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沖田総司と土方歳三の静かな一夜の邂逅

作者: かずみん
掲載日:2025/12/31

千駄ヶ谷、植木屋の離れ。


湿った夜風が、雨戸の隙間から春の終わりを告げる匂いを運んでくる。

絶え間なく続く咳の合間に、

沖田総司はふと、人の気配を感じて目を開けた。


「……また、夢ですか」


枕元に、黒い装束の男が座っている。

洋装に身を包み、腰には愛刀・和泉守兼定。

かつての「鬼の副長」そのものの姿だ。


「夢にしちゃあ、面構えが悪すぎますよ。土方さん」


土方は答えず、懐から紙包みを取り出すと、

沖田の枕元に無造作に置いた。


「金平糖だ。お前の好きな、安物だがな」

「……本物だ」


沖田が細い指で包みに触れる。

カサリ、と乾いた音がした。


「宇都宮へ向かうと聞きました。

 こんなところで油断してていいんですか?

 新政府の刺客がいるかもしれないですよ」

「抜かせ。これまで、どんだけ死線をくぐり抜けてきたと思ってる。

 殺気を放つやつがいたら、すぐに気づくさ」


土方は不敵に笑い、行灯の火を見つめた。

その横顔には、戦火を潜り抜けてきた男特有の、

深く鋭い影が落ちている。


「総司」

「はい」

「……長生きしろ、とは言わねえ。

 だが、勝手に死ぬな」


唐突な言葉に、沖田は一瞬だけ目を見開いた。


「死ぬのは勝手でしょう。僕の命なんですから」

「いいや、お前の命は試衛館で俺が預かった。

 返すまでは、俺の所有物だ」


沖田は静かに目を閉じた後、部屋の外に目を向ける。


「相変わらずですね、土方さんは」


土方は奥に置かれている刀を一瞥した後、

沖田の傍らに寄り添うように座る。


「試衛館の頃を、覚えてるか?

 お前がいつも、俺の稽古を邪魔してくるんだよな。

 『土方さん、もっと優しく教えてよ』って、

 甘えた声で言ってきて」


沖田がくすりと笑う。

咳き込みながらも、目を細めて懐かしむ。


「土方さんが厳しすぎるんですよ。

 でも、あの頃は楽しかった。

 近藤さんたちと、毎日剣を振って、馬鹿みたいに笑って……」

「そうだな。お前はいつも、俺の弱点を突いてくる。

 あの剣の冴えは、ある時期から一気に伸びたよな。

 総司、俺はお前がいればと思うときもあるぜ」


土方の声に、珍しい優しさが混じる。

沖田の頰が、わずかに赤らむ。


「土方さん、そんなこと言うなんて珍しいですね。

 『鬼の副長』らしくないですよ」

「ふん、今日は特別だ。お前に会うのも…

 久しぶりだからな」


土方は立ち上がり、背を向ける。

その背中が、以前よりもずっと遠く、大きく見えた。


「俺はこれから、宇都宮へ行く。

 これから戦場は北になるかもしれん。

 近藤さんの……局長の遺志を、俺たちの誠を、

 最後まで叩きつけてくる」

「北ですか……」


沖田は何かを言おうとしたが、こみ上げる咳に阻まれた。

激しく肩を揺らす沖田の背を、

土方が大きな手で一度だけ、強く叩く。


「待っているぞ。お前とは、長い付き合いだしな」

「土方さん……」

「あばよ総司。次に会うときは…戦場でな」


窓を叩く雨音にかき消されるほど、小さな声だった。


土方の姿は、かき消えるように闇へと溶けていった。

後に残されたのは、甘い金平糖の包みと、

畳に残った雨滴の跡。


沖田は、金平糖を一粒口に放り込み、天井を見上げた。


「……嘘つき。

 戦場でなんて、もう会えないことくらい、知っているくせに」


金平糖は、喉が痛くなるほど甘く。

そして、優しく涙の混じった味がした。




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