EP25『遺された指輪、あの日の決意』
25『遺された指輪、あの日の決意』
事故が起きたのは、特別な日ではなかった。予定通りの時刻に始まり、予定通りに終わるはずだった。
王命による”最新兵器”の点検。表向きは、安全基準の確認と運用試験の立ち会いだった。
私の妻は、管理責任者の一人だった。現場に立ち会い、数値を確認し、異常があれば中止を進言する役目だ。
問題は、試験開始から二十分後に起きた。装置の負荷が想定値をわずかに超えた。
停止信号は出された。だが承認が下りなかった。
「誤差の範囲内だ。ここで止めれば、次はない」
王からの判断は、それだけだった。数値は徐々に悪化した。彼女は再度、中止を進言した。返ってきたのは、継続命令だった。
やがて、その最新兵器は青白い爆発を起こし、その場の管理者総勢二十名が死亡した。
即死ではなかった。
呼吸も、脈も、しばらくはあった。
だが医療班が入る許可が下りた頃には、すでに手遅れだった。記録上の死因は「運用のエラー」。
安全装置は正常、手順にも違反はなかったことになっている。
責任者はいない。
判断は正規の手続きを踏んでいたからだ。
王は報告書に目を通し、短く告げた。
「不幸な事故だった。今後に活かせるよう尽力する」
それだけだった。
当時の私は、その言葉を否定しなかった。
怒鳴りもしなかった。だが理解した。
この国は、もうすぐ滅ぶ。いや、滅ぼさねばならない。
葬儀は簡素だった。
王命による事故死に、盛大な式は許されなかった。
棺は軽かった。
中身の問題ではない。ただ、そう感じただけだ。
返還された遺品は、書類と衣服、それから指輪ひとつ。
薬指に嵌められていたものだ。
サイズは、今も正確に覚えている。
式の後、王が声をかけてきた。
「惜しい人材だった。だが国のための犠牲だ。誇れ」
ゆっくりと一礼した。
その言葉を、訂正しなかった。
国のため。
秩序のため。
正しさのため。
どれも、彼女を助けはしなかった。
その夜は、指輪を磨いた。まるで刃を磨くように。
汚れは最初から、どこにもなかった。
それでも磨いた。
強いて言うなら、零れた涙で濡れたくらいだ。
剣を取る理由は、復讐ではない。怒りでもない。いや、それは自分への言い訳だ。何も出来ない弱い自分への言い訳。
私は、王を殺すという結論しか選べなかった。天才のような発想を持てなかった。
指輪を、薬指に嵌めた。それが私の誓いだった。
王を殺すと決めた日。
それは、誰にも気づかれないほど、静かな夜だった。




