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EP7『脱獄の時』

 7『脱獄の時』


「劣弱の天才……か、そういえばそんなこと言ってる奴がいたわー」

「そんなことより、奴らの出方は伺えた。これならパターン4で詰められるはずだ。不味いのは、星の顔を看守に見られたことだ。そして問題は、資料に載っていなかった看守長の魔法が分からなかったことだ。表に出てこなかったのか?」

「まぁそれは私も答えを知らないんだけどなぁ」

「どういうことだ? カルネ先生」

「言葉の通り、私も知らないんだよ、看守長の魔法はな」

 星が不思議そうな顔をする。

「僕へ放った魔法はたしか、インフェルノブラストとか言ってた……」

「インフェルノブラスト……恐らく扱った魔法は”爆発”だ。それならそいつは篝という名のはずだ。そして、さっき俺が話してたのは篝看守だ。状況からして、ほぼ同時刻だ」

「……二人いたのか?」

「そういう魔法があるということだ。これは非常に厄介な物だ。そいつの頭脳次第で、俺の戦略は一瞬にして瓦解する」

 零がそっと目を閉じる。

「ふーん。そこまで言うとはね」

「俺の想定はあくまで資料に載っている魔法一つずつを同時に相手する場合だけだ。それが例えば、氷結と爆発魔法の二つずつとか来られるとちょっと厳しい」

「お前みたいな頭脳派はイレギュラーが弱点だからなー」

 煽る様な態度だ。

「あと処理しきれる情報が多すぎると俺の頭が破裂します」

「お前にしては人間らしいこと言うじゃねえか」

 カルネ先生がケラケラと笑う。

「どんな魔法使いも分身出来るとなっては、組むべきパターンが多すぎる。時間が足りない……。なるべく全てのケースに対応できる最小限のパターンを用意しよう」

「……リスクは?」

 珍しく、零の喉元に言葉が詰まる。

「……リスク無き戦略にミライは無いんだ」

「零お前、少し謙虚になったみたいだな」

 昔と変わった親友を見てニコッと笑う。

「はぁ?何を言ってるんだ、星」

「戦略を伝える時の大口はどこ行った?」

「あれは心理効果を狙ったまでだ」

「心理効果?」

 零はこくりと頷く。

「大声かつ強い口調で話されると、人は従うだろ」

「だからカースで音量を……」

「隣の部屋にどのくらい音が通るかわからなかったからな」

 星が意外そうな顔をする。

「案外細かいところまで考えてたんだな……ごめん怒って。零一人に戦略を任せているのに」

「ああ、別に良いんだ。俺はそんなの気にしない」

 零はただ一点を見つめていた。

「……寝てないんだろ?」

「2時間は寝てる」

「死ぬぞお前!もっと自分の体を労れよ」

「愚か者が。そんなことしてたら時間が足りないんだ」

「……お前は何をする気なんだ?」

「脱獄を決意した時から、俺には目標が出来てしまった」

「零ちゃんは前まで脱獄なんて興味なかったもんね」

 未来が付け加える。

「命は有限だからな」

「なのにお前、リスクを負わせるんだな」

 星がいつもの調子で皮肉る。

「出来るだけ少なく済ませるよ」

「いつ決行するんだ?」

「今パターン五十四まで組めたのだが……もうちょっとスマートかつ低リスクな戦略がありそうなものなんだがな……」

「待て待て待て、この話してるうちに組んでたのか?」

 星だけじゃなく、カルネ先生や未来まで驚いている。

「まぁ三十個程度かな」

「やっぱ人間じゃねえわ。コイツ……」

「「同感」」

 カルネ先生と未来が口を揃えて言う。

「星」

 ん?と星が零の方を向く。

「明日、決行する」

 その場にいた三人が驚いた。

「死ぬなよ」

「そうならないように戦略を練っておけ」

「無論だ」

 ――分身の魔法は、資料になんてなかったはずだ。となるとあれは、看守長なのか?

 

 ***


 ――翌日。

「これより、クラスメイト全員での脱獄を決行する」

 教室がざわついた。誰もが夢のまた夢だと思ってたから。それは、零達でさえも。

「作戦は星と未来の二人に行ってもらう」

「たったの二人……?」

「誰かさんが囮作戦は駄目って言うからな……」

「とは言え流石に少なすぎるんじゃ」

「今回は全員脱出させることが最終目標だ。よって、全員インカムと未来の氷剣を着用してもらう。そして今回は、殺害まで視野に入れてもらう。辛い役目だが、この役目は星に命じる。他生徒は襲撃された場合のみ殺害を許可する」

「本当に出来るのかー?」

「貴女の六百年生きた知恵に俺の知略は敵わないのでしょう。ですがこれは言っておきます」

「なんだ若僧。言ってみろ」

「犠牲を伴わずして結果は生まれない」

「私の尊敬するかの戦略家はこう言ったよ」

「……ほう」

「犠牲を生まない戦略を考えるのが戦略家の仕事だ」

「その戦略に応えるのが兵士の役目だ」

「な……お前……」

「もし俺がその戦略家なら、きっとそう続けます」

「ああ、そうか。好きにしろ……」

「作戦概要は、未来の水蒸気爆発による監獄上階の爆破と恐喝、人質作成。対象に青緑色の看守を選ぶ」

「選ぶって言ったって、どうやって」

「誘導するんだよ。それが戦略だ」

「まぁ、とっととみせてくれや、奇跡を。みんなもそれを望んでいる」

「奇跡がそう簡単に起きたら苦労しない。イレギュラーが発生しない限り、すべて計算だ」

 そう言うと、零は隣の教室へ入って行く。

「少し待っててくれ。最後の準備がある。星、手筈通りに」

「了解」


 ***


 私はヒサメ。ヒサメ・アルテミス。兄以外のすべての人間を”ゴミ”だと思っている。特に女の子。

 事が起きたのは、見回りをしていたある日のことだった。

 ……ん?あれがお兄ちゃんの言っていた氷の剣を持った”ゴミ”か。すぐに始末してやりましょう。

「おい、そこで何をしている……待て!」

 私は氷の剣を持った”ゴミ”を追い、階段を駆け降りていく。

 しかし余りにも彼の足が速すぎて、距離は一向に縮む気配がない。仕方なく私は発砲する。彼は壁や剣を駆使して弾丸を振り払う。そうした末に、空き教室に逃がしてしまった。

私は勢いよくその教室の扉を開け、右手に銃を構える。

 扉を開けた直後、私は右手を掴まれ、不意に銃を落としてしまう。

「ようこそヒサメ・アルテミス看守、咎人達の住む檻の中に。お兄様はお元気ですか?」

 お兄ちゃんの名前を”ゴミ”が呼ぶなという憤怒は、私の手足が凍らされた冷たさによって冷静さを取り戻す。

「お前、よくも……」

「しばらくそこで待っていろ」

 どうする……手を凍らされてしまっては、通信機器を使えない。

「今だ未来、地点Aを爆破しろ!」

 とある男子生徒の声を受け、「未来」と思わしき生徒が廊下に出る。その直後、心臓を揺るがすかのような爆発音が轟いた。地震でも起こったかのような振動が全身に響く。

「ああっ」

 私は揺れに耐えられず転んでしまった。

「お兄ちゃん……”ゴミ”共を……排除……」

 そのまま意識が暗闇の向こう側に吸い込まれて行った。

 

 ***


「今だ未来、地点Aを爆破しろ!」

 激しい轟音と共に、天井が崩落する。

「うわっ!?」「なんだ!?」

 指示した地点を爆破すると、崩れた足場から看守たちが降ってきた。人が降る場面を目撃したは初めてだ。

「やはりそこが看守室か……予想通り。特徴的な青緑色の髪の看守、見回り時間を覚えておいて正解だったな。資料を見るにヒサメ看守はブラザーコンプレックス。というか資料に好きなものを記載するな、しかもお兄ちゃんとか書くな……」

「さて、後は交換条件で大好きなお兄様を支配してやる」

 そう考えていた時だった。恐れていた事態が発生した。

「まずい、星!」

「了解!!」

 教室に向かってくる人影は、紛れもなく看守だった。しかし他の看守とは違い銃じゃなくて剣を持っている。恐らく木刀なのだろう。

「なんでこんなに早く……一定の範囲に星の幻影を見せているのはず。そもそも無駄に高いこの場所から不意打ちで落としたのに何故生きている?」

【星、相手の魔法は”瞬間移動”だ】

「瞬間移動!? ……やってやる」

「わたくしはリンドウ。看守として貴方を迎え撃つ。黒宮 星、ご覚悟を」

 そう言って、星とリンドウ看守は刃を交える。数回、互いに空を切る。両者の実力は伯仲している。互いの命運を賭けて鎬を削りあう。

「こいつ、強い……」

「監獄育ちの子供とは思えない強さだな」

 互角の両者勝敗は、事前準備によって明暗を分けた。

【星、間合いを取れ】

「……わかった」 

 星は身軽に後方へ跳んだ。

【初撃は間合いを詰めて真横に斬ってくる。回避しつつ隙ができた左半身に叩き込め】

 そう、零が鋭いのは相手の癖や細かい動きも同様だ。

「喰らえ!」

 星はがら空きになった脇腹に渾身の一撃を叩きこむ。

「ガアッ!?……ッハァ……」

 余りの痛みに、リンドウは吐血した。お腹を抱えて俯せになっている。

【星、そのまま廊下を直進して校庭に行くぞ】

「え、みんなは?」

【とりあえず二人だけで行くぞ。あんな大人数で抜け道すら無いのに脱獄なんか出来るか。未来と俺は先に行っている】

「ああ、わかった」

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