EP12『叛逆者達』
12『叛逆者達』
目の前にいる元親友は、誰かと連絡を取っている。僕はこれからどうなってしまうのだろうか。
「脱獄犯を一人、確保しました。……はい、了解です。黒宮 星、主任看守が来るまで、少し待っていろ」
「……わかりました」
その時が来るまで、項垂れることしか出来ない。
「よく働くわね、零」
忌々しい声が聞こえる。
「それじゃ早速」
まさか……!!
そう思った頃にはもう遅かった。彼女の瞳は妖しく光り、僕を捕らえて離さない。
「服従魔法・【ハートチェーン】♡」
その瞬間、星は消えた。
「え!? 消えた」
「星のカース:幻影 ですかね」
「あら、取り逃しちゃったわね」
「すみません、トリネコ主任看守。再突撃しますか?」
「いいわ、また作戦を練り直しましょう」
「承知」
***
空き教室にC組の脱獄肯定メンバーが集った。
「あ、分身が消えた」
「うわびっくりした!」
「幻影が作られると本人は消えるんだね」
「最近、あんな感じで消えることもできるようになったんだ。本体がたまたま能力の使えないあの場に居合わせなくてよかった」
星のカースは、度重なる酷使から進化を遂げていた。放出された幻影が動いている間、星本人の体は透明化することができる(する・しないの選択可能)ようになった。
「……ねぇ、この子の周りにいると、カースも魔法も使えなくなるんだよね?」
「ああ」
「なら零君をこの子に会わせればいいんじゃ」
「その手があったか!」
生徒達やカルネの顔が明るいものとなっていった。
***
トリネコの部屋に、一人の優等生がいる。トリネコの魔法に充てられて洗脳状態に陥ってしまっているようだ。
「絶望した?零君。友達を殺そうとしたのよ、あなた」
「主任看守が一人の生徒に肩入れしていいんですか?トリネコ主任看守」
「そうねー……まぁ夜のお供としてはちょうどいいかしら。あなたかなりイケメンだし」
「癪に障る、黙れショタコン看守」
「あらぁ意外とSなのかしら?」
零が反抗しようとしたとき、トリネコの部屋の扉がノックされる。
「誰かしら」
トリネコは零にカースを再発動し、扉を開けた。
「誰もいない……零君、今のが誰かわかる?」
「わかりません」
「そう……解除っと」
その瞬間、零はニヤリと口角を上げた。
「今から二十四時間以内に、俺はあなたを殺します」
トリネコは吹き出した。
「あっはは! 天才って聞いてたのに拍子抜けだわ。二十四時間以内に私の魔法を解くっていうの?」
「ええ。こんな風に」
すると零は、トリネコの顔面を目掛け右ストレートを放った。しかしトリネコはひらりと身をかわし、零を抑えつけた。
「ぐっ……」
「あんたの焦ってる顔見るのは初めてだわ。いい気分。で、頭脳派がなに喧嘩売ってんの?脱獄は諦めたわけ?」
「トリネコ・キルハート。本名、シャンティー・コントルド」
トリネコの余裕そうな表情が一瞬にして曇った。
「カース人と結婚し、夫と子供は現在……死別か」
「あんた、なんでそれを……」
「少し違う、か」
「……っ!?」
「子供はいじめによる自殺。原因はハーフということによる差別。そして夫は……ああ、なるほど。捨てられたんだな。子供を残して」
「違う!!」
それは監獄のどこにいても聞こえるような怒号だった。
「あの男は……あいつには愛なんて一切なかった。やることだけやって私を……」
零は悲哀とも怒りともいえる顔を浮かべていた。同情しているのだろう。
「……お前のせいだ」
「ん?」
「お前を今すぐ独房にぶち込んでやる!」
「おいちょ……」
トリネコは独房に入れられた零を、まるでゴミでもみているかのような目つきで睨んでいる。
「そこで大人しくしていることね」
怒りを孕んだ声色だ。
「……もう一人の子、災難だったな」
「このっ……クソガキ」
「交通事故だったんだろう、弟をいじめから救おうとしていたのに」
トリネコはもはや怒りを忘れた。自らの過去を、消し去ろうとした過去を思い出した。封印した記憶の根を掘り返されたのだ。
「つくづく不幸な家族だな」
「なんでそのこと知ってるのよ」
「ふっ」
「なに笑ってんのよ」
「俺が知ってるのは”シングルマザーで子供は死去済”ということだけですよ」
「は……?」
トリネコは理解できず、その場に立ちすくんでしまった。
「プロファイリングってしってます?」
「それ警察とかが使ってたって言われる……」
「表情や仕草とかで人物の心理を読み取るってやつです。行動心理学や統計データを基にしていますが、あんなのもはのは基本、あてにはなりませんね」
「監獄にいながら一体いつそんなの学んだのよ」
「観察と思考と……直感です」
「ふふ……はははは!!劣弱の天才って神様にでも愛されているのかしら」
「神は俺が……」
ボソッと呟いたが、声に意思が籠っている。
「ん?」
「いえ、なんでも。ところでさっきの補足なんですけど」
「私を殺すとかいうやつ?」
「ええ。少し補足をすると、”俺は独房からあなたを殺します”」
「やってみなさいよ」
「ええ、勿論」
零の目が、妖しく光り輝いたような気がした。トリネコはごくりと唾を飲み込んで、牢屋を後にした。
「にしても、職場にあんなヒビ入った子供の写真置いとくかよ……。」
「零ちゃん大丈夫かな……」
未来はとっくに起き上がっていたが、零のことが気がかりなようだ。
「あの人ならきっとうまく切り抜けるわよ。私達でサポートしよ!」
心配する未来を凪紗が慰めている。
独房にいる零を除いて五人の叛逆生達が、空き教室に集まっていた。その時、星が所持しているトランシーバーからノイズが走る。直後、零の声が響いた。
『あー、あーあ、あー。マイクテス、マイクテス……』
「零、大丈夫なのか?」
『ああ、問題ない。叛逆生全員をここに集めてくれ』
「もう既に集まってる」
『やるな。C組の叛逆生に伝えたいことがある』
C組の三名がトランシーバー顔を近づけた。
『こちらのクラスにはスパイがいたんだ。特別看守と言うらしい。素性がバレたからか、もうクラスを出て行ったが……同じように、C組にもそういうやつがいる。たしか、小鳥遊とか言ったか』
クラスメイトがスパイだと知ったからか、顔をしかめている。そんな中、玲奈が冷静に答えた。
「そのスパイはどう私たちの邪魔をするの?」
『計画の情報を流されたな。だが、具体的な作戦を少数名に絞ったからそこまで致命傷は負っていない。だが、間違いなく厄介な存在だ。そいつのカース次第ではこの会話を聞かれている可能性だってあるからな』
「カース人なの?」
「うん、魔力じゃなくて呪力を感じたよ」
未来が自信満々に答えた。
『俺は疎いからそこらへんの区別つかないが、未来が言うなら間違いないだろう』
未来は嬉しそうに小さく微笑んだ。
『さて、君たちに別の命を下す』
全員の視線が星のトランシーバーに集まった。
『ヒサメ看守を捕らえるか、始末してくれ。詳しくは俺の机の中にあるノートに』
「確保か始末、どっちの方がいいのかしら?」
玲奈が冷静に問う。
『確保だ……』
零がそう言いかけた途端にブツリと通信が途絶えた。
「なんでこんなものが……」
篝は零のインカムを踏みつぶし、しっせきするように言う。しかし零はそんなこと意にも介さない。
「たった今、お前の妹を殺す指示を出した」
「お前はそう言って、トリネコ主任看守も殺せない」
「果たしてどうかな……大事な妹を見捨てるのかい?」
「そんな挑発に乗るわけないだろ」
「ああ、そういえばスラムの出だったな」
「だからどうした」
「妹もそうだが学がないと思ってな」
「お前みたいなカース人に言われたくないな」
「そうか……せいぜい自分を恨むんだな。こんなことすら気づかないとは」
「どういう意味だ」
「今にわかるさ。何故俺が、わざわざ檻の外にいるお前の手がインカムに届く場所にいたのか」
その時、監獄内にサイレンが鳴り響いた。篝は嫌な予感を感じ走り去っていった。
「トリネコへの殺害宣言によって俺には安易に近づけない。バトロは監視だけで、星の幻影は判別できない。その状況で俺を監視するなら篝を使うと思ったさ。さて、ここから反撃だ」
星達は零の机の中にあるノートを取り出した。そこには、『ヒサメ看守の捕縛法』が記されていた。
……それは至って簡単、というか一見ふざけているようにも見えた。星は看守室へと駆けた。
「篝のバーカ!!」
「は?殺す。災害魔法【善悪浸災】」
「まじで釣れたよ、こいつ……申し訳なくなってきた」
そのまま星は、魔法で作られた小さな竜巻を避けながら教室まで誘導することに成功した。
「あ、ほんとに来た。凍てつけ、【絶対零度】」
刹那、教室が凍り付いた。反逆生の集まる教室で、ヒサメは逃げ場を失った。
「取引だ、ヒサメ看守。この人数差、受け入れるしかないと思うが」
「なによ、一応聞いてあげるわ」
ヒサメはキッとした威嚇のような表情を見せた。
「選ぶんだ、ヒサメ・アルテミス。兄の命か、看守の責務か」
「お兄ちゃんの、命……?」
その言葉が上手く咀嚼できないように眉をひそめた。
「そうだ。今から君の兄を殺しに行く」
「そんなことさせない!」
「お前らが僕らを閉じ込めるように!」
星の剣幕に、その場にいる誰もが驚愕した。
「俺たちがお前らを檻の中にぶち込んでやる!!」
「言ってくれるじゃないクズ共の分際で」
「それはどっちかな。今に零が証明するさ」
「やってみなさいよ」
「そこで黙って待ってな」
そういうと星は氷の剣の鞘で気絶させられた。
「爆破魔法・【インフェルノブラスト】」
「はっ!?まずい!」
その瞬間、未来が隔てた廊下と教室の氷壁が消失した。
「カース:電撃【迅雷閃華】」
玲奈がそう唱えると、辺りに光の花が咲いた。
「がはっ!?」
篝の鳩尾に強烈な痛みが走る。そのまま地面に倒れ込んだ。
「……ヒサメを……返せ」
痛みに悶えながらもなお、この世の全てを恨むように睨みつけてくる。
「残念だけど、あなたも拘束させてもらうわ。カース:温度【惨寒死温】
篝の身体が段々と冷え、次第に意識が薄れていった。
……ヒサ……メ。未来には、そう呟いたように聞こえた。無意識に目を細めていた。
「よし、こいつを運べば零からの要望は達成だな」
「あとは零君が上手くやってくれるはずね」
「……そうだね」
本当にこれでよかったのだろうか。未来の心に、一本の翳りが生まれた。
その頃、零は、バトロ看守に頼み、看守長と謁見していた。
「天才よ。自分が言っていることが理解っているのか」
「ええ。私はあなた方の期待通りの、天才ですよ」
「そうか。許可しよう」
「ところで看守長殿」
「なんだ」
「この監獄、魔法の発動には条件があるのでは?」
「前提として、生徒を殺傷しかねない規模の魔法は禁止だ」
「では、先程の篝看守の爆発魔法は、どうなのでしょう。私がバトロ看守と共にここに来た時、天井にヒビが入ってましたが」
「……処罰の対象だ」
「では、篝看守を、私の正面の独房にいれてください」
「おい天才。貴様が要求できる立場とでも?」
「その方が都合がいいのでは?直接監視できますし、私一人の命など、吹き飛ばせばいいのですから」
「ははははは。今更だが、随分と肝の据わった奴だ。その豪胆さがいつまで持つかな」
「死ぬまで、ですよ」
零が宣言すると、アスター看守長はお手本のような高笑いをしてみせた。




