#閑話 「変身ヒーロー」になろう!
――よい子のみんな、知っているかい?
魔族領域に突如として現れた、正体不明の守護者の存在を!
強化アーマーに全身を包み、白いマフラーを棚引かせて現れる!
漆黒の仮面で涙を隠した、慈悲と信念の孤独な戦士の存在を!
人知れず戦う「正義の執行者」の存在を!
その剣に助けられた人々は、彼のことをこう呼ぶ――
――黒曜の守護者!
――第五金環騎士「オブシディアン」と!
――魔都に本店を構える精肉店「マグナミート」の店頭ポスターより引用
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【閑話】「変身ヒーロー」になろう!
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「動くんじゃねぇっ!これに金を詰めろ!ありったけだ!」
麻袋を銀行員に渡す同族の男性の集団。
私、赤魔族の魔導技師「クリム」は、青魔族の同僚の「アオーニ」さんと共に、銀行の受付で、頭に手を当て跪いていた。
給料日を避けた三日後。今月分の生活費を下ろすため、東魔銀行にやって来ていた私だったが、なんと間が悪いのだろう。
よりにもよって、今日、この地で、「銀行強盗」なんかに遭遇するなんて。
魔王陛下の御膝元である魔都の治安は安定している。このような悪漢が現れることなど稀だ。
しかしながら、今の私は王立魔導研究所から魔の民の領地への出張中。この地も四天王のエミリア様の領地で、比較的治安がいい方ではあるのだが……まったくもって運が無いとしか言いようがない……。
「大変なことになりましたね、クリムさん」
「……アオーニさん」
……彼らの持つ武器は弩杖。引き金を引くだけで敵を殺せる魔法の武器。エミリア様の命でこれを研究解析したこともあったが、その「簡便さ」は閣下からも危険視され、魔王軍においての採用は見送り中という。
強盗団は入店と同時にこれを発砲。煌びやかなシャンデリアを破壊し、その威力を周囲に知らしめ、行員を脅迫。ありったけの金貨を、証券を、袋に詰めさせている。
表には陸騎龍が待機している。逃走の足だ。
身なりから見て彼らは裕福の出というわけでは無いだろうが、あまりにも犯罪の準備が整っている。これはきっと、エミリア様のおっしゃった「犯罪組織」の手引きによるもの……なのかもしれない。
「……おいっ、早くしやがれ!治安隊が来ちまうだろうが……っ!」
強盗たちは、弩杖とは逆の手に、回収した麻袋を担いていく。そして、ある程度の袋に詰め込んだところで、見張り役の男が出入り口を――
「変身――」
――瞬間、強盗までも含めた誰もが、その声がする方向を、高窓の擦り硝子に目をやった。
そこに映る人影は、黒い何かを纏うように、そのシルエットを変えていき――
窓を破り、その男は飛び込んできた――!
金の意匠のあしらわれた、黒紫の艶やかなの鎧と、一対の歪曲した角の生えたフルフェイスの兜。
白いマフラーを棚引かせたその男が、ガラスを割って行内に飛び込み、暴漢の一人を蹴り飛ばす!
呆気にとられる銀行の客と強盗たち。
そんな中で、一人の少年が叫ぶ――!
「おっ……『オブシディアン』だ!助けに来てくれたんだっ!」
――行内にざわめきが走る。
第五金環騎士「オブシディアン」。
数か月前に、四天王に加わる形で現れた、第五の「魔族領域の剣」。
そのミステリアスな存在感で、今や魔都は、彼の話題で持ち切りである。
なんでも、彼の人気にあやかって、肖像版画をおまけにした腸詰を販売していた精肉店なんかは、その収益をもって魔都の外にも支店を出しているのだとか。
……主な購買層は男児である。
鎧の男は、手元で編んだ「影の手錠」で、気絶した男を後ろ手に拘束した。その姿を呆然と眺めていた強盗たちだったが、我に返ったように弩杖を彼に向けた!
「な……なんだぁっ?この不審者野郎っ!」
強盗に不審者呼ばわりされた彼は、少し肩を落としたように見えた。
……そんなことに構うことはなく、強盗の一人の手元から、轟音と共に魔力の弾が射出される!
――が、その魔力弾は、むなしく床に穴を開けただけであった。
オブシディアンは一瞬の屈伸から瞬時に強盗との間合いを詰め、踵落としでその先端を床に向けたのである。
状況を理解できていない強盗の顎に、籠手の掌底が入り、意識を失うように膝から崩れ落ち、オブシディアンに拘束された。
「――『獣形遁法』だっ!」
アオーニさんが叫び、私はびくりとした。
「獣形遁法は獣の民領域発祥の体術!流線状の滑らかな筋肉の操作で、さながら猫科動物のように柔軟な移動を、回避を、攻撃を、可能にするっ!獣王ノア閣下も使用する、魔族領域最強と名高い究極の徒手空拳流派っ!」
……アオーニさん、ちょっとばかり、説明口調すぎないだろうか。
戦いの行方を見守っていた市民も、オブシディアン以上に、彼の方に気を取られているように感じる……。
「そこまでだぜ、黒仮面っ!」
金庫の奥から続々と現れる強盗の仲間たち。
彼らは、弩杖を構え、一斉に引き金に指をかける。
さしものオブシディアンも、一度に彼らを制圧することはできないだろう。
「死ねっ!」
「オブシディアン――っ!」
少年の叫びと同時に、強盗の弩杖からオブシディアンに向けて、魔力弾が斉射された。
「森羅万世流」
手元で編んだ影で、オブシディアンは右手にレイピアを作り出し――
「――陽炎」
魔力弾の射出とほぼ同時に完了する剣技は、まさに「目にも止まらぬ早業」。
強盗団が引き金を引き切ると同時に、魔力弾は「彼」ではなく「天井」に着弾していた。さながら、狙撃の軌跡を剣で逸らされたように。
「――飛燕」
そして、強盗たちが状況を理解する間も与えず、返す刀で放った剣閃は、強盗団の弩杖を水平に裂く!
「なっ……」
困惑と同時に、近づいたオブシディアンの蹴りで、二人の強盗が倒れ伏せる。
オブシディアンは、影で枷を作り彼らを拘束する。
「ち……、ちくしょおぉっ!」
最後の一人が、麻袋と弩杖の残骸を投げ捨て、表に駆けだした。
そして、陸騎龍によじ登り、その場からの逃走を――
――「ぴゅうっ」という口笛の音。
それにつられるように、騎乗者の操作で今にも走りだそうと立ち上がっていた陸騎龍は、その場に伏せて、動かなくなった。
「なっ……おい、動けよっ!おい!」
その頭をひと撫でして歩み寄る、黒い影。
――オブシディアンである。
「……躾と愛情が不十分だったな。もう逃げ場はない。大人しくお縄につくといい」
「う、うう……」
強盗は、狼狽していた。
仲間を全てやられ、逃走の足も機能しない。もはや打つ手は何もない。
「う、うわああああぁぁっ!」
脇に挿したナイフを抜いて、オブシディアンに向かって駆けだした。
黒い鎧に突き立てられるナイフ。
それを見切り、右腕を絡め取るように腕を回し、脇でそれを拘束。
そのフルフェイスの兜に、強盗が恐怖の視線を送った瞬間、オブシディアンの掌底が彼の顎を打ち抜き、彼は膝から崩れ落ちた。
黒い鎧に、白いマフラーが棚引く。群衆は彼の勝利に歓喜し、その名を呼ぶ。
彼は、我々を振り返ることなく、治安隊がこの地に到着するより先に、その場で跳躍し、屋根伝いに走り去っていった。
かくして、武装強盗団は、ただ一人の男に、第五金環騎士「オブシディアン」に制圧されたのであった。
「金環戦士オブシディアン……いったい何者なんだ――?」
去っていく「謎の英雄」の背に向けて、アオーニさんはいささか白々しい疑問を呈していた。
* * *
「お疲れ様です、勇者様」
「…………」
影で編んだ黒い鎧を解いた俺に、猫耳をつけたエリスが、汗を拭くための手ぬぐいを差し出した。
俺はそれで顔を拭いた。……というか、顔を隠した。
「……めちゃくちゃ、恥ずかしい」
「なっ……なんでですか!?格好良かったですよ、勇者様の活躍っ!」
「だって、まさかこの歳で、衆目の場でヒーローごっこやることになるなんて、思わなくて……」
「ごっこ遊びじゃなくて、勇者様は『勇者』ですっ!もっと、自信を持ってくださいっ!」
……異世界には、変身ヒーローの概念ないからなぁ。
この言いようのない恥ずかしさのニュアンスは、上手く伝わる気がしない……。
俺たちは、「道化師シュリンプ」としての興行のために、エミリアについて魔の民領域を来訪していたんだけれど、そこでたまたま銀行強盗に遭遇してしまった。
弩杖で武装していた辺り、恐らく奴らも「貴種選民独立自治同盟」とは無関係ではないだろう。この件は、尋問で情報を改める必要があるだろうし、早めにエミリアに共有しよう。
「あっ……お疲れ様です、カインさん」
路地裏で他愛のないやり取りをする俺たちの前に、赤魔族と青魔族の二人の男性が現れた。
王立魔導研究所の、クリムさんとアオーニさんだ。前に、魔導機関の自動車の開発をしてて、痔の心配をした方と、その同僚の方だ。
クリムさんは、俺の「オブシディアン」としての活動に際して、俺の影魔法で編む鎧のデザインや機能について、補助的に運用可能なデバイスを作って頂いた方だ。
……けど、特に彼らと会う予定はなかったんだけど、むしろ、なぜこの地に彼らが?
「私たちは、魔導技師としての出張で、故郷であるこの地に帰ってきた形でして、そこでたまたま強盗に遭遇した感じですね」
それは、お気の毒に……。
運が悪いとしか言いようがないが、まあ俺の働きで、顔見知りである彼らの安全が確保できたのだから、悪くもないか。
「……いやぁ、スゴいですよ!カインさん!四天王仕込みの各種戦闘技能!変幻自在の武器戦闘に、ミステリアスな鎧姿!そして、棚引く白いマフラーの外連味!戦いを終えたら、誰にもその正体を悟られることなく、一人去っていく……まさにこれぞ、誰もが憧れる英雄の姿です!」
すごい熱量だな、アオーニさん……。
たじたじとしている俺たちに、クリムさんが間に入るように、彼を抑える。
「すみませんね、カインさん……。ご存じの通り、彼、アーマーの開発の頃からちょくちょく関わってたんですが、その過程ですっかり『オブシディアン』のファンになってしまったようで……戦いの最中に気を散らしてしまったでしょう……」
「い、いえ……子供たちの多い場所では似たような感じですし……」
「そう!子供たちに希望を与える英雄として!あなたの雄姿は魔族領域全土に知られるべきなのです!しばしお待ちください……!私の手で『映像記録端末』と『映像受信再生装置』を実現し、各家庭の子供たちに夢を届けて見せます!」
え、えぇ……?全国ネットで放映でもすんの……?
それだと本当に、日曜朝の変身ヒーローのアレみたいになっちゃうじゃん……。
「す、すみませんカインさん……ほら、挨拶も済んだんですし、行きますよ。アオーニさん」
クリムさんに引き摺られるように去っていくアオーニさん。
……王立魔導研究所の手伝いしてた時、映画まわりの話をした時に、雑談として簡単に「特撮」について触れた人が、あの人だ。
この世界は、まだ映画文化なんてないわけで、ましてや特撮なんて刺激的な娯楽は、オーパーツみたいなもんだ。あの人みたいに、大人になってからお熱になると、大変だろうなぁ……。
……なんてことを考えてるのが、変身ヒーローの中の人やってる張本人なんだから、「どの口が」って感じだよな。
アーマー装備の起動詠唱を「変身」にしたあたり、俺も大概「ごっこ野郎」なのは否定できないわけで……。
スーツアクターなら「子供たちに夢を与えるための演技」と納得できるけど、これ、ガチの武力行使や社会貢献活動としてやってるヤツだからなぁ……。
「勇者様。ちゃんと、あなたの努力を見てくださる方も、居るんですよ」
……エリスの純粋な笑顔がまぶしい。
道化師と違って「恥ずかしいことをやってる自覚があるのに、周囲に恥ずかしさを指摘してもらえない」ってのは、それはそれで、こう、いたたまれないな……。
……正直、楽しんじゃってる部分も自覚してるけど、だからこそ一層恥ずかしい。
いつかは、変身ヒーロー以外の、もうちょい大人らしい、落ち着いたお仕事に就きたいです……。
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【閑話】「変身ヒーロー」になろう! おしまい
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第二部プロローグの続き、ちょっと未来の一幕でした。
修行の終着点、変身ヒーロー「オブシディアン」誕生は近い……!
次回からは再び、カイトの修行編に戻ります!
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(※追記)
身長比較キャラデザインについて、四天王を追加しましたので、イメージの補強としてよろしければご覧ください!
https://ncode.syosetu.com/n6585li/55




