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EP11『復讐の災い』

 11『復讐の災い』

 

 叛逆が起こったその晩、篝は寝床に伏せている。隣にある椅子に、少女は座っている。

 昔から破天荒な私は、いつも皆に迷惑をかけてきた。その度に、お兄ちゃんは謝ってくれた。私に一切の怒りも見せず。めんどくさい私の面倒だって笑顔で見てくれた。そんなお兄ちゃんを、私から……。

「奪わないで……奪わないでぇっ!!」

 幼い頃から私達はいつも一緒だった。荒廃したスラムの街で、私達は育った。

「返して欲しければ取り返してみろよー!」

 ここにある食料は貴重だ。ただでさえ治安が悪い上に、私達は孤児だったから。

「うう……」

「僕の妹に、何か用ですか?」

 そんな孤独を、お兄ちゃんはいつも埋めてくれる。

「赤髪……篝か!?」

「そうですけど?何か」

「す、すみません、これは返すので……」

「違う」

 とても冷淡で、全てを拒絶する声だ。

「パンを返すのは当然だ。お前が謝るのは俺じゃない」

 篝は虚空に手を伸ばす。そして、唱える。

「爆ぜろ。爆発魔法・【インフェルノブラスト】」

 そこに残ったのは死臭と、一つのパンだけだった。

 お兄ちゃんはその街でずっと、最強であり居続けた。それでも、生活は本当に苦しかった。

 お兄ちゃんに迷惑掛けないように、魔法の鍛錬をしている時だった。私達に新しい風が吹いたのは。

 その日は雲一つない快晴だった。やけに大柄の男と、露出の多い服を着た女の人が、私達の住み処にやってきた。

 警戒して、お兄ちゃんが扉を開ける。するとの男がお兄ちゃんを見るや否やこう言った。

「君が篝君だね」

「え……はい」

「どうやら孤児のようで……こんな治安の悪い所で大変だっただろう」

「ええ……まぁ」

 その人は、夢にも思わなかったことを口に出す。

「よかったら、うちで働かないか?妹さんもご一緒に」

 その日から、私達の人生は大きく変わった。毎日三食で綺麗な寝床もお風呂も服もある。刑務作業は思ったより苦じゃない。本当に苦しかったのは、人間関係だ。

 私にコミュ力なんてものはない。誰かに凄い剣幕で脅されてばかりの人生だったから。お兄ちゃん以外の、人間が怖い。

 当時の私は十二歳。環境の変化に思春期や反抗期が直撃した私はいつしか、恐怖心が怒りに成り代わっていた。

「はぁー?ふざけんなよ!」

 私の人格は、ここに来る前と後ではまるで転生でもしたみたいに変わっていた。職場の人間の殆どが年上だというのにでかい態度をとっていた。みんないい人で、私達の境遇を知っていたからか子供のわがままとして受け入れられていた。

 お兄ちゃんだけは注意してくれた。当時はこの上なくうざかったが、今ではありがたいって思う。

 私の人生は、お兄ちゃんがいなかったら崩壊していた。そんな恩人で最愛の人を奪われるなんて我慢できない。

 何があっても私が復讐する。立場なんて関係ない。絶対に、絶対に許さない。

 目の前に、監獄への反逆者がいる。お兄ちゃんを刺したカスではないが、ゴミなことには変わりない。

「君がヒサメ看守だね」

「うるさい!」

 ヒサメは篝のように、虚空に手を突き出す。

「災害魔法・【善悪浸災】」

 怒りは、災害という形をとって相手を襲う。しかし、星は軽々と小さな竜巻を避けた。

「話を聞いてくれ!」

「黙れ!黙れ黙れ!」

 すると、合流した未来が呪いを放つ。

「凍り付け!カース:【絶対零度】」

 ヒサメの足が凍り付いて、地面と一体化してしまう。

「ぐっ……ああああ!!」

 ヒサメは銃を引き抜て暴れだす。すかさず星が銃を取り上げた。

「大丈夫!?未来」

「私は何ともないよ」

「落ち着いて聞いてくれ。ヒサメ看守」

 ヒサメは観念したのか、抵抗をやめた。

「君のお兄さん、僕達のクラスメイトなら治せるかも」

「……え?」

「魔法よりもカースの方が効力は高いんだよ。その代わり体力を使っちゃうけどね」

 カルネ先生が、いつぞやに教えてくれたことだ。

「兄妹ともども、僕達に協力してくれないか?」

 ……もう、そうするしかないのかな。

 そう諦めかけたとき、やけに威圧感のある声が響く。

「うちの看守を懐柔しようだなんて、許せないね。なぁ零看守」

「まったくもってその通りですね」

「ア、アスター看守長とゴミ!?」

 私がお兄ちゃん以外の人類で、唯一ゴミだと思えない存在だ。そもそもお兄ちゃんは人類ではなく神なのだが。

「君達はこれを知らないかな?」

 そういうとアスター看守長は、首から下げた綺麗なアイオライトの宝石で作られたネックレスを見せつける。特有の輝きを放つこの宝石の見え方は、その場にいる全員から異なって見えている。

 それは、いつの日にか忘れてしまった空の色にも似ていた。

「綺麗……」

 女子の面々が恍惚とした表情を浮かべる。だが、そのネックレスが何を意味しているかは、看守であるヒサメですらわからなかった。

「カースなどという呪われた力とは異なり魔法は作りだせる」

 アスター看守長は怒りを堪えているかのような声で語り出す。

「これは愚かなるお前たちへの手向けだ。魔法の耐性がない者に、魔法の力を授けると、身体が壊死していく」

 本当なのか噓なのかわからないが、今は黙って聞くしかない。

「しかし、これは耐性がある者でも人体に影響を及ぼす特注品。すなわち毒だ」

 そういうと、アスター看守長は首からアイオライトのネックレスを千切り、未来に投げつけた。

「ひゃぁっ!?」

 未来の足元に、割れた宝石の破片が散らばる。

「未来!」

 星が未来の元へ駆け寄る。

「来ないで!」

 星が負傷してしまうリスクを考え、拒絶した。そして文字通り、時計の針が止まった。

 星と未来はカルネの魔法よって教室に戻された。

「大丈夫か、未来」

「体が……重い」

 未来の体は、先ほどの宝石のような青い輝きを放っている。

「生きろ、未来……!」

 星は涙を流して訴えかけている。そして、教室の扉が開いた。

 そこには、ヒサメがいた。

「殺す……ゴミが!」

「……凍れ」

 未来が最後の力を振り絞る。

「無理すんな、未来!【IN MY HAND】」

 しかし、時は止まらなかった。

「え、な!?」

「死ねえゴミ共!!」

 ヒサメが指に業火を灯す。しかしその炎は、瞬く間に消えてしまう。

「え、なんで?」

「今だ!」

 星はヒサメを思いっ切り殴り飛ばす。その衝撃で吹き飛ばされ、廊下に頭を打ち付ける。

「よし!これで……」

 星がヒサメを抱えようと顔を上げると、そこには見慣れた顔があった。

「うちの部下がすみません、B組の皆さん。いや、愚か者共」

「零……」

 相変わらず時は止まらないし、炎や嵐も起こせない。この状況で一番力を発揮できるのは、服従の魔法にかかり身体能力が強化された零だ。

「黒宮 星、君はやりすぎた。独房までご同行願おう」

「……わかった」

 零の手によって未来に被害が加わるのが、星は許せなかった。

 星は半ば諦め、独房までの歩みを進めていった。未来の体からは、未だに青白い煌びやかな光が発せられている。

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