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4章『過去に従う喪愛者』
『余白埋めの物語4』
雨に濡れた舗道は、まるで記憶を写す鏡のように光っていた。誰も歩いていないはずの通りに、足音だけが規則正しく響く。振り返っても、誰もいない。
路地の奥に、灯りの揺らめく小さな窓が一つだけ見えた。その光は温かそうでありながら、触れれば指先が冷たく凍りそうな不気味さを孕んでいる。目を凝らすと、窓の中の影はほんの一瞬だけ動いたように思えた。
空気は静かで、けれどどこかがざわついている。見上げた空は、曇りの隙間から断片的に灰色の光をこぼし、夜に溶け込む。何かが待っているようで、確かめることはできない。
壁の向こう、物音のない廊下の奥には、微かに時間がねじれる感覚がある。何かが存在している気配は確かだが、触れようとすれば手のひらは空を切るだけだ。
気付くと、影は後ろではなく、ずっと前を歩いているように見えた。それは形を持たない、確かな存在。振り返ると、まるで自分自身の足音も影の一部になっているかのように錯覚した。
雨は止むこともなく、光は消えることもなく、すべてが揺らいだまま残る。答えのない問いが、知らず知らず心の奥に静かに落ちていった。




