EP24『洗練された刺突』
24『洗練された刺突』
「劣弱は使えないと判断しましたか? 作戦を事前に通達していない彼はただの邪魔ですもんね」
「どんな生徒にもそれに適した役割がある。導く者として指導を施したまでだ」
「そんな生温い指導で、私に勝てるなどと思わないことだ」
扇子を開き、今度は二振り。未来に向けてだ。未来は自分を守るように氷を展開した。札は氷の壁を貫通できずに刺さったままだ。しかし、未来が氷壁を解いた瞬間だった。すでに殊夜は未来の懐に入っていた。
「彼女らを断絶する壁となれ【トランス】」
すると、未来の足元が隆起した。
「小賢しいッ!」
殊夜は鉄扇を大きく振り抜き、隆起する途中の岩を切り裂いた。岩にその跡が残った。
「ああっ!?」
未来の足から血が流れた。
「まず一人。これであなたは体術もカースも封じられましたね」
「それはお前もだ! 【インフェルノブラスト】」
篝が手を翳すと殊夜の足元が燃え、炎の柱が立ち上る。間一髪で殊夜は後ろに退く。アスター看守長は未来を抱きかかえると廊下に避難させた。
「戦闘が始まってから既に三人のリタイア。あなたたちに勝ち目はないですよ」
「適材適所と言っただろう。分からず屋」
看守長は指輪を外し、魔法を唱えた。
「悪を切り捨てる刀剣と成れ【トランス】」
そう言うと。看守長の指輪が白銀のレイピアへと変貌した。
「杖替わりですか? 私の秩序が理解できぬ朴念仁」
「もう少し、礼節を弁えたらどうかな。カース人」
「カース人!?」
篝は看守長の方を見る。
「私の素性を調べたのですか。ですがそんなこと、殺し合いには関係ない」
「そうだな、道化」
アスター看守長は背筋をまっすぐに伸ばし、リラックスした状態で立っている。右手は剣を、左手は腰に。剣先は相手を射抜いている。
「篝、離れていろ。サポートは必要ない」
「余裕だなぁ、堅物!」
殊夜は鉄扇を振り札を飛ばす。
「飛び道具とは厄介だな」
前方にレイピアを突き立てた刹那、五枚の札が金属音を響かせ宙を舞った。
――早い!? 一突きしか見えなかったのに五枚の札を全て落とした……。
篝は感心していた。
「金属製の札か、手が込んでいるな」
「だが、これで間合いは詰められた」
間合いに入り、鉄扇を振り抜く。
「甘い!」
レイピアを自分の方へ向け、持ち手の部分で鉄扇を弾いた。その反動で殊夜は怯んだ。体制を整える前にアスター看守長は前進した。
――まずい。
殊夜は鉄扇を振り抜いた。しかしアスター看守長は鉄線の間合いぎりぎりで停止し、振り抜いたのを確認した。
「喰らえ」
アスター看守長は素早い刺突を繰り出した。その突きは殊夜の胸を貫いた。
「ぐあっ!?」
――血が出ていない。あのレイピアは偽物、それか峰打ちか。
「もう終わりか。道化」
「吠えてろ……」
「胸元、よく確認した方がいいんじゃないか?」
アスター看守長はいたずらに笑う。
「呪封石が!?」
胸元のアイオライトの宝石が砕けていた。
「言葉遣いが乱れているぞ。立て。貴様なりの秩序とやらを見せてみろ」
沙華殊夜の額には、汗が滲んでいた。
「まだまだ!」
――すごい撃ち合いだ……。早すぎて追いつけない。
篝はサポートしようかと考えていたが、剣先すら視認できない戦いっぷりについていけなかった。
「そんなものか、日本国家のお偉いさん」
「あなた達が日本を語りますか」
「語っちゃダメなのか?」
「いえ、別に」
アスター看守長の刺突が弾かれる。隙ができた途端、舞を踊るかのような攻撃を披露する。
「悪を捕らえる牢と成れ【トランス】」
「んな!?」
殊夜の足元にくぼみができ、がっしりと固定される。その様子は、積雪に埋もれてしまったかのようだった。動揺する隙を見て素早い二撃を繰り出す。それは両手に命中し、鉄扇を落としてしまう。
「くそッ!」
扇に手を伸ばすが、僅かに届かない。
「やはりその扇がないとあの珍妙な札も飛ばせないようですね」
右手を振りかざし剣を下向きに持ち、姿勢を正す。
「なるべく使いたくない手だったのですがね……仕方がない。これは私の望んだ秩序の形ではありませんが!カース:【秩序】【メモリーエラー】」
殊夜の眼光が妖しく光る。仄かな紫色が映し出される。
「いけない! 篝君、離れろ!」
そう言うと看守長は篝を突き飛ばした。
「もう遅い! 私の目を見た瞬間、秩序の修正は既に始まるのだ!! あなたが呪封石を破壊したせいで、私のカースは解き放たれた!」
看守長は篝の意識を確かめる。
「殊夜、お前……読んでいたのか、じゃないと自らの力を封じたまま闘っていたことに」
篝は気絶しているだけだった。
「さあ、どうでしょう。その方は妹さんにとても肩入れしているようですね。未来さんや零君たちと似たような感情を感じます」
「喋るな!」
レイピアを持ち直そうとした瞬間、体が硬直する。
「……おやぁ? アスター看守長も、なにか”特別な想い”を抱えているようですね」
「それ以上、喋るなと……言っているんだ」
「だがあなたの想い人はもう……」
「黙れ!!」
しかし、アスターのレイピアは、銀色の指輪へと戻った。カランと音を立て床に伏した指輪を、ゆっくりと指にはめていく。悔しさを堪えながら。
「お前のような下衆に……一体何がわかるというんだ」
「大事そうに薬指を抑えているのがその証拠です。語るに落ちましたね」
「貴様は絶対に……あの天才が……」
そこで、アスターの意識が途絶えた。そして、砕けたアイオライトの残骸が、床に散乱していた。




