネ先生の服を引っ張る。
「ごめんって……」
「生徒は大事にしなければ、カルネ看守」
「うるせえ。殊夜の奴に一杯食わされたんだよ」
「その間、ナゴヤ支部で匿われていたんですね」
零が指摘する。言葉に棘を持たせている。
「あのみなさん。とりあえず、中、入りません?」
そうして俺たちは、新たな一歩を踏み出した。




