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EP6『劣弱の天才』

 6『劣弱の天才』


【星、インカムを付けろ。氷の剣は持ったな】

 そう言われると、星はカルネ先生からインカムを渡された。

【付けたか。なら廊下に出て右に進め。そしたら付近に階段があるはずだ。3階に上がったら教えてくれ】

「上がったぞ、零」

【よし、ならば直進した部屋に放送監視室がある】

「ここか!」

【鍵は開けてある】

「開けて……?」

 その言葉に、少しだけ引っ掛かる。

【そのモニターを全て剣で破壊しろ】

「了解した」

 そう言うと星は、感情に任せてモニターを破壊し始めた。

【もしかしたら刺客が来るかもしれない。警戒しておけ】

 そう言った矢先、破壊音を聞きつけた看守がやって来た。

「何をしている!?お前!」

「看守!?まずいな」

「こいつモニターを……ただじゃおかないぞ、懲罰房行きだ」

「しょうがない、突破する!」

 星は不溶の氷剣を構える。

「氷の剣?囚人共が……調子に乗りやがって!」

 すると、その看守は人差し指を前に出す。

「爆発魔法【インフェルノブラスト】」

 一瞬にして、室内が熱気に包まれる。溶けないはずの氷の剣から、雫が零れていく。

「焼き尽くせ。俺の魔法よ!」

 その指先に、火球が灯る。眩い黄昏色の閃光を発し、刻々とその火球は肥大化し、全てを飲みこんでいった……。

 

 ***


「あ、起きた!」

 未来がパーッと嬉しそうな顔をする。

「零は……?」

 心配と若干の怒りを感じる声色だ。

「まだ帰ってきてないよ。隣の部屋にもいなくってさ」

 未来が泣きそうな顔をする。

「そっか……」

 すると、教室の扉が開いた。

「帰ってきたー!零ちゃーん!」

 未来が零に抱きつこうとする。しかし、それを零は身軽にかわす。

「なぁ、零!あれはどういう……」

 その言葉を遮るようにカルネ先生が叫ぶ。

「零!これはどういうことだ!」

「俺がどういう戦略を建てるかわからないそっちが悪い」

「……っ!」

 カルネ先生にとって、その言葉は図星だった。カルネ先生はある程度の線引きをしてしまったからだ。”全員で脱獄する”というゴールライン。そこを守っていれば事実上、零は何やってもいい。それに気付いたカルネ先生は激しく後悔した。

「……待て、お前はどこにいたんだ?」

「流石の先生でもお気づきになられませんでしたか」

「ああ、隣の空き部屋にあったのはこれだからな」

 それは、小さなカセットテープだった。

「このテープは私が貸したものだ。まさかこんな使い方をするなんてな。音量がやけに大きかったが、あれはもしかしてカースか?」

 零が澄ました顔をする。

「ご名答。叢雲 魁斗君のカース:【情報伝播】です」

 そういうと、教室の後ろの方を指さす。少しミステリアスで無口な子だ。

「……で?お前はどこにいたんだ?」

「トイレです。三階の」

 大半のクラスメイトが頭にハテナを浮かべている。

「因みに三階は、看守寮や監視室がある階だ」

 カルネ先生が補足する。

「カセットテープ……僕にインカムで指示してたのも、全部録音だったと!?」

「ああ、その通り。お前の歩幅からおおよそのタイミングを予測しただけだ」

「だけって……」

 星が呆れた顔をする。もはや自分の命を危機に曝したことなんて気にかけていない様子だ。

「脱獄するために必要な情報は”相手の出方”。言わば戦略です。それを探るための火災報知機です」

 まだ、大半のクラスメイトが頭にハテナを浮かべている。

「火のない所に煙は立たない。噂は、たった一つの微量な事実から生まれる。火災が起きたとなって監視する魔法を持ってる看守が、カメラを見ないはずがない。それは自らの力の利便性故です。」

 カルネ先生がこくりと頷く。

 「カメラを観ても火事なんて起きていない。真っ先に脱獄を疑うでしょうね。そして、俺は火災報知機を鳴らし、近くのトイレに入った。目聡い追手が来てもいいように、星のカース:【幻影】を使った」

「僕に幻影の軌道を作らせたのはそれか……」

「その隙に、手薄になった監視室のモニターを星に破壊してもらう。追手が来たのはまぁ予想の範疇だった」

 すると、カルネ先生が怒鳴る。

「予想の範疇? どういことだ」

 「……それも含め、全てお話ししましょう。俺が火災報知機を鳴らして、トイレにいる間、俺の存在は消えるんですよ。星のカースは自らの幻影がこの世に存在する場合、幻影の対象はあらゆる人やカメラから存在を阻害される。それを利用すると、火災報知機はひとりでに鳴り出す。そこに脱獄犯はいない。

 かつ、トイレの場所の都合上、看守達がどうやって犯人を捕まえようとするか知ることができる。俺が帰るときも、星に幻影を作らせて存在を隠す手はずだったが、星が気絶したみたいだな」

「ああ、そうだ。お前の馬鹿みたいな戦略のせいでな」

「いいや? 俺は彼を見殺しにする気はありませんでしたけど?」

「今更何を言ってやがる」

「だって、カルネ先生が助けるじゃないですか」

「……は?いやまぁ、確かに私は助けたが」

「そう。この中で生徒に死なれたら一番困るのはあなたです。生徒に危害が及ぶとなれば、魔法を使ってでも、あなたは助けます。俺にはその確信があった」

「こいつめ……星は友達じゃないのかよ」

「親友ですよ。裏を返せば、親友”だから”彼を選んだ。並外れた身体能力と、俺への信頼。この二つが今回の戦略の前提条件だった」

「それで星を失ったらどうするつもりだったんだ」

「ん?先生自分で言ってたじゃないですか。この監獄の看守たちに殺意はない。だから実弾を使わないんでしょう?だとしたらまだ助けられます」

「正直俺は、星か未来、どちらかが俺の手札にあったら脱獄を成し遂げられる」

「え……」

 未来が頬を赤らめる。

「わかったわかった。で、星が寝てる中お前はどうやって帰ってきたんだ?」

「簡単です。普通にトイレ行ってたフリしてましたけど」

「……は?そんなんで騙せるわけ、」

「監視カメラは壊れてるんですよ。看守は授業中の見回りはしない。監視の魔法なしに、僕の真実を捕捉できるわけないじゃないですか」

 言われても想像のつかない戦略を、生徒達は黙って聞いていた。

「あ、そういえば俺がトイレから出るときに、こんな話を聞いたんですよね」

 そう言って、零は再び話をする。

 

 ***

 

 バトロ主任看守との話を終えて、篝看守は看守寮へと戻ろうとする。すると、トイレの水を流す音が聞こえた。出てくるのを待ってみる。トイレから出てきたその生徒は、先程の幻影とよく似ていた。

「ちょっと、君、そこで何してたの?」

「何って、トイレですけど……二階が満員だったので仕方なく。すみません」

「ああ。そうか。ところで君、名前は?」

「灯火 零です」

 その名前は異名と共に、脳裏に刻まれた記憶から蘇る。

「君が……”劣弱の天才”か」

 すると零は不思議そうな顔をする。

「なんですか?それ」

「君の二つ名だよ、凄いね。試験満点だなんて」

「恐縮です」

「カルネ主任看守も喜ぶね」

「そうですね。ところで、貴方の名前は?」

「ああ、僕は篝。最近ここに異動してきたんだ」

「なるほど、篝看守、よろしくお願いいたします」

 火災報知機、劣弱の天才、何か怪しい感じがした。あとでバトロ主任看守に伝えておこう。

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