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最終章『使命を背負う脱獄者』
部屋の空気が、少しだけ軽くなった気がした。
それが良い兆候なのか、悪い兆候なのか、私には分からない。
何かが起こる前の、特有の静けさが辺りに漂っていた。
声は変わらない。態度もいつも通りだ。
それなのに、生活の重心だけが、ゆっくりと玄関側へずれていく。
その違和感を「可能性」として処理した。確信にしてしまえば、何かが壊れる。
だから名前をつけない。考えすぎだと、棚に戻す。
生活が整うほど、言葉は減っていった。安心と沈黙は、よく似ている。
部屋を出たあと、空白が残ると分かっていても、何もしないでおく。
片付けは、帰ってこないと分かってからでいい。
今はまだ、一緒に暮らしている。
終わる可能性は、ただの可能性のままだ。




