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8章『灯炎の異端者』
『余白埋めの物語8』
薄明かりの中、街の路地はまだ眠っているようだった。誰かが、ひっそりと佇む黒い影のように歩いていた。
冷たい空気が頬を撫でる。だが、背筋に小さな違和感を覚え、私は足を止めた。背後から、低く、しかし確かに聞こえる声。
振り返ると、そこには誰もいなかった。ただ、微かに揺れる影が路面に映る。風に混ざった囁きのように、私の名前が繰り返される。
答えはない。だが、静寂の中で、何かが私を導くように、奥の路地へと手招きしている気がした。
私は一歩、また一歩と進む。闇の中に、ほんのりと温かい光が差し込む場所を求めて。
その瞬間、遠くから犬の遠吠えが聞こえた。私は立ち止まり、街の向こうに目を凝らす。光と影が交錯するその先で、何か新しい“出会い”が私を待っている。そんな予感だけが、冷えた空気を少しだけ柔らかくしていた。




