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EP14『集いし叛逆生』

 14『集いし叛逆生』


 星は、教室の扉の向こう側にいる人影を見逃さなかった。案の定、その人物はすぐに捕らえられた。

「あの、すいません私零さんの指示で……えっとその……」

「あ!瑠璃ちゃん!!」

 ――C組の生徒か。

「零ちゃんの指示ってどういうこと?」

 未来が膝を折り、優しく尋ねる。

「騒ぎが起きた教室に叛逆生がいるって聞いて、私も入れてくれないかなって」

「フルネームは?」

「小鳥遊瑠璃です」

「君は零とどのような経緯で接触したんだ?」

 星は一層強い疑いの目で睨んだ。

「ちょっと前に、作戦要項みたいなのが端末に送られてきたの」

 ――端末?

 ふと星の頭に、零のセリフがフラッシュバックした。

『C組にもそういうやつがいる。小鳥遊とか言ったか……』

「お前、スパイか!?」

「そうなんだけど違うんです! 零君に聞けばわかると思います……スパイのスパイ、みたいな……」

 その場の全員が固まった。つまりそれは、二重スパイということだ。

「見かけによらず豪胆なのね」

 背丈は小柄な玲奈と同じくらいだが、瑠璃のほうが華奢で幼くみえる。

「なるほど、君が零と接触したんじゃなく、零から先に接触したわけだな」

「はい、そうです」

「なんで看守を裏切る真似なんか」

 軽率に言うと、瑠璃は俯いて話しだした。

「スパイって思ってるより辛いんです。一緒に過ごした仲間を裏切ることを強要されて、本当はやりたくないのに」

 未来が途端に閃いた。

「もしかして瑠璃ちゃんのカースって、盗聴とか?」

「はい、カースは【諜報】です」

「やっぱり! スパイは全員、情報を流したりできるカースってことだ。そういう生徒には裏切りを強要させてるのかも」

「そういえばうちのクラスのスパイ、叢雲魁斗も【伝播】だったか」

「みんな!気を付けて!」

 廊下から近づく気配を察知すると、凪咲が警告した。

「うまくやったようだな。叛逆生の諸君」

「零ちゃん!」

 未来が駆け寄ったと同時に篝が駆けだした。

「ヒサメ!」

「未来、凍結を解除してくれ。言ったとおりに、氷の内部は暖かい状態なんだよな」

「簡単に言ってるけど、めちゃくちゃ魔法の調整難しいんだよ?」

「わかっている。お疲れ様」

 ――零ちゃんったらまた他の女の子連れてきちゃって……。

 未来は顔を背けながらヒサメを覆う氷を溶かしていった。氷は、物理現象では説明できない溶け方をした。それはもはや溶けたというよりも消失したという感じだった。

「お兄ちゃん……と、ゴミ共?」

「ヒサメ、落ち着いて聞いてくれ」

 篝はなだめるような顔と声でそういう。

「ああ、なるほど。あのギャンカスゴミ看守と一緒に監獄を裏切るのね了解。それじゃあここからはゴミに従えばいいわけね把握」

「うん、理解力高すぎだねヒサメ」

「役者はこれでほぼ揃ったな」

「ほぼ?」

「ああ、まだ3人ほど欲しい”駒”がいてな」

「人のこと駒って呼ぶな」

「悪い。あと、シドに関しては当初の予定になかったからな、裏切られたら詰みだな」

「おい、噓だろ」

「当初の予定になかったってことは、そんな使える魔法じゃないってことだ」

「随分と言ってくれるわね……」

 チャームポイントであるボブ髪を撫でながら呟く。

「じゃあ折角だし、みんなのカースとか魔法を確認しておこうよ」

「俺は全員知っているが、構わない」

 零は興味なさげに欠伸をした。

「じゃあ俺から」

 星は立ち上がって見回した。

「僕は黒宮 星。カースは【幻影】と【感情】で、看守は知ってると思うけど2個持ちです。多分零から奪いました」

「そんな欠陥品いらないわ」

「こいつ……【感情】の方には弱点があってね、喜怒哀楽を1週間以内に全部発散しないといけないんだよね。僕はもともとあんまり怒らないタイプだけど、怒りの感情も当然放出しなきゃだから、零によくぶちまけてる」

「零ちゃん不憫ー」

 ――未来、棒読みにもほどがあるだろ。

 じっと零は未来を見つめた。しかし未来はぷいっと顔を逸らした。

「まぁ零は僕なんかよりもよっぽど感情の制御が効くしな。大したものだよカースもなしに」

「ふん」

 零の異名は、ここにいる誰もが知っている。

「さて、どうしようかな、これから」

「え? どうしよかなって、作戦あるんじゃ?」

「まぁそうなんだが、最大の問題があってな」

 全員が零に注意を向けた。

「監獄のカギの在り処が、わからないんだ。元看守のあなた方の方が存じてるかと思うのだが」

「私たち、ここに寝泊まりしてるからわからないわよ」

「そうか、ここは風呂も食料も部屋もあるもんな」

 零は目を閉じて、顎に手を当てて俯いた。

「目星はついているのか」

 ――篝のやつ、妙に乗り気なんだな。

「君たちが知らないとなると、看守長だろうな」

「まあ、そうでしょうね」

 玲奈が当然だという顔で呟いた。零はしっかりとそれを捉えた。

「丁度いい、玲奈さんのカース、実際に見せてくれませんか?」

「あら、いいわよ。こんな感じ」

 そういうと玲奈はその場からパッと消えてしまった。すると彼女の居た場所から火花が散った。青白い稲妻のようなものが走り、その先には玲奈が立っていた。

「私のカースは【電撃】よ。移動距離は最大十メートル。ただし、私の体が向いている方向にしか移動できないわ」

 一同が感嘆の声を上げている。

「便利そうですね。色々応用が利きそうで」

 異能を持たない零にとっては、知ろうにも知れない話だ。

「ところで、黒影凪紗さん、あなたのカースは?」

「やっと聞いてくれたわね。私のカースは【格納】よ」

 そういうと凪紗の周囲の地面に黒い墨で描かれたような円ができた。そこから凪紗は、自身のカバンを取り出した。

「こんな感じで、墨の中が異世界みたいになって、いろいろ物を仕舞えるわ。私が触れないと取り出せないけどね。あと、墨の上に乗せたものは、私が触れるまで動かすことができない。正直役立ったことはないけど」

 「そうか……。いいカースだと思うけどな。おっと、もうこんな時間か。残りのカースはあとで聞こうかな」

 そういうと零は立ち上がった。

「叛逆生、聞いてくれ」

 零はパンパンと2回手を叩く。

「これより、トリネコ看守捕獲計画の概要を説明する」

 みんなが一斉に零の方を見る。

「肝心の計画なんだが、少し考えさせてくれ」

「珍しいね」

「恐らくだが、トリネコの魔法には弱点はある」

 刹那の静寂の中、ゆっくりと目を開けた。

「連続使用ができないということだ」

「根拠は?」

「俺が星と未来を突き飛ばしてトリネコの魔法を受けたとき、なぜ彼女はもう一度接近して魔法を発動しなかったのか。しなかったんじゃない、できなかったんだよ」

「できなかった?」

「恐らく、魔法には階級のようなものがあるんだろう。そして、彼女の【服従】の魔法は強力な部類だ。ならば、それなりに制限があるのではないか」

「確かにその仮説が正しければ、連続使用できないってことになるか」

「だが問題は、それが分かったところで、対処が難しい。俺が魔法に掛かった際、不意打ちとはいえ星を気絶させるほどの身体能力を得たんだ。だから連続使用ができないとしても、誰かを身代わりにしたりするのは危険すぎる」

 理由はどうあれ、零は仲間を傷付けたくないのだろうと未来は思った。むしろそっちが、本当の目的なのかもしれない。

「でも、じゃあどうするの?」

「実際に凪紗さんと透司くんのカースを見て、ある作戦を用意しようと考えていたところだ」

「……え?俺(私)?」

「さっきは言わなかったが、透司くんのカースは【透過】だったな」

「え、ああ」

「ならば、服も透明化できるか?」

「俺が身に纏っているものは、全部透明化できるぜ!」

「じゃあ仮に、君を拘束したとして、その拘束具も透明化できるんだな」

「……は?」

「いやしかし……これは作戦としてあまりにスマートじゃないな」

 零が周りに聞こえるか聞こえないくらいの声量でボソッとボヤいた。

「もし俺が他の作戦を思いつかなかったら、すまないが空野透司。君を少し不憫な扱いをさせてほしい」

 本人は困惑していたが、C組の女子二人がそれを了承した。

「それと篝看守、すまないが手錠をかそてくれないか?」

 しばらくの沈黙の後、妹の顔を思い出しこう答える。

「……わかった」

 

 ***


 ――結局、トリネコの対策はそれ以外に思いつかなかったな。

 生徒にとっての家とは、すなわち独房である。過去のカース人、いや、”日本人”であったころの歴史をよく知っている僕からすれば、非常に胸糞悪い話だ。

 とはいえ実は、ここでは独房とは名ばかりの”普通”の寮だ。

 ここは昔、東京都世田谷区などと呼ばれていた。よって僕たちの住むこの監獄は【監獄教育機関セタガヤ支部】と呼ばれているそうだ。つまり、外の世界では”普通の暮らし”が行われているということだ。でもなければそのように名前分けする必要はない。全て統一してもなんら不自由はない。僕たちが食べている食材やなにかを取り寄せる際に、区分けされていないと面倒だからというのもありそうだが。

 あくまでここでは、”普通”の寮だ。しかも一人につき一部屋与えられる。他の監獄では恐らく、もっと非人道的な扱いを受けている場合もある。本来僕たちは、叛逆を企てないように、外の世界についての疑問すら持たれないような教育を施されるんだ。赤子のころから育てられるのだから、洗脳する機会など幾らでもあるからな。カルネ先生がいかに異端であったかが伺える。

 零は湯船に浸かりながら漠然と、そんなことを考えていた。他の監獄では、こんな風に暖かい湯船に浸かれる機会なんて、ないのかもしれない。

 ――そろそろ出るか。

 トリネコのことなどあれこれ考えていたら逆上せてしまった。

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