EP10『立場逆転』
10『立場逆転』
「ほう……それがカースも魔法も人並みの運動能力すら持たぬ貴様の、選択肢か」
目の前に立つ少年は、自我を保っていた。こいつが普通の生い立ちならば普通のことなのだがな。
「策はあるのか?」
トリネコの魔法に当てられて尚自我を保つとは恐ろしい胆力だな。今じゃ奴隷になってる予定なのだがな。
「私にお任せください看守長様。必ず、脱獄をする愚か者に鉄槌を」
零は片膝をつき、左手を胸に当てて、右手を腰に当てる。
目的は達成してるからまぁ良いだろう。英明な反逆の徒よ、その反旗を翻し俺達を……。
「わかった。駒として扱ってくれて構わん」
「安心してください。殺させはしません」
……さて、どこまでが真実なのかな。その仮面は。
「看守達へはこちらから伝えておこう。よろしく頼むぞ。劣弱の天才」
「了解しました」
***
「本当にやるのかい?」
「ああ。放送室から音を飛ばそう」
「勝てるのか?今から策を練るんだろう?」
「ああ、行き当たりばったりにはなるが、君の魔法があればどうってことはない」
「……え?僕?」
「ああ。君の爆発力は便利だ」
そういえばこいつ、爆発が好きだったよな。この前も爆発による脅迫で何とかしようとしていたし。
「それで、僕はどうすれば?」
「看守方に事前準備は要らないですよ」
まじか、なんていう自信だ。
「というか、もう時間が足りません。行き当たりばったりで何とかするしかないですね」
自信じゃなくて虚勢だったのか。全く気が付かなかったな……。
「行けるのか?」
「行きます」
一度相対した結果なのか。何故か、こいつならばやってのけるだろうという確信から、笑みが零れてしまう。
「というか、そろそろ始まりますね」
「え?」
「俺は放送室に向かいます」
「あ、ああ。頑張れよ」
***
【各看守に告げる】
来た……零の指揮だ。
【総員、待機。主任看守、バトロ、リンドウは出口へ。篝とヒサメは寮にて合流】
ヒサメと合流か。僕達が兄妹というのを知ってのことなのかな。
「お兄ちゃあああああああああああん!!」
「おお!早いな、ヒサm」
「そりゃあそうでしょあのゴミに指示されるのはすっごいムカつくけどお兄ちゃんと合流できるなら?まぁ?許すかなみたいな?それに……」
めちゃめちゃ早口だな……。
【篝主任看守方、一階へ向かってくれ。バトロ主任看守がやられた】
「噓っ!?ゴミ看守が?」
我が妹よ、その呼び方じゃ区別つかないよ……。バトロ主任看守のカースは戦闘向きじゃないから仕方ないか。
指示通りに一階へ降りると、白髪で髪の毛の長い女子囚人がいた。そして、二本の短剣を所持している。
その白金色の刃は鋭く光り、〝青白い稲妻〟を放ちこちらに突っ込んできた。
それを認識した刹那、僕の胸元には短剣が突き刺さっていた。
「ぐ……だぁっ!?」
「……へ?お兄……」
僕の意識はもう、そこにはない。
「少し寝ててください。女看守さん」
「舐めるな!」
しかし抵抗も虚しく、ヒサメは短剣の柄の部分を使って気絶させられた。
第一次脱獄戦争、経過
首謀者:C組
断罪者:灯火 零
概要:篝【重症】
ヒサメ【気絶】
10『奪還作戦』
「準備は出来てるか?星」
「勿論です、カルネ先生」
「看守長様の策とトリネコの魔法が上か、それとも……」
「零ちゃんの策の方が上です。異論はありません」
「未来の言う通りだ。行こう」
星は未来の手を取った。
ここに二人の、いや、三人の〝革命者〟が再び結成される。
「ふっ……やっぱり零はすごい。さてと、私は私で〝報復〟を開始しようか」
カルネは不敵な笑みを浮かべた。
***
「え?これ……」
「僕達が闘った看守だ……なんで倒れてるんだ?」
すると、インカムから声が聞こえた。
【私だ、カルネだ。監視室に来たが、バトロっていう監視官がやられている】
「それってつまり、」
【さっきの轟音といい、私達以外にも脱獄しようとしてるクラスがあるってことだ】
「それに乗じるしかないな、未来。俺達は本来の作戦にあたろう」
「うん……!」
「まぁ、あの白髪の少女はアスター看守長に任せていい、かな。あとはC組の水色髪の方か……」
「はい、そこまで」
気が付けば、その男は後ろにいた。
「誰だ!?看守室に潜入するなんて」
足音一つしなかったぞ……確かこの顔、透明化のカースか。
「さて、と。僕はC組の空野 透司。君は確かB組の〝劣弱の天才〟だったね。ということはやはりカースは未覚醒だな。最弱をこんなとこに置くなんてな」
【私の生徒が最弱だって?】
「ん?どういうことだ?というかこの声は放送室から?」
星は透司を突き飛ばした。
「作戦成功……だな。星」
「おかえり。零」
「……ありがとう」
「もっと素直になれよ」
「ふ……」
零もそんな風に笑うんだな、誰もがそう思った。
時は第一次脱獄戦争勃発前……。
「どういうことだ、零。わざと失敗するって」
「脱獄するにはまだ情報が足りない。だから、俺が看守になるんだよ」
「お前が、看守に?」
「ああ、そうすれば合法的に情報を得られるだろう」
「まぁ、そうだけど、リスクが高すぎない?零ちゃん」
「捕まるだけなら簡単だ。向こうにトリネコ・キルハートという看守がいる。あいつは【服従させる魔法】を持っているんだ。発動条件は、半径五十メートルに五秒以上入ること。範囲内に入ったとしても、五秒に一人ずつしか服従させることができない。ってカルネ先生が」
「後は、範囲内に入らぬようにして騙すだけ……」
結果零は、トリネコと五十一メートルの距離を保ち、彼は篝を、ほかの看守たち共々騙しきった。はずだった……。
【ハートチェーン】再発
「がぁっ!?頭が割れる……」
「零!?」
トリネコと保っていた距離は、五十一メートル。だが、零が星達を突き飛ばした時、能力の効果範囲に入った。その時間は三秒。彼はトリネコ魔法の六割を受けた。
「うっ……ぐ……にげ……」
「零?」
「零ちゃん?」
零は、袖口に隠していた銃を取り出し、インカムのボタンを押した。
「こちら灯火 零。トリネコ主任看守の命の元、逃亡者を確保します」
トリネコの魔法にあてられた者は、その命に報いるべく、己のパフォーマンスの二百パーセントを発揮する。
「零!」
星の反射神経と運動能力を持ってしても、カースは未覚醒だが、潜在能力二百パーセントの零には届かない。零は星のみぞおちを殴打した。
「がぁ!?」
「目を覚ませ!零!」
カルネが負傷した星の前に立ち塞がる。
「時を刻め!針は私の掌に!」
時を操る魔法【IN MY HAND】
「……逃げられた、か。すみませんトリネコ看守様」
彼の目に、鋭い輝きはもうない。宿っているのは妖艶なピンク色だった。
「惜しかったな、お前たち、よくやったよ」
カルネ先生は未来と星の頭を撫でた。
「……まだですよ」
「あん?まだ?」
「星君の言う通りです。零ちゃんの策にはサブプランがあります」
「……ほう?もし成功したらもはや人間の読み筋を超えてるな」
「ちなみに、C組が脱獄しようとしてくれたから、予定が早まりそうです」
「というと?」
「条件は篝主任看守を止めることだったんです。あとは……」
そう言いかけたとき、教室の扉が開いた。
「私が協力します」
「誰?」
星と未来が不思議そうな顔をする。
「私はC組の白咲 玲奈です。そしてこっちが、」
「同じくC組の黒影 凪紗でーす」
「二人とも可愛い!玲奈ちゃんと凪紗ちゃんね!私はB組の氷室 未来。よろしく!」
「僕は黒宮 星です」
「私はカルネ主任看守。だが、脱獄肯定派だ」
「灯火君から話は聞いてますよ」
カルネは高笑いをした。
「ははは! あいつ、どこまで見据えて根回ししてんのか!」
「あの人の作戦は奇抜で狡猾……今回の仮脱獄作戦、彼ならもしかしたら成功させていたかもと考えると恐ろしいです」
「仮脱獄作戦?」
「彼は立場を利用して私達に連絡を取ったんです。【監獄に反旗を翻したくば力をみせよ。篝主任看守の討て】と」
「……繋がったな、星」
気が付いたカルネは高揚している。
「まさか!?」
未来も気が付いたようだ。
「零ちゃんのサブプランに必要な条件、篝主任看守の機能停止……」
星は覚悟を決めた顔をした。
「結局みんな、零の掌だったわけか……」
「あ、そうだみんな。なんで篝の機能停止がサブプランの攻略条件なんだ?」
星が物憂げそうな表情をして呟く。
「兄妹愛を利用するんですよ」
この場にいる生徒たち、B組の黒宮 星、氷室 未来、この教室にはいないが灯火 零。C組の黒影 凪紗、白咲 玲奈、空野 透司の六人を総じて【叛逆生】と呼ぶ。




