表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/37

EP25『遺された指輪、あの日の決意』

 25『遺された指輪、あの日の決意』


 事故が起きたのは、特別な日ではなかった。予定通りの時刻に始まり、予定通りに終わるはずだった。

 王命による”最新兵器”の点検。表向きは、安全基準の確認と運用試験の立ち会いだった。

 私の妻は、管理責任者の一人だった。現場に立ち会い、数値を確認し、異常があれば中止を進言する役目だ。

 問題は、試験開始から二十分後に起きた。装置の負荷が想定値をわずかに超えた。

 停止信号は出された。だが承認が下りなかった。

「誤差の範囲内だ。ここで止めれば、次はない」

 王からの判断は、それだけだった。数値は徐々に悪化した。彼女は再度、中止を進言した。返ってきたのは、継続命令だった。

 やがて、その最新兵器は青白い爆発を起こし、その場の管理者総勢二十名が死亡した。

 即死ではなかった。

 呼吸も、脈も、しばらくはあった。

 だが医療班が入る許可が下りた頃には、すでに手遅れだった。記録上の死因は「運用のエラー」。

 安全装置は正常、手順にも違反はなかったことになっている。

 責任者はいない。

 判断は正規の手続きを踏んでいたからだ。

 王は報告書に目を通し、短く告げた。

「不幸な事故だった。今後に活かせるよう尽力する」

 それだけだった。

 当時の私は、その言葉を否定しなかった。

 怒鳴りもしなかった。だが理解した。

 この国は、もうすぐ滅ぶ。いや、滅ぼさねばならない。

 

 葬儀は簡素だった。

 王命による事故死に、盛大な式は許されなかった。

 棺は軽かった。

 中身の問題ではない。ただ、そう感じただけだ。

 返還された遺品は、書類と衣服、それから指輪ひとつ。

 薬指に嵌められていたものだ。

 サイズは、今も正確に覚えている。

 式の後、王が声をかけてきた。

「惜しい人材だった。だが国のための犠牲だ。誇れ」

 ゆっくりと一礼した。

 その言葉を、訂正しなかった。

 国のため。

 秩序のため。

 正しさのため。

 どれも、彼女を助けはしなかった。

 その夜は、指輪を磨いた。まるで刃を磨くように。

 汚れは最初から、どこにもなかった。

 それでも磨いた。

 強いて言うなら、零れた涙で濡れたくらいだ。

 剣を取る理由は、復讐ではない。怒りでもない。いや、それは自分への言い訳だ。何も出来ない弱い自分への言い訳。

 私は、王を殺すという結論しか選べなかった。天才のような発想を持てなかった。

 指輪を、薬指に嵌めた。それが私の誓いだった。

 王を殺すと決めた日。

 それは、誰にも気づかれないほど、静かな夜だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ