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EP9『アルターエゴ』

 9『アルターエゴ』

 

「起きてください、零看守。もう朝ですよ」

「んん……篝看守、すみません」

「頑張りすぎなんじゃない?夜遅くまで起きてたでしょ」

「いえ、新人なので気張らないと」

「体を壊したら元の子もないよ」

「そうですよね……篝主任看守は、どうやってその地位まで上り詰めたのでしょうか」

「やめてくれよそんな……妹のために頑張ってるだけさ」

「良い兄ですね」

「あはは、ありがとう」

 ……灯火 零。

 トリネコ主任看守の犬。元生徒囚。その実態は、看守長が言うにはカース人とギウス人のハーフ。そしてトリネコの魔法をここまでの強さで発動したのは初めてらしい。記憶すらも染めてしまう掌中服従の魔法……。【ハートチェーン】

「今度聞かせてくださいよ」

「なにをだい?」

「篝主任看守と、ヒサメ主任看守の過去」

「ああ……いいけど」

「ありがとうございます。楽しみにしときます」

「……」

 僕は一度、彼と殺し合いをした。その時感じた彼の覚悟。それは、本当に自らや仲間の命を賭してでもこの監獄を破壊しようとする圧倒的な言葉の威力、重み。それが彼には宿っていた。もう今は、そんな面影すら消えている。

「零看守はさ、なんのために頑張ってるの?」

「……脱獄をする愚か者に鉄槌を下すためです」

「へぇー……それは頼もしいね」

 仕方ないとはいえ、ブーメランが過ぎる。きっと記憶とは別に信念まで捻じ曲げられているのだろう。いいや、というかもしかしたら心すらも……。そんなことを考えている間も、彼はパソコンで作業を進めている。

 彼はめちゃめちゃ仕事ができる同級生みたいに思える。後輩なのにもう主任看守並の作業をこなしている。僕は零を足止めしたという功績と、幻影のカースの持ち主を破った件で成り上がった。零の足止めは殆ど他の主任看守のお陰だが。

「でも零看守はカースも魔法も持ってないでしょ?」

「脱獄犯の行動パターンなんて知れたことですよ」

 そりゃそうだ。彼が数百年ぶりの脱獄の首謀者だったんだから。

「前回の脱獄の指揮官は故人になったと聞いております。となるともう脱獄は当分起きないと思うんですけどね」

「そうだといいね」

 彼はせっせとパソコンを叩いている。さっき一週間分のタスク終わらせたの見たんだが、まだやることがあるのだろうか。

「ああ、篝看守。今の忘れてください」

「え?」

「C組……小鳥遊特別看守のクラスで脱獄計画が企てられている、と連絡がありました」

 なんで新人が連絡とってるんだろう。看守長の提案だろうか。

「小鳥遊特別看守?連絡取ってたんだ」

「あ、篝看守。一応特別看守についての説明聞いてもいいですか?」

「ああ、知らなかったの?」

 零はふふっと笑う。

「テストみたいなもんですかね。自分の知識の確認を、と」

 天才ってどこかズレてるよなぁ……。

「特別看守ってのは、脱獄などが起こらない用に生徒に紛れて、不審な行動を伝達する看守。諜報に向いてるカースや魔法の保持者かつ、容姿の幼い看守が選ばれるね」

「要するにスパイってことか。カース人も選ばれるんですね」

「そうだよ。残酷だけどね」

「どんな顔して働いてるんでしょうね……彼らは」

 僕は何も言えなかった。

「さてと、行きますか」

 零は神妙な面持ちで席を立った。

「どこに行くんだい?」

「看守長に用事があるだけです」

 新人が看守長に用事……か。

「いってらっしゃい」

 零は会釈をして部屋を出て行ってしまった。


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